2016 Fiscal Year Research-status Report
不育症における非侵襲的着床期子宮内膜機能臨床検査法と新規関連バイオマーカーの開発
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16K11100
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
尾崎 康彦 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (50254280)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 不育症 / 反復流産 / 脱落膜 / 絨毛 / 子宮頸管粘液 / プロテアーゼ / MMP |
Outline of Annual Research Achievements |
Matrix metalloproteinase(以下MMP)は、ヒト生殖において妊娠初期の維持や胎盤形成に重要であることが報告されている。MMP-2及びMMP-9は主に4型コラーゲンからなる基底膜を分解するため、妊娠初期の栄養膜細胞の浸潤に関与している。今年度、我々は反復流産病態におけるMMP-2及びMMP-9の存在と意義について検討した。 倫理委員会の承認を受けインフォームドコンセントの得られた反復流産患者を対象とし、妊娠初期の子宮頸管粘液及び流産手術時に得られた子宮内容組織を実験に使用した。子宮内容組織は絨毛染色体検査正常群と異常群に分け、免疫組織染色法及びELISA法にてMMP-2及びMMP-9の存在と局在を検討した。ELISA法にて子宮頸管粘液中のMMP-2及びMMP-9の発現と妊娠帰結との関連を検討した。 免疫組織染色法では反復流産組織の脱落膜、絨毛の細胞質に抗MMP-2抗体、抗MMP-9抗体の染色性が観察された。ELISA法では、脱落膜組織において絨毛染色体検査正常群(n=7)では異常群(n=10)よりMMP-9の発現は有意に高く(p<0.05)、MMP-2の発現は有意に低かった(p<0.05)。絨毛組織においてはMMP-2及びMMP-9の発現は絨毛染色体検査正常群(n=7)と異常群(n=10)で有意差は認めなかった。子宮頸管粘液におけるMMP-2の発現は、流産群(n=19)と生児獲得群(n=18)とでは有意差は認めなかった。子宮頸管粘液におけるMMP-9の発現も流産群(n=20)と生児獲得群(n=19)では有意差は認めなかった。 MMP-2及びMMP-9が原因不明の反復流産病態に関与している事が示唆された。そのメカニズムとして子宮内局所における好中球活性化によるMMP-9の増加や脱落膜組織障害によるMMP-2の低下が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Matrix metalloproteinase(以下MMP)は、ヒト生殖において妊娠初期の維持や胎盤形成に重要であることが報告されている。我々は反復流産患者を対象に絨毛染色体検査正常群と異常群に分け免疫組織染色法およびELISA法にてMMP-2およびMMP-9の局在を検討した結果、反復流産患者の脱落膜組織において絨毛染色体検査正常群では異常群よりMMP-9の発現が有意に高く、MMP-2の発現が有意に低いことを明らかにした。 この知見に基づき次年度も同様の検討を継続する意義が確認できた。MMP2-735TアレルはSp-1転写因子に影響するが、プロモーター活性増加及び減少のどちらの作用も報告されている。MMP9-1562Cアレルは転写レプレッサーに結合し、プロモーター活性を減少させることが報告されている。今後、反復流産症例におけるMMP-2及びMMP-9遺伝子のプロモーター領域一塩基多型について検討する有用性が認められた。 我々の研究結果から導き出された反復流産病態の脱落膜におけるMMP-2の低下とMMP-9の上昇が遺伝子的な素因と関連しているかという興味深い仮説は今後の検討として意義が大きい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究計画に症例数を増やし実験を継続するとともに、有意差の認められたバイオマーカーに焦点を絞り以下の実験を計画する。 1、子宮内膜間質細胞の脱落膜化培養実験:子宮内膜間質細胞の細胞株(HESC)やインフォームドコンセントの元に手術にて摘出された子宮内膜組織から子宮内膜間質細胞を純化分離し培養実験に用いる。E2、MPAやcAMPを添加し培養上清中のプロラクチン及びIGF-BP1産生能を脱落膜化の指標とする。低酸素培養やカルシウムイオノフォア等によるカルシウム依存性プロテアーゼの活性化やLPS及びIFN-γによる感染のモデルを用いて、脱落膜化現象への種々のプロテアーゼの関与を検討する。またASA・ヘパリンや抗炎症剤の添加によりその脱落化や生理活性分子への作用を検討する。 2、絨毛細胞(Extravillous trophoblast:EVT)のinvasion assay:流産時にインフォームドコンセントの元に得られた子宮内組織から純化したEVTやcell line (BeWo,JEG3等)を用いMatrigel invasion assayで絨毛細胞の子宮内膜への浸潤機構(着床モデル)へのプロテアーゼの関与及び治療薬の作用を検討する。 3、血管新生モデルを用いた検討:HUVECを用いた細胞培養系に種々のプロテアーゼインヒビターを添加した血管新生モデルキットを用いて血管新生現象へのプロテアーゼの関与及び治療薬の作用を検討する。検体収集が計画通りに達成されない場合は、当教室関連病院に依頼することで対応する。 本研究ではプロテアーゼとインヒビター及びその基質に関して検討を行うが、有意な結果が得られない場合においては収集された豊富な臨床データを持つ貴重な検体を用いて、IL-33等のサイトカインに関する検討を行う。
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Causes of Carryover |
本研究では設備備品に関しては、当教室内、名古屋市立大学病院内、学部内協力教室(第2病理学、第2生化学、遺伝子制御学分野等)、学部内共同研究センターの現有備品を使用することを原則としている。また愛知学院薬学部研究センターや東京都医学総合研究所(カルパインプロジェクト)において研究技術協力が得られ、使用料等の支出が予定を下回った。平成28年度は主に臨床検体の採取と蛋白・酵素学的手法の実験が主体で、培養細胞を用いた実験は見合わせた。このことにより、サンプリングや抗体類、免疫組織染色用試薬、ELISAキット等の消耗品の購入が主体となった。 国内外で研究の助言を得るための研究協力者との定期的な検討会を行った。したがって研究会や学会で研究成果を発表するために旅費を申請したが、該当年度は1回の海外出張に留まった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の研究計画に症例数を増やし実験を継続するとともに、有意差の認められたバイオマーカーに焦点を絞り①子宮内膜間質細胞の脱落膜化培養実験、②絨毛細胞(Extravillous trophoblast:EVT)のinvasion assay、③血管新生モデルを用いた検討等の細胞培養実験を計画している。 また不育症病態と有意な関連が報告されているバイオマーカーに関して遺伝子多型の解析を計画しており、これらの実験へ次年度使用額分を充当する予定である。国内外で研究の助言を得るための研究協力者との定期的な検討会を計画している。特に自身は遺伝子多型等の遺伝子学的手法に基づく実験の経験が少なく、旅費計上を伴う充分な事前の検討が必要である。
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[Journal Article] Genotyping analysis of the factor V Nara mutation, Hong Kong mutation, and 16 single-nucleotide polymorphisms, including the R2 haplotype, and the involvement of factor V activity in patients with recurrent miscarriage.2017
Author(s)
Izuhara M, Shinozawa K, Kitaori T, Katano K, Ozaki Y, Fukutake K, Sugiura-Ogasawara M
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Journal Title
Blood Coagul Fibrinolysis
Volume: 28
Pages: 323-328
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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