2017 Fiscal Year Research-status Report
炎症惹起因子を中心とした妊娠高血圧症候群の病態解明
Project/Area Number |
16K11101
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
成瀬 勝彦 奈良県立医科大学, 医学部, 研究員 (70453165)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
重光 愛子 奈良県立医科大学, 医学部附属病院, 研究員 (50553244) [Withdrawn]
長安 実加 奈良県立医科大学, 医学部附属病院, 研究員 (80623496)
赤坂 珠理晃 奈良県立医科大学, 医学部附属病院, 研究員 (90526724)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 妊娠高血圧症候群 / 脂肪細胞 / 炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
妊娠中の母児に致命的な影響を与える妊娠高血圧症候群の発症について、関与する因子であるDanger signalの存在を生体由来の細胞で明らかにしつつある。 妊娠高血圧症候群を発症した妊婦でDanger signalの血中濃度が上昇していることはこれまで我々の検討でも明らかになっていたが、そのターゲットとなる細胞や組織については証明されていなかった。本研究では多くの生活習慣病で問題視されている脂肪細胞・組織に着目し検討を行い、Danger signalの代表的な一つであるHMGB-1(絨毛細胞の表面にも存在し、妊娠中の炎症のトリガーとなることが分かっている)が受容体RAGEを通じて病態を形成する可能性を考え、脂肪細胞表面のRAGEを分子生物学的手法を用いてノックダウンし、ここにHMGB-1を添加する方法で下流の炎症シグナルが抑制されることを確認した。 加えてケモカイン(細胞内の炎症シグナルを実際の動脈硬化などの病態に直結させる因子)がHMGB-1~RAGEの経路の下流にあることを確認した。このことは、脂肪細胞に与えられた妊娠高血圧症候群妊婦の全身性血清由来ストレスが、その後の疾患病態の形成に深く関わって入ることを強く示唆するものである。 以上の研究成果は、研究分担者により2018年の日本産科婦人科学会国際ワークショップ(International Session Workshop 5 "Possible involvement of RAGE in Hypertensive Disorders of Pregnancy", Akasaka J. et al.)にて発表されるとともに、世界的な英文教科書(Comprehensive Gynecology and Obstetrics, Springer Inc.)にもその結果の一部が紹介されるという成果を挙げた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
正常および妊娠高血圧症候群妊婦患者の血清については、研究機関の医の倫理委員会の承認を得て、総合周産期センター病院としての高度な機能と症例数を背景に集積が進んでおり、重症例・合併症例含めた多くの症例を検討できる状況になっている。また、妊娠高血圧症候群のトリガーたる絨毛細胞を得るための帝王切開時・人工妊娠中絶時の胎盤についても、研究に足る数の組織を得て研究を進めている。 絨毛細胞の表面マーカーについては研究当初の予測より他の研究者の研究が進んだため、本研究で新たな知見を得るのではなく、これらの成果を利用した(ただしそれらの一部は当研究チームの過去の成果を元にしている)。一方、そのマーカーが実際に影響を与える対象としての脂肪細胞・組織の研究については期待以上の成果を得た。これらの培養系が安定して実験できるようになったため、Danger signal(DAMPs)の添加実験のみならず、そのノックダウン実験にまで展開し、疾患への影響をより高いレベルのエビデンスで明らかにすることができた。 またサイトカイン・ケモカイン・プロテアーゼの解析も順調に進んでおり、血清・胎盤組織におけるDAMPsその他の炎症シグナル因子の検討が行われており、若干の変更はあったが、これまで順調に研究が進行していると考えている。後方視的にストック検体からこれらのシグナルを再発見するプロセスも進められている。 ただし、臨床的検討としての、妊婦での初期からの疾患予測可能性と介入試験についてはまだ開始されていない。実際の患者ベネフィットにつなげるために、そのプロセスが必要であることが、チーム内でも課題として共有されている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を臨床的に展開していくことを第一に考えている。現時点では実際にこれらの惹起された炎症状態を治療できる薬物はなく、発症してしまった妊娠高血圧症候群を治療する方法には乏しい。本研究から見出される炎症カスケードを抑制できる薬剤が安全に用いられるのであれば、研究を大きく進めることができる。 一方、妊娠初期の超音波および胎盤由来マーカーで絞りこんだ妊娠高血圧腎症妊婦に対し、初期から低用量アスピリンを内服させることで発症率を劇的に低下させているとの報告(Rolnik DL, et al. N Engl J Med. 2017)があり、今後の初期からの疾患予知マネジメントは大きく変わっていくものと考えられている。研究責任者らはアジア人において同様の成果が得られるのかどうかを確認する多施設共同研究(日本妊娠高血圧学会主催)にも参加しており、ここで得られた知見が我が国の新たなスタンダードとなる可能性が高いといえる。 今後の推進方策として、まずは上記の妊娠初期超音波・マーカー検査をシステム化しルーチンとして行っていくことが期待される。このことは本研究に大きくかかわる胎盤形成不全を妊娠の早い段階で把握できることにつながり、後期で脂肪細胞に悪影響を与える可能性のある胎盤を絞りこむことで、本研究を臨床的に推進することができるであろう。 また基礎的には、脂肪細胞内での炎症シグナルHMGB-1が細胞内のどのような経路で単球を遊走させ血管壁に悪影響を与えるのかが判明していない。安定した実験系を得ているため、その細胞内シグナル伝達についても今後十分に検討し、臨床応用への可能性を得ることができると期待している。
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Causes of Carryover |
国際学会での発表・論文発表が次年度に繰り越されたことと、一部研究に関わる資材の購入が次年度となったため、残余顎が生じている。これらは次年度に予定通り施行される予定である。
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