2017 Fiscal Year Research-status Report
神経―癌細胞間クロストークの解析:口腔癌細胞による神経新生誘導と末梢神経浸潤
Project/Area Number |
16K11529
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Research Institution | The Nippon Dental University |
Principal Investigator |
添野 雄一 日本歯科大学, 生命歯学部, 教授 (70350139)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
島津 徳人 麻布大学, 生命・環境科学部, 准教授 (10297947)
田谷 雄二 日本歯科大学, 歯学部, 助教授 (30197587)
白子 要一 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (50756377)
佐藤 かおり 日本歯科大学, 歯学部, 講師 (90287772)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 病理学 / 腫瘍 / 扁平上皮癌 / 神経浸潤 / 神経新生 / 遺伝子発現 / 同所移植モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
口腔癌の疼痛に関して、癌細胞の浸潤に伴う神経組織の圧迫・損傷刺激を含め多彩な要因が想定されている。本研究では、口腔癌細胞と末梢神経線維との相互作用の解明を目指し、舌癌動物モデルを用いた病理形態解析を行う。 これまでに、ヒト口腔癌由来細胞株HO-1-u-1のヌードマウス舌組織への移植によって、扁平上皮癌病巣の形成とともに周囲の神経線維束に沿った浸潤所見を得ており、この担癌動物モデルを主体とした癌細胞形質・分子動態解析を続けている。移植実験では、HO-1-u-1細胞の増殖活性は他の口腔癌細胞株と比して高くないこと、組織破壊能が乏しいこと、が判明した。HO-1-u-1細胞の移植後~14日間は舌表面の目視では腫瘍塊は認められず、腫瘍塊を形成するまでに平均して30日間以上を要した。採取した舌組織を観察すると移植部で癌細胞は小集塊を形成しており、特に舌筋線維の間隙では数十個の癌細胞が連なって進行する様子を認めた。免疫組織学的検索により、癌組織の浸潤先端部では上皮細胞骨格のサイトケラチンに加え、間葉細胞骨格であるビメンチン、癌幹細胞マーカーCD44発現が高発現していることも判明した。また、HO-1-u-1細胞の浸潤形質の特異性を検証するため、異なる口腔癌細胞株(HSC2, KOSC2, OSC19, OSC20)についても腫瘍組織の構造解析を行った。病理組織切片での組織形態計測では、比較対照の口腔癌細胞では腫瘍領域に占める実質の割合は平均70%以上であったのに対して、HO-1-u-1細胞では約60%に留まった。腫瘍間質では一般に新生血管によって周囲組織よりも血管密度が高まるが、HO-1-u-1腫瘍間質におけるPECAM陽性血管内皮細胞密度の解析では血管密度に変化が無いことも突き止めている。最終年度ではHO-1-u-1の神経向性の分子基盤、神経新生の実態把握を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者らが確立した画像処理法では、バーチャルスライドスキャナによる高精細デジタル画像化と、ImageJ/FIJI(NIH)およびTRI-SRF2(RATOC Inc.)を用いた画像統合処理によって腫瘍実質の多彩な細胞表現型と間質要素を同一切片で検出・解析することができる。このシステムを活用し、HO-1-u-1腫瘍塊における実質細胞(Cytokeratin, E-cadherin, Vimentin, CD44)と間質要素(PECAM, Lyve1, NFP)の局在、相互関係を明らかにすることができた。同時に、HO-1-u-1以外の口腔癌細胞株の移植試料についても増殖・浸潤活性(Ki-67, βcatenin)や間質誘導活性(VEGFA, VEGFC)について比較解析を実現している。 また、組織学的所見の検証として、主要な細胞形質マーカー(E-cadherin, N-cadherinなど)について培養細胞での遺伝子発現解析が済んでいる。当初計画として、移植した癌細胞(原発巣・転移巣)における遺伝子発現の比較解析を遂行していたなかで、HO-1-u-1細胞は組織破壊能が乏しいために腫瘍塊には多数の神経線維や舌筋組織が含まれ、核酸抽出精度が安定しないという技術的な課題が浮上した。間質組織の影響を最小限に抑えるための試料調整を繰り返した結果、均質な試料を得ることができており、次年度での解析に向けた準備は整っている。また、組織切片の任意領域を切り取るレーザーマイクロダイセクション法を使用予定であったが、年度途中に機器の不具合が生じたため、これらの実験系を延期した。幸い、比較対照となる口腔癌細胞株の試料調整は済んでおり、遺伝子発現解析を先行して進めることができ計画に遅れは生じていない。
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Strategy for Future Research Activity |
HO-1-u-1細胞の神経浸潤に関わる分子基盤ならびに構造解析を継続する。HO-1-u-1細胞と神経との相互作用の検証に向けて、舌尖・舌根・口底の各部位にHO-1-u-1細胞懸濁液20 μl(100,000 細胞)を注入、移植後2,4,6,8週間で舌~口底部組織を採取、癌細胞形質変化の免疫組織学的検証を行う(白子・田谷分担)。神経線維束とHO-1-u-1細胞の接触領域に焦点を当て、連続薄切切片への多重免疫標識と組織立体構築を実施し、神経―癌細胞相互の空間的な距離、誘導因子(軸索誘導に関わるNetrinなど)の発現分布について計測を予定する(島津分担)。 分子発現解析に向けては、HO-1-u-1腫瘍塊(移植後約4週以降、直径2 mm程度に増生したもの)を切除し、DNAおよびmiRNAマイクロアレイを実施する(佐藤分担)。神経細胞への作用を確かめる目的では、HO-1-u-1細胞と神経前駆細胞PC12(ラット褐色細胞腫由来;NGF刺激により分化する)をケモタキシスチャンバーにて共培養し、神経細胞では増殖活性・分化誘導について、HO-1-u-1細胞では運動能について測定する(田谷分担)。培養細胞は固定後免疫染色にて表現型を確認するとともに、マイクロアレイを実施し、アレイデータのIPA解析により共培養で発現変動を来したシグナルカスケードを同定する。神経新生を定量的に判定するため、腫瘍塊をホモジナイズし神経骨格サブユニット抗体(NF-L;神経新生の指標、NF-H;成熟神経の指標)、交感神経マーカーTH(tyrosine hydroxylase)、副交感神経マーカーVAChT(vesicular acetylcholine transporter)を用いたウェスタンブロットならびに免疫組織学的検索を行う(添野分担)。
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Causes of Carryover |
レーザーマイクロダイセクションによる腫瘍任意領域の分画・試料採取を行っていた時期にマイクロダイセクション装置の不具合が生じたため、これらの実験系を延期し、比較対照となる口腔癌細胞株での発現解析を先行した。 使用計画として、予定していたHO-1-u-1 移植試料からの腫瘍実質・間質の分離採取を再開する。繰越金はマイクロアレイ委託解析費用として使用する。
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