2017 Fiscal Year Research-status Report
FLCN遺伝子および細胞内代謝経路に着目した腎癌腫瘍化機構の解析研究
Project/Area Number |
16K11020
|
Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
蓮見 壽史 横浜市立大学, 医学部, 助教 (40749876)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢尾 正祐 横浜市立大学, 医学研究科, 教授 (00260787)
近藤 慶一 横浜市立大学, 附属病院, 准教授 (80363836)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 遺伝性腎癌 / BHD症候群 / FLCN/FNIP1/FNIP2複合体 / 細胞内輸送 / エピゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
私達はBirt-Hogg-Dube (BHD)症候群の原因遺伝子であるfolliculin (FLCN)およびその結合蛋白FNIP1およびFNIP2が構成する複合体の機能喪失が引き起こす発癌メカニズム解明から新規腎癌治療薬の創薬基盤開発を目指しています。2018年3月までの研究実績として、BHD症候群15症例に発生する腎癌検体29検体について、次世代シーケンサーを用いた全エクソーム解析を行い、BHD関連腎癌が、散発性腎癌と全く異なる分子背景を持つこと、共通の付加的変異が稀であったことから、FLCN変異自体が強力なドライバー遺伝子変異として働いていること、共通な付加的変異は稀であるものの半数以上の検体にクロマチン再構成遺伝子群に変異が見られること、一方でLC/MSを用いた代謝産物の網羅的解析から、BHD関連腎癌では解糖系が亢進し、その代謝産物がペントースリン酸経路にてNADPHなどのredox制御のための補酵素産生に使われていること、脂肪代謝および、ミトコンドリア内への脂肪輸送が亢進していること、などを明らかにし、Human Molecular Geneticsに発表いたしました(in press)。私達の施設は日本全国からBHD症候群の患者さんが集まる集中治療拠点となっており、現在では190家系のBHD症候群の患者さんが集まっております。今後もこの特性を生かし、本件研究課題により明らかになるFLCN欠失細胞におけるリン酸化シグナル経路をヒトBHD症候群関連腎癌にて調べ、新規腎癌治療薬の創薬基盤開発へ役立てます。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年4月までに、FLCN欠失腎癌細胞株UOK257のその他のクローン、FLCN欠失マウス線維芽細胞、FNIP1/FNIP2同時欠失マウス線維芽細胞に対するリン酸化プロテーム解析が終了しております。これら解析の結果、FLCN経路の欠失した細胞では、様々な蛋白のリン酸化状態が変化していることが明らかとなりました。特に細胞内輸送に関係した蛋白のリン酸化が変化しており、このことは、FLCN複合体が細胞内輸送に深く関わることをサポートしていると考えられます。 2018年4月までの進捗状況として、動物モデルであるFLCNノックアウトマウスとKsp-Creトランスジェニックマウスの交配から、腎臓特異的FLCNノックアウトマウスを作成し、その腎臓に発生する増殖性嚢胞様腎検体を採取し、リン酸化プロテオームを行いました。始めに生後3週齢のマウスで試みましたが、コントロールとノックアウトの腎臓では、完全に蛋白のプロファイリングが異なり、リン酸化蛋白の比較には不適であることが判明しました。そこで、日齢1日と7日の増殖性嚢胞様腎検体を採取し、コントロール腎臓とノックアウト腎臓の蛋白のプロファイリングがほぼ同一であることを確認した後に、それぞれ1ペアでリン酸化プロテオームを行いました。まず、トータル蛋白の解析から、ノックアウト腎臓において代謝経路内の酵素、特にミトコンドリア関連の蛋白の増加が、日齢1日と7日のマウスに共通して見られ、FLCN欠失がミトコンドリア新生およびその活性化を引き起こすという私達の以前の報告をサポートするデータが得られました。次に、リン酸化蛋白の解析ではエピゲノム関連の蛋白のリン酸化がノックアウト腎臓において亢進している傾向にありました。BHD関連腎癌でクロマチン再構成遺伝子群の変異が高頻度に見られることと合わせると、エピゲノムを制御する分子のリン酸化状態の異常が腎臓細胞の異常増殖を引き起こしている可能性が示唆されました。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの解析で、FLCN欠失腎臓とコントロール腎臓は、日齢1日で十分にそのリン酸化蛋白およびトータル蛋白に差が見られることが分かりましたので、今後は日齢1日のFLCN欠失腎臓を採取し、6ペアでリン酸化プロテオーム解析を行います。この解析結果と、既に終了している細胞におけるリン酸化プロテオーム解析結果を統合し、FLCN欠失により変化するリン酸化シグナルを明らかにします。そして、明らかとなったリン酸化シグナルの細胞増殖における意義を明らかにします。具体的には、同定されたリン酸化シグナル分子に対するsiRNAや、責任酵素に対する阻害剤を用いて細胞増殖がどのように変化するかを調べます。さらに、そのリン酸化シグナルに対する責任酵素や、リン酸化プロテオームの結果の中に直接的に含まれるリン酸化酵素に対する阻害剤の有効性を、細胞増殖の系を用いて網羅的に調べ、FLCN欠失細胞の増殖を阻止するリン酸化酵素阻害剤を同定します。将来的には、同定されたリン酸化酵素阻害剤を、腎臓特異的FLCNノックアウトマウスに投与することにより、増殖性嚢胞様腎の重量変化や、腎臓特異的FLCNノックアウトマウスの生存期間を観察し、新規腎癌治療薬としての可能性を探ります。
|