2017 Fiscal Year Research-status Report
家兎気管大欠損モデルにおける自然修復機構の組織生化学的解析と自然修復調節法の確立
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16K11343
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
窪田 正幸 新潟大学, 医歯学系, 教授 (50205150)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松田 康伸 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (40334669)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 家兎 / 気管欠損 / 組織修復 / サイトカイン / インフリキシマブ / サンドスタチン / mTOR |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、家兎における気管大欠損部の修復機構とそれを調整する液性並びに細胞性因子を解明し、治癒過程を調整制御することで瘢痕を来さないより生理的修復機構誘導を目的としている。研究初年度にあたる平成28年は、気管大欠損モデルにおける組織修復機構の免疫組織学的研究を行い、肉芽形成が1週間目、2週目に気管上皮再生が完成し、3週間目に肉芽が消失し治癒過程が完了することを明らかにできた。 研究2年目の平成29年度は、この修復過程に作用すると考えられるTNFαの役割を検討した。TNFαは組織障害機転でIL-6など一緒に分泌されるサイトカインで、抗ヒトTNFαモノクローナル抗体(インフリキシマブ)は、TNFαの特異的抗体として選択的にTNFαの作用を減弱させる。一方、ソマトスタチンは成長ホルモンの分泌を低下させることで間接的にTNFαの分泌を低下させるが、半減期が3分程度と短く、今回用いたサンドスタチンはソマトスタチン類似作用化合物で、代謝安定性を向上させている。 家兎の気管大欠損モデルにおいて、インフリキシマブを術前に投与した6羽では、H-E染色では気管欠損部の肉芽形成が抑制されていたが、気管上皮の再生には影響がなく、治癒機転の肉芽形成過程を修飾できていた。しかし、インフリキシマブの免疫抑制作用によると考えられる炎症性細胞浸潤が認められ、創感染を併発した家兎も2羽認められた。免疫組織学的検索では、インフリキシマブ投与により気管上皮細胞増殖活性は欠損部だけではなく正常部も低下し、両者で有意差がなくなっていた。一方、mTOR活性の評価のために測定したリン酸化p70S6K陽性率は、気管欠損部と正常部ともに活性が亢進し、TNFを抑制することでmTORシグナル経路が活性化された可能性が示唆された。サンドスタチンの効果は現在標本作製の状態で、今後インフリキシマブとの比較検討を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年計画の初年度は、家兎気管大欠損モデルにおける修復機構の解明を到達目標とし、修復過程がほぼ3週間が完了し、各1週毎のステージでの特徴を明らかにすることができた。これら修復機構の客観的評価として免疫組織学的研究では、PCNA(増殖細胞マーカ)Labelling index (LI)、Vimentin(間葉系細胞マーカ)LI、P-P70S6K(mTORシグナル経路因子)LIが有用であることを明らかにできた。 平成29年度は、これらの研究成果をもとに治癒機転に影響を及ぼすサイトカインの効果を検討し、治癒機転の修飾が可能かどうかを検討した。薬剤としては種々の成長因子やサイトカインを検討したが、最終的にTNFαを選択した。TNFαは炎症反応の初期に分泌され、過剰分泌が組織障害性に作用することがわかっており、特異的抗体(インフリキシマブ)が存在することや、近年開発されたソマトスタチン類似化合物質(サンドスタチン)のように成長ホルモン分泌抑制を介して間接的にTNFα分泌を抑制できる薬剤が存在し、多角的にTNFαの抑制効果を検討できるからである。現在まで、インフリキシマブでは術後産生される肉芽が抑制され、選択的に治癒機転を修飾できることが明らかとなった。一方、TNFαを阻害することで、副作用として易感染性も出現することが明らかとなった。サンドスタチンの組織学的検討は現在進行中であるが、投与された家兎では易出血性が認められ、予期せぬ副作用も認められている。サンドスタチンの組織学的検討を待ってTNFαの抑制効果を総合的に検証する必要があるが、肉芽形成を抑制できる治癒機転修飾が薬剤投与で可能となったことは大きな進捗と考えられる。一方、薬剤投与による副作用への対応も課題として出現している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの実験結果から、炎症初期に分泌されるTNFαを抑制することで肉芽形成を予防し、その結果瘢痕を来さない治癒過程を誘導することができる可能性が示唆された。一方、TNFαを抑制することで易感染性や易出血性という副作用も明らかとなった。これらの結果は、複雑な生体反応において、一部を抑制することは、それによる限局的な作用だけに留まらず、他のシグナル系が活性化されることで、トータルとしては治癒機転を悪化させる作用も惹起された。従って、一部のシグナルを抑制するだけでなく、個体の治癒機転を全体的に持ち上げる方策を同時に行うことが、理想的な治癒機能誘導に重要との発想に至った。 そこで、平成30年度は、副作用を減弱し治癒過程を促進する方策として、成長ホルモンの事前投与の効果を検討したい。成長ホルモンは、組織修復能を高めるだけでなく、内因性TNFα分泌を間接的に抑制することが明らかになっている。従って、成長ホルモンの事前投与により間接的にインフリキシマブやサンドスタチンのTNFα抑制効果が緩和されることで副作用の発現を抑制し、同時に成長ホルモンにより組織修復機能の向上を図ることで、選択的に肉芽を抑制した治癒機転が促進され、理想的な治癒機転修飾方法を確立することができるものと考えられる。従来、このような薬剤の組合せによる治癒促進効果の検討はなく、興味深い検討課題と考え、検証したい。
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Causes of Carryover |
購入した消耗品の費用が予想より低コストでありました。 研究を推進する上で、物品費、消耗品費、論文掲載費用に当てていく予定であります。
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