2018 Fiscal Year Research-status Report
尿意の発生に関与する機械刺激受容チャネルASICの包括的機能解析
Project/Area Number |
16K11056
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
柴田 泰宏 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 助教 (10534745)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鵜川 眞也 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (20326135)
佐々木 昌一 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 研究員 (50225869)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 過活動膀胱 / acid sensing ion channel / 知覚神経 / 機械刺激受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
尿意切迫感を伴う病態として、過活動膀胱(overactive bladder; OAB)の概念が知られており、その患者数は800万人とも言われている。高齢化が加速する近年、下部尿路症状を呈する患者は更に増加することが予想され、対策の重要性が叫ばれている。近年、抗コリン薬に加えてβ3刺激薬が臨床応用されるなど治療法が多様化しているが、全ての人の愁訴を取り除くには至っていない。切迫性の尿意は、排尿筋過活動による急な膀胱の収縮の結果と、膀胱の知覚そのものの過敏に分類できる。しかし、現在OABに対して臨床応用されている薬物は、いずれも遠心性神経/排尿筋接合部が主たる治療標的である。このため、まずは尿意発生の根本のメカニズムを理解し、それに基づいた治療戦略が必要であると考える。 私たちはこれまでに機械刺激受容体候補遺伝子であるASIC(Acid Sensing Ion Channel)ファミリーを中心に解析を行ってきた。しかし、ASICファミリーはヘテロ複合体を形成していることが報告されており、サブユニット単体だけを欠損させたノックアウトマウスでは機能解析に限界があった。私たちは今回、膀胱に発現しているASICサブタイプ (ASIC1/2/3/4)の全てをノックアウトしたクワドラプル(4重)ノックアウトマウスおよびCRISPR/Cas9システムを利用したタグペプチド-ASIC融合蛋白質のノックインマウスを作出することで、膀胱機能、特に伸展刺激受容におけるASICファミリーの役割を解明することを目的として解析を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、酸感受性イオンチャネル(ASIC)遺伝子ファミリーのサブユニットがマウスの膀胱で機械刺激受容機能に関与している可能性を包括的に探るため、遺伝子改変動物を用いた形態学的、機能的解析を計画している。これまでに当教室で作出し管理している ASIC1、ASIC3、ASIC4ノックアウトマウスを交配し、現在までにトリプルノックアウトマウスを得た。現在、ASIC2ノックアウトマウスの入手について手続きを進めている段階であり、入手後に交配を開始する予定である。 これまでに、ASIC4の局在を明らかにするためにASIC4-βガラクトシダーゼレポーターマウスを用いて膀胱におけるASIC4の局在を検討したところ、膀胱筋層にASIC4陽性細胞が散在することが確認された。また、CRISPR/Cas9システムを用いてASIC4-タグペプチド融合タンパクノックインマウスの作出を試み、現在までにホモマウスを得ている。得られた個体の脳組織をpositive control として抗タグ抗体を用いたwestern blottingを行った結果、野生型マウスとノックインマウスの間に予想される高さに明確な差をもつバンドが1本得られた。このことから、作製したタグペプチド融合ASIC4は予測の通りに機能していると考えられた。膀胱組織およびポジティブコントロールとして脳組織を用いて免疫組織化学染色を行った結果、脳組織にて比較的明瞭な染色像が得られたが、膀胱においては現在までに明瞭なシグナルが得られず、今後の検討課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに作出したタグペプチド融合ASIC4ノックインマウスの解析を更に進め、膀胱筋層におけるASIC4の詳細な分布を明らかにする事で機能解析の足がかりとすることを目標とする。同時にc-kitなど腸管の筋層間神経叢に見られる分子との2重染色を試みる。また、ASIC4について、アフリカツメガエルの卵母細胞を用いた発現系を使った2電極膜電位固定法による電気生理学的解析を行ったところ、浸透圧変化が電流に影響をあたえる可能性が示唆された。これはASICファミリーが物理的な刺激に応答する可能性を示唆するものであり、今後さらなる解析を行っていく予定である。現在までのところASIC4-LacZレポーターマウスおよびASIC4-タグペプチドノックインマウスのいずれも尿路上皮における陽性シグナルは得られていない。しかし、核酸レベルでは尿路上皮にAISCファミリーが発現しているとする報告が見られる。尿路上皮におけるASIC発現の有無は炎症における低pHによる上皮の動態にとって重要であると考えられることから、電気生理学的解析により尿路上皮におけるASICの発現を傍証するため、パッチクランプのシステムを現在構築中である。さらに、ASIC2ノックアウトマウスの当大学動物施設への搬入についての計画を推進する予定である。
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Causes of Carryover |
研究を推進するために必須であるタグペプチド融合ASIC4ノックインマウスの作出およびそのホモ接合体化に予測以上に時間がかかったことが第1に挙げられる。当初CRISPR/Cas9システムをプラスミドベクターの形で受精卵に注入する方式を採用していたが、予測の組換えを起こすに至らなかった。このため、CRISPR蛋白質を直接エレクトロポレーション法にて導入する方法に切り替えたところ、予定の組換えを備えた個体を得る事ができた。この組換え個体を得るまでに多くの時間を掛けたことが、次年度使用額が出た大きな理由である。次に、機械刺激応答の記録に独自の技術を持つ英国のUniversity of Sussexに共同研究を求める必要性が出てきたため、実験の進度を調整した結果として研究期間および費用の分配にずれが生じたことが原因としてあげられる。
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Research Products
(4 results)