2017 Fiscal Year Research-status Report
急性感音難聴の分子病態と治療の動態的解析-次世代シークエンスでの統合遺伝子解析-
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16K11181
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
前田 幸英 岡山大学, 大学病院, 講師 (00423327)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
假谷 伸 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (10274226)
菅谷 明子 岡山大学, 大学病院, 助教 (20600224)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 蝸牛 / 遺伝子発現 / RT-PCRアレイ / 免疫機能 / 炎症機能 / 急性音響性障害 / 聴性脳幹反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度には、騒音暴露によって、急性感音難聴を発症したマウス蝸牛において、RNA-seqおよびDNAマイクロアレイで遺伝子発現を網羅的に検討し、難聴発症時には炎症・免疫機能の遺伝子パスウェイが変動することを明らかにした。以上の結果を踏まえ、平成29年度には、当内容の論文(平成28年度研究実績に記載)を、耳科学の専門誌に出版した。平成29年度の実験では、難聴発症時の蝸牛における炎症・免疫機能の遺伝子の変動を、RT-PCRアレイを用いて検討した。 C57BL/6マウス(雌6週齢)を120dBオクターブバンドノイズに暴露して、難聴を惹起し、C57BL/6系統での、難聴発症マウスの聴力データを確認した。騒音暴露前、12時間後、24時間後、14時間後のABR閾値は36.6±6.1 dB SPL、 171.1±17.6、62.8±12.8dB SPL (各群8-9匹)であった。我々の研究室のCBA/J系統、BALB/C系統マウスの実験と同様に、発症12-24時間での、有意な一過性聴力閾値上昇と、発症14日での、永続的な聴力閾値上昇を確認した。 遺伝子発現解析の対象としたのは、ケモカイン(22遺伝子)、インターロイキン(12遺伝子)、その他のサイトカイン(8遺伝子)、サイトカイン・ケモカインレセプター(14遺伝子)など84の炎症・免疫機能関連遺伝子であるが、そのうち31.0%(84遺伝子中26遺伝子)は、難聴発症後12時間の蝸牛で、発現量が2倍以上または1/2以下に、有意に変動していた(p<0.01、 n=3)。うち9遺伝子では発現量の増加を認め、17遺伝子では発現量の減少を認めた。またこれらのうち16遺伝子はケモカインをコードする遺伝子であった。上記のRT-PCRアレイと、RNA-seqおよびDNAマイクロアレイのデータを解析したところ、3者の実験法で一致して発現が増加する遺伝子として、Ccl12、Ccl2、 Ccl4、 Ccl7、 Cxcl1、 Cxcl10、 Ptgs2を同定した。また発現が減少する遺伝子として、Ccr7、 Cxcr2、Kng1,、Ltb、Tnfsf14を同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究の目的は難聴発症マウスの蝸牛でRNA-seqとDNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現解析を行うことにより、急性感音難聴の病態と治療の動態的かつ網羅的なデータを打ち出すことである。平成28年度にはこれらの実験法で難聴発症12、24、48時間後の解析を行い、難聴発症早期には蝸牛局所で、炎症・免疫機能に関連する遺伝子パスウェイが変動することを明らかにした。平成29年度には、これらの生理機能に特に着目して、RT-PCRアレイなどによる解析を行う予定であった。平成29年度には、RT-PCRアレイによる実験を実行し、有意なデータを得た。具体的には次の様な知見を得た。検討した炎症・免疫機能関連遺伝子群のうち、31.0%(84遺伝子中26遺伝子)は、難聴発症後12時間の蝸牛で、発現量が2倍以上または1/2以下に、有意に変動していた(p<0.05、 n=3)。うち9遺伝子では発現量の増加を認め、17遺伝子では発現量の減少を認めた。これらのうち16遺伝子はケモカインをコードする遺伝子であった。発現が増加する遺伝子として、Ccl12、Ccl2、 Ccl4、 Ccl7、 Cxcl1、 Cxcl10、 Ptgs2を同定した。また発現が減少する遺伝子として、Ccr7、 Cxcr2、Kng1、Ltb、Tnfsf14を同定した。 以上のRT-PCRアレイのデータを別論文としてまとめ、平成30年4月の段階で、査読審査をうけている状態である。これらのデータは急性感音難聴の病態と治療の理解に寄与するものと考えている。以上の経過より平成30年4月の段階で、当研究は順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に得られたRT-PCRアレイのデータは、英文論文にまとめ、投稿し、査読審査をうけている段階である。平成30年度には、これらのデータをまず論文として出版する。 平成28、29年度に、騒音暴露による難聴を発症したマウスの蝸牛では、炎症、免疫機能に関係する遺伝子群が多数変動することをしめした。RT-PCRアレイ、RNA-seq、DNAマイクロアレイ、で発現変動遺伝子としてデータが一致する遺伝子としてはCcl12、Ccl2、 Ccl4、 Ccl7、 Cxcl1、 Cxcl10、 Ptgs2、Ccr7、 Cxcr2、Kng1、Ltb、Tnfsf14があげられるが、RNA-seqとDNAマイクロアレイによるスクリーニングで、変動遺伝子として検出されたものは300種類以上にわたり、RT-PCRによる検討等を行っていない内耳免疫関連遺伝子はさらに多く存在する。平成30年度と今後の研究計画で、これらの遺伝子群の発現を解析する。 また、難聴発症直後にデキサメタゾンを腹腔内投与した際には、蝸牛での炎症、免疫機能関連遺伝子群の発現はさらに変動する(平成28年度のデータ)。一般に、難聴発症時の治療として用いられるグルココルチコイドの作用としては、抗炎症作用、免疫作用が想定される。平成30年度には、難聴発症の際に増加した炎症、免疫関連遺伝子の発現が、デキサメタゾン投与で抑制されることを、リアルタイムRT-PCRで示す。具体的にはRNA-seq、DNAマイクロアレイの基礎データに基づき、Ccl12 (chemokine ligand12)、Glycam1 (glycosylation-dependent cell adhesion molecule 1)の発現量を、騒音暴露後、デキサメタゾン投与後の蝸牛において、リアルタイムRT-PCRで検討する。 さらに、当研究の遺伝子解析法では非コードRNAの発現量解析も可能である。平成30年度には難聴発症時の非コードRNAの発現量解析を行い、今後の研究計画への基礎データとする。
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Causes of Carryover |
平成29年度には、28年度のRNA-seqおよびDNAマイクロアレイによる実験に続いて、RT-PCRアレイを用いて、遺伝子発現解析をおこなった。順調にデータを採取することが可能であった。難聴発症マウスの蝸牛から抽出したRNAサンプルについても、保存状態が良好であったので、平成28年度に採取したサンプルを用いることができた。以上より、当研究計画の実施には支障なく、次年度使用額が生じた。使用計画については、平成30年度には、平成28年度、29年度に得られた生データをさらに解析することにより、難聴発症マウスの蝸牛における炎症、免疫機能関連遺伝子の発現量や、非コードRNAの発現を考察する。データ解析が中心であるため、平成30年度の予定を超えて費用が必要になることはない。また、”今後の研究の推進方策”で述べたリアルタイムRT-PCRの費用にも問題ないことが計算済みである。したがって、平成30年度の計画実行には支障ない。また平成30年度には、当研究とも関連して、我々の実験室での難聴発症マウスの聴力の基礎データをさらに充実させることを計画している。平成30年度の予定額内でマウスを購入し、実験室の装置で急性音響性難聴を発症させ、聴性脳幹反応による聴力データを採取する。
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Research Products
(3 results)