2017 Fiscal Year Research-status Report
末梢神経傷害後の組織酸素ダイナミクスとシュワン細胞機能調節機構の解析
Project/Area Number |
16K10990
|
Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
氏家 悠佳 (小林悠佳) 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第五部, 流動研究員 (20511562)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 髄鞘化 / 末梢神経 / シュワン細胞 / HIF-1alpha / in vitro myelination |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では末梢神経における髄鞘化制御を担う候補分子の探索を行い、神経傷害後の神経の再生に繋がる治療薬標的分子を提示することを目指す。これまでシュワン細胞を用いたin vitro 実験より末梢神経の髄鞘化に重要とされるシュワン細胞においてミエリン関連遺伝子の発現と核内転写因子である低酸素誘導因子(HIF-1α)の発現には相関性があることを明らかにしてきた。神経の発達に伴いシュワン細胞の分化過程でミエリン関連遺伝子の発現変動があることが知られているがHIF-1αについては明らかでない。そこで、発達期の末梢神経髄鞘化の過程でHIF-1αの発現が変動するかをin vivoで検討した。ミエリン化開始期(生後2日)、シュワン細胞が神経軸索に沿って突起を伸ばす前ミエリン過程(生後10日)、多重層構造をもつミエリンが形成される過程(生後3週間)、ミ形成完了(生後10週齢以降)の各ステージのマウス坐骨神経を採取し、HIF-1αのタンパクおよび遺伝子発現変動を測定した。HIF-1α mRNAはミエリン化開始期からミエリン形成完了を通して発現がほぼ一定であるのに対し、タンパクはミエリン化開始期で発現が安定し、S100β陽性シュワン細胞に局在していた。さらに、生体内の髄鞘化を模倣したマウス胎仔後根神経節のexplant cultureによるin vitro myelinationを用いて発達期の末梢神経髄鞘化に対するHIF-1αの安定化の影響を評価した。低酸素培養またはプロリン水酸化阻害によるHIF-1αの安定発現によってミエリン形成が促進された。したがって、HIF-1αの発現がシュワン細胞の分化誘導に重要な機能を果たし、発達期の髄鞘化に対して促進因子として働くことが示唆される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究仮説である末梢神経髄鞘化に対してHIF-1αが促進因子として作用する可能性をサポートする結果が得られている。また予備実験として、病態モデルの末梢神経におけるHIF-1αの安定発現も観察しており、本年度の課題である病態時の再髄鞘化におけるHIF-1αの機能についても検討を進めることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
発達期の髄鞘化と神経傷害後および末梢神経脱髄疾患の再髄鞘化におけるシュワン細胞の分化過程で相同性が報告されているが、詳細は明らかではない。本年度は病態モデルを用いて、再髄鞘化におけるHIF-1αの役割について検討する。再髄鞘化が認められる神経挫滅モデルまたはPmp22Tr-Ncnpマウス(I型シャルコーマリートゥース病モデル)を用いて、HIF-1αを安定(HIF-1α安定化剤またはHIF-1α変異体の神経局所過剰発現)した時に再髄鞘化の促進が得られるかについて坐骨神経の組織化学的解析および運動機能の行動学的解析により評価する。 また、シュワン細胞のHIF-1αが直接髄鞘化に影響を与えるかについて検討する。シュワン細胞と神経細胞の共培養系を用いたin vitro myelinationを用い、髄鞘化に対するシュワン細胞のHIF-1αの過剰発現およびノックダウンによる影響を評価する。 さらに、シュワン細胞のHIF-1αが髄鞘化を誘導するメカニズムを調べる。一般的にHIF-1αは遺伝子プロモーター領域の低酸素応答エレメントに結合し遺伝子転写を促進させる。HIF-1αがどの遺伝子プロモーターに結合して遺伝子発現調節を行うかについてクロマチン免疫沈降で検討する。ミエリン関連遺伝子のプロモーターの直接的な転写因子となる可能性を調べるため、promotor assayを用いて評価する。Mbpまたはkrox20のプロモーター領域にルシフェラーゼを組み込んだvectorをシュワン細胞に導入し、HIF-1αを安定発現させることでプロモーター遺伝子の発現が変化するかを測定する。
|
Causes of Carryover |
平成28年度に出産・育児のため研究を休止し、全額を平成29年度に繰り越しをしたため残額が発生した。残額は翌年度の生化学実験の試薬等に用いる計画である。
|