2016 Fiscal Year Research-status Report
HSP70を標的とした網膜色素変性症の新たな病態メカニズム解明と治療戦略
Project/Area Number |
16K11335
|
Research Institution | Suzuka University of Medical Science |
Principal Investigator |
郡山 恵樹 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 准教授 (70397199)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古川 絢子 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 助教 (10455537)
杉谷 加代 金沢大学, 保健学系, 助教 (20162258)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 網膜色素変性症 / HSP70 / カルボニル化 / 網膜 / カルパイン / 酸化ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
網膜色素変性症(retinitis pigmentosa: RP)は, 先天盲の第1位であり、中途失明原因でも第3位と上位を占める。RPは遺伝性疾患であるが35%が孤発性であり、我が国の超高齢化にともない患者数の増加が危惧されている。しかし、未だに有効な治療薬が無く、病態解明と治療法の開発が急がれる。RPは、本邦で約5万人の患者数が推定される重大な失明疾患であるが、未だに有効な治療薬や治療法が確立されていない。このことからRPは、可及的速やかな病態メカニズム解明と治療法確立が急務とされる。我々はこれまで網膜色素変性症の原因として、細胞保護に関わる70KDa熱ショックタンパク質(HSP70)が、酸化ストレス起因性のカルボニル化およびカルパインによる分解を受けて細胞死を起こす新規病態メカニズムを提唱してきた。本研究では、より詳細なメカニズム解析を目的とし、HSP70のカルボニル化部位を精査し、HSP70分解に次ぐ下流の視細胞死実行機構を決定したい。RPの最終病態は視細胞の脱落であるため、我々は選択的な視細胞死を誘発するN-メチル- N -ニトロソ尿素(MNU)投与モデルを用いて新規病態メカニズムの可能性を示してきた。MNUは腹腔内へ単回投与により数日で視細胞選択的な脱落が再現性良く誘導できる。興味深いことにMNUの細胞死メカニズムは、i)酸化ストレスによる脂質過酸化物(4HNE)の産生、ii)細胞内カルシウム動員とそれに次ぐカルパイン活性化、iii)カスパーゼの活性化亢進などRP遺伝子改変動物モデルと非常に類似したメカニズムを示す。このように断片的な報告が多数なされているが、それらのメカニズムの全体像を捉えた報告は皆無である。本研究では、より俯瞰したRPの新たな包括的病態メカニズムの可能性を打ち立てるとともに、それに焦点を当てた新たなRP治療薬開発の基盤を構築したい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
網膜色素変性症の最終病態は視細胞の脱落であるため、我々は選択的な視細胞死を誘発するN-メチル- N -ニトロソ尿素(MNU)投与モデルを用いて新規病態メカニズムの可能性を示してきた。MNUは活性酸素種(ROS)を増加させ4HNEの産生を促すことが分かった。また、Okaらの報告よりMNUはCa/カルパイン系を活性化させる、サル脳虚血の研究から4HNEはHSP70をカルボニル化することが知られており、カルボニル化されたHSP70はカルパインで切断される。これらのことでHSP70の機能破綻が起こりカスパーゼシグナルにより細胞死が誘発されることが確認できている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究内容は3つのサブテーマに大別される ①「視細胞株661Wにおけるメカニズム研究」:網膜は多細胞組織であるためこれまでの網膜ホモジネートを用いた研究では分りにくかったことを純粋な視細胞株培養系を用いて解析する。②「RPモデルにおけるメカニズム研究」:RP遺伝子改変モデルおよび光照射による視細胞死モデルを用いて、我々のメカニズム仮説がMNU特異的でないことを証明する。③「RPモデルにおける治療研究」:②のモデルを用い、仮説に対応した新たな治療戦略を行い、保護効果を評価する。 今後は、まず視細胞株661Wを用いて、生化学的なアッセイを中心に研究を進める。HSP70のカルボニル化を精査するため、DNPH法による定量および免疫沈降法を用いた定性。リソソーム膜安定化の指標となるセラミドの定量的解析、リソソーム破綻後の漏出カテプシンの同定をELISAで行いたい。 1.視細胞株661WにおけるHSP70分解起因性細胞死の確認:酸化ストレス依存性の4HNEの産生とそれによるHSP70のカルボニル化、またカルパイン依存的なHSP70分解作用はMNUモデルで確認してきた。網膜は多細胞組織であるため、より詳細なHSP70分解機構を精査するため純粋な視細胞培養系を用いて過酸化水素とCa濃度を上昇させた条件下でのHSP70の分解と細胞死を確認する。 2.HSP70過剰発現系によるレスキューとカルボニル化検出:すでに準備したHSP70プラスミドを用い、HSP70過剰発現系の661Wを構築する。HSP70の過剰発現により酸化ストレスおよびCa依存性の細胞死をレスキューできるか確認する。またカルボニル化検出のためDNP抗体を用いた免疫沈降を行い、HSP70過剰発現系においてカルボニル化誘導させHSP70のカルボニル化とその切断をウェスタンブロットで確認する。
|
Causes of Carryover |
申請時にはHSP70過剰発現系によるレスキューとカルボニル化検出のため、すでに構築したHSP70プラスミドを用いて661W細胞に遺伝子導入するためエレクトロポレーターの購入を予定していた。これまでエレクトロポレーターを使用する際には、メーカーからの一定期間のレンタルを行っており、非常に不便であったため科研費での購入を考えていた。しかし、本学の大学院予算で遺伝子導入研究の実施が増えてきており、本学別予算でのエレクトロポレーターの購入が重なったため、自身で購入する必要がなくなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究において、マウスの眼球に試薬を投与する際、実体顕微鏡を使用していた。しかし、その顕微鏡が単眼顕微鏡であったため、研究協力者の学生たちに研究主義の指導をする際、非常に効率悪く視野も悪く実験に影響が出ていた。そこで、顕微鏡カメラを導入し、効率よく研究のスピードや精度向上のために購入を予定している。
|