2017 Fiscal Year Research-status Report
非侵襲的糖化終末産物計測による糖尿病合併症に対するリスク評価法の開発
Project/Area Number |
16K11283
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
村田 敏規 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (50253406)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平野 隆雄 信州大学, 医学部附属病院, 助教(特定雇用) (90735151)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 糖尿病網膜症 / 糖化終末産物 / AGE reader / 細小血管障害 / 糖尿病黄斑浮腫 / 水晶体 |
Outline of Annual Research Achievements |
糖尿病黄斑浮腫(DME)は網膜血管透過性亢進等によって引き起こされ、就労年齢層における社会的失明の原因として問題となる難治性の疾患である。抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の登場で従来治療困難であった黄斑浮腫による社会的失明や、治療抵抗性の増殖糖尿病網膜症でも治療可能となり、従来失明原因の1位であった糖尿病網膜症も、失明原因の3位となっている。治療前に治療効果を予見できる因子の検討は非常に重要である。我々は終末糖化産物(AGEs)の網膜への蓄積がVEGFの過剰産生とDMEに関連することを示した (Murata T, Diabetologia 40:764-769, 1997)。また、近年皮膚のAGEs蓄積との関連が報告された皮膚自発蛍光値が、糖尿病網膜症の病期と相関することを明らかにした(J Diabetes Complication Sep-Oct;28(5):729-34 2014)。 本研究の目的は皮膚よりも更に網膜に近い、眼球内の組織である水晶体で糖化終末産物の蓄積量を測定可能としたClear Pathという測定機器を使って、以下の2点を検討することである。1)水晶体のAGE量と糖尿病網膜症の病期の相関があるか否か 2)水晶体のAGE量と抗VEGF薬のDME治療効果との関連 1)に関しては水晶体のAGE量と糖尿病網膜症の病期とに相関がある結果が得られた。2)に関しては、現在まで信州大学眼科外来を受診し、ranibizumabを用いて治療を行った糖尿病網膜症患者41名において、糖尿病黄斑浮腫を治療するのに必要だった抗VEGF薬の投与本数と、水晶体のAGE量の相関を検討した。現在までに、両者に統計学的に有意な相関が得られていない。引き続き症例数を増やして、統計学的に有意な結果が得られないか検討を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では水晶体の糖化終末産物advanced glycation endproducts(AGE)と糖尿病網膜症の病期に相関があることが統計学的有意差を持って示された。この結果は、第12回レドックス・ライフイノベーションシンポジウムでは、共同研究者の平野隆雄が、「眼科領域における終末糖化産物含有量を反映する自発蛍光値の検討」のタイトルで特別講演をおこなっている。さらにARVO 2016でもAssociation of diabetic retinopathy severity with lens fluorescence ratio reflecting advanced glycation end product level報告している。この結果は、眼科医不在の環境下でも、ClearPathで水晶体のAGE量を測定すれば、糖尿病網膜症の有無、さらには病期が推定できることを示す。遠隔地にある眼科専門医に、その患者を受診させるべきか否かを判定する根拠となりうる。この結果は、上記の他に、第120回日本眼科学会などにおいて、糖尿病網膜症の新たな客観的指標の可能性について学会報告をおこなっている。今後論文を作成し広く発表していく予定である。 また、本研究においては現在眼内の糖化終末産物とvascular endothelial growth factor(VEGF)の発現量の関係を調べているが、そのなかで行った血清VEGF濃度を、糖尿病網膜症および糖尿病黄斑浮腫患者で測定し、その病的な異議を解析した研究は2017年のRETINAに報告した。 今後、最後に残っている検討項目である、水晶体AGE量と治療に必要な抗VEGF薬量との相関を証明するべく、研究を継続していく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
ここまでの研究結果から、水晶体の糖化終末産物を、通常の眼科検査で使用する細隙灯顕微鏡機械に装着した機械で測定することができれば、その眼にどの程度糖尿病による糖毒性の障害が蓄積されているかを判定できることが証明されたと考えている。水晶体の糖化終末産物の蓄積の、糖尿病網膜症スクリーニングにおける有用性の高さは、既に学会発表を終了しているので、今後論文として発表していく予定をたてている。今後の研究は症例数を増やして、さらに糖化終末産物の水晶体における蓄積度合いと、糖尿病網膜症の進行程度(単純期、増殖前期、増殖期のステージのどの段階に属する網膜症があるか)の相関の信頼度を高めて、スクリーニングはもとより病期の予測に使うことをめざして研究を進める。この研究の最終的目標は、糖尿病網膜症のリスクを糖化終末産物の濃度という数値で判定できるようにすることである。これが可能となれば、眼科医がいない地域、眼科がない地方でも、糖化終末産物の値で、スクリーニングのみならず、進行した病期の糖尿病網膜症のリスクを判定することができる。その結果、糖尿病網膜症による視力低下する患者を大幅に減少させることができる可能性がある。現在の眼底写真によるスクリーニング、病気判定は、一度眼科医の診断を介する必要があり、数日から数週間のタイムラグがあるため、その場で患者に専門医の受診の必要性を指示することができない。 さらに、水晶体の糖化終末産物の蓄積量と、循環血液中の糖化終末産物の相関を今後検討したいと考えている。血漿中の糖化終末産物で糖尿病網膜症のスクリーニングおよび病期に相関が証明できれば、さらに眼科医だけでなく眼科検査機器がない地方、地域でも、糖尿病網膜症による視力低下のリスクを採血で判定できるようになり、その地域住民の糖尿病網膜症による視力低下を予防できる可能性がうまれる。
|