2018 Fiscal Year Research-status Report
急性感音難聴の分子病態と治療の動態的解析-次世代シークエンスでの統合遺伝子解析-
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16K11181
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
前田 幸英 岡山大学, 大学病院, 講師 (00423327)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
假谷 伸 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 准教授 (10274226)
菅谷 明子 岡山大学, 大学病院, 助教 (20600224)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 蝸牛 / 遺伝子発現 / RT-PCRアレイ / 免疫機能 / 炎症機能 / 急性音響性障害 / 聴性脳幹反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度には、平成29年度までに得られたデータを解析し、当研究計画の成果として2報目の英文原著論文を執筆、出版した。具体的には、1)C57BL/6系統マウスを、120dBオクターブバンドノイズに2時間暴露し、難聴を惹起した際の聴力データを出版した。2)またその際に蝸牛では炎症・免疫機能に関与する遺伝子群が変動することを示す、リアルタイムRT-PCRアレイのデータを論文として出版した。 さらに、平成29年から30年にかけて、難聴発症直後のマウスに、ステロイド(デキサメタゾン)を腹腔内投与して、炎症性サイトカインCcl12と、細胞接着因子Glycam1の発現をリアルタイムRT-PCRで検討した。難聴発症後12時間の蝸牛において、Ccl12の発現は、騒音暴露したマウスでは、暴露していないマウスに比べて、3.29±0.24(mean±S.D.)倍に増加していたが、難聴発症時にデキサメタゾンを投与することにより、投与した群では、投与しない群に比べて、0.60±0.05倍まで、抑制されていた。同様にGlycam1の発現は騒音暴露によって、2.30±0.09倍に増加したが、難聴発症時のデキサメタゾン投与によって、投与していない群の0.14±0.02倍まで抑制されていた。Ccl12は好酸球、単球、リンパ球の遊走を導く分子である。またGlycam1はL-selectinをリガンドとする細胞接着分子であるが、血管内皮に発現して、毛細血管からのリンパ球の遊走を誘導する。Glycam1は蝸牛において、蝸牛外側壁(らせん靭帯)などに発現すると報告されている。したがって、騒音暴露による難聴発症の際には、蝸牛外側壁などにおいて、免疫、炎症反応が惹起され、デキサメタゾン投与によりその様な反応が抑制されると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当研究の目的は、騒音に暴露することにより難聴を発症するマウスをモデルとして、難聴発症とステロイド投与の際の蝸牛局所での遺伝子発現を、次世代シークエンサーとDNAマイクロアレイの併用により明らかにすることである。当研究では以下の様に、当初の目的を達成することができている。 平成28年度には、難聴発症後12、24、48時間後の遺伝子発現を、これらの方法で、網羅的、経時的に検討し、平成29年度に英文原著論文として、下記の知見を報告した。1)難聴発症後12時間の蝸牛では、マウス全遺伝子を対象とする解析で、”chemokine-signaling activity”, “cytokine-cytokine receptor interaction”, “cell adhesion molecules in the immune system”といった、炎症、免疫機能に関係する遺伝子パスウェイが変動した。2)デキサメタゾンを難聴発症直後に投与することにより、これらの遺伝子パスウェイはさらに変動した。3)また、難聴発症24時間経過後には、これらの炎症、免疫反応は検出されなかった。 さらに、平成29年度には、以上の結果を発展させ、炎症、免疫機能に関係する、個々の遺伝子の発現をリアルタイムRT-PCRアレイで確認した。 平成30年度には平成29年度に得られた知見から、下記の内容を2報目の英文原著論文として出版した。1)難聴発症12時間後の蝸牛で、84種類の炎症、免疫関連遺伝子の発現を検討したところ、その31.0%(26遺伝子)は有意に変動していた。2)その際、デキサメタゾン投与を行わない条件では、ステロイドシグナリングに関係する遺伝子のほとんどは変動しなかった。3)しかし、デキサメタゾン腹腔内を行えば、Ccl12や、Glycam1といった炎症、免疫関連遺伝子の変動を抑えることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況の項で述べた、次世代シークエンサーと、DNAマイクロアレイでの実験では、難聴発症時の蝸牛で変動する遺伝子として、300種類以上の遺伝子が同定されている。平成30年度末の時点で、学会、論文などで未報告の生データを所持しているので、平成31年度には、これらのデータの解析をさらに進め、次の段階の研究計画の立案に向けた基礎データとする。また、我々の実験室での、音響暴露による難聴モデルマウスの実験系の精度をさらに高めるため、難聴発症実験と、聴性脳幹反応による聴力確認実験を反復する。 たとえば、当研究では、難聴発症時のマウス蝸牛では炎症、免疫機能に関係する複数の遺伝子パスウェイが変動することがしめされたが、これまでに報告書に記したパスウェイ以外にも、“インターフェロン誘導遺伝子群”、“インフラマソームパスウェイ遺伝子群”といった遺伝子発現の生データを所持している。これらの、次世代シークエンサー、DNAマイクロアレイ、リアルタイムRT-PCRアレイの生データを解析し、今後、どの様な炎症、免疫遺伝子の発現を解析するべきか検討する。 また、当研究の次世代シークエンサーや、DNAマイクロアレイによる解析では、蛋白質をコードする遺伝子以外にも、蛋白質をコードしないRNA転写産物(非コード RNA)の発現データも得られた。近年、非コードRNAも、炎症、免疫機能に関係すると報告されている。これらの解析をすすめ、難聴発症時の蝸牛では、非コード RNA群がどの様に変動するか解析する。
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Causes of Carryover |
平成30年度には、29年度まで得られた次世代シークエンサー、DNAマイクロアレイのデータや、リアルタイムRT-PCRアレイのデータを解析し、解析結果を英文原著論文として発表する計画であった。実際に、この様な解析は問題なく行うことができ、30年度中に論文を出版した。この間の作業はデータ解析や、執筆作業が中心であったので、実験試薬やマウスの購入などの費用は節約され、次年度に繰り越す予算が生じた。 平成31年度には、平成30年度までに得られた生データをもちいて、既に報告した以外の遺伝子パスウェイに関する解析や、非コードRNAの発現に関する解析を行う。したがって、解析用のパーソナルコンピューターの購入や、受託データ解析に予算を用いる予定である。 また、我々の研究室での、難聴発症モデルマウスの実験精度向上のための、反復実験を行うので、実験用マウスの購入に予算を用いることも計画する。
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