2016 Fiscal Year Research-status Report
難治性疼痛における血小板活性化因子合成酵素の役割と治療戦略・歯科領域への応用
Project/Area Number |
16K11550
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
本山 直世 広島大学, 医歯薬保健学研究院(歯), 助教 (70509661)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
土肥 敏博 広島文化学園大学, 看護学部, 教授 (00034182)
峯岡 茜 広島大学, 病院(歯), 助教 (00452623) [Withdrawn]
森田 克也 広島文化学園大学, 看護学部, 教授 (10116684)
北山 友也 武庫川女子大学, 薬学部, 講師 (60363082)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | PAF合成酵素 / 鎮痛 / PAF |
Outline of Annual Research Achievements |
従来の鎮痛薬が奏効しない難治性疼痛に対し,新しい治療薬・治療法の開発が待たれている.申請者らは血小板活性化因子(PAF)が脊髄で疼痛の発症に寄与すること等を報告してきた.近年,炎症時に誘導・活性化されるPAF合成酵素LPCAT2がクローニングされた.そこで,LPCAT2の役割に焦点をあて以下の知見を得た. ①神経障害性疼痛モデルマウスで脊髄LPCAT2のノックダウンにより疼痛反応は消失し,観察期間を通して(4ヶ月以上)極めて長期間にわたる『永続的な疼痛緩和作用』を見出した.同様の疼痛緩和作用はがん性疼痛や慢性炎症性疼痛モデル等の原因の異なる各種疼痛モデル動物において認められた.さらに神経障害性疼痛やがん性疼痛モデル動物の脊髄でLPCAT2発現の持続した上昇を認めている.②PAF受容体刺激により,PAFが産生・遊離されるというpositive feedback loop が報告されている.PAF脊髄腔内投与により持続した疼痛の発現とLPCAT2発現誘導を認めた.LPCAT2の発現誘導が困難となる処置(PAF阻害薬の長期間連続頻回投与,PAF受容体中和抗体持続投与)により一定期間PAF受容体を阻害することで,疼痛関連行動は長期間にわたり消失した.③活性化ミクログリア,アストロサイト及び培養上清およびを脊髄腔内投与によりアロディニアと熱刺激疼痛過敏を生じ,これらはPAF阻害薬及びLPCAT2ノックダウンにより消失し,活性化グリア細胞からPAFが産生・遊離されていることが明らかになった. 以上より,『難治性疼痛発症時には脊髄でLPCAT2が誘導され, PAF産生が持続的に亢進される.このことが疼痛の発症と維持(難治化)に寄与』するとの作業仮説を導くに至った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
誘導型PAF合成酵素LPCAT2の疼痛の発症と維持(難治化)における役割に注目して精力的に研究を行っており,『難治性疼痛発症時には脊髄でLPCAT2が誘導され, PAF産生が持続的に亢進される.このことが疼痛の発症と維持(難治化)に寄与』するとの作業仮説を導くに至った.さらに,LPCAT2の発現誘導が困難となる処置による疼痛緩和の実現,ミクログリアやアストロサイト等のグリア細胞から持続的に産生・遊離されたPAFが疼痛の発症と維持(難治化)に関係する可能性を示すことができた。 疼痛の発現・維持機構の解明と誘導型PAF合成酵素LPCAT2阻害という新しい作用機序を持つ治療薬の開発を目指したもので,機序に基づいた疼痛治療法開発と適切な鎮痛薬の使用法の理解,臨床応用を目的としたトランスレーショナルリサーチに進みうる科学的エビデンスの構築にむけ順調に推移している.
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Strategy for Future Research Activity |
疼痛病態の発症と維持機構におけるLPCAT2の役割に注目し,①~③の研究において申請者らの「新しい作業仮説」(前述)の実証と「永続的な疼痛緩和」という新しい治療戦略を構築し,これらの成果を基盤として ④で歯科臨床における疼痛治療への応用の探究を目標とする. ① 難治性疼痛の発症と維持における誘導型PAF合成酵素LPCAT2の役割について,活性化(リン酸化),発現誘導の時間的解析,遺伝子発現調節,LPCAT2が誘導される細胞について免疫組織化学的検証等の多面的アプローチから明確にし,作業仮説の妥当性について実証する.加えて活性化ミクログリア、アストロサイトの脊髄への移植によりアロディニア等の疼痛関連行動が生じた。この時の脊髄LPCAT2発現動態を検証する。 ②LPCAT2の発現誘導が困難となる処置による疼痛緩和の実現とLPCAT2発現動態の詳細な検証から,PAF産生・遊離のpositive feedback loop の疼痛維持機構への関与を明確にし,LPCAT2が新しい鎮痛薬開発のシーズとして有益であることを検証する. ③特異的LPCAT2阻害薬の鎮痛薬として臨床研究へのステージに進む科学的エビデンスの構築:PAF生合成阻害作用が生薬の小青竜湯エキス,海綿に含まれるScalaradial, Luffariellolide,柴胡の公知成分であるSaikosaponin D, Glycyrrhizin等で知られている.これらの疼痛緩和作用とLPCAT2阻害について詳細に検証し,特異的LPCAT2阻害薬開発の端緒を開く. ④歯科領域における疼痛療法への応用:口腔領域の炎症性・疼痛疾患(歯周病,歯髄炎,顎骨骨髄炎、口内炎等)におけるLPCAT2阻害の有用性が示唆される.炎症の消退,疼痛の緩和により,新しい歯科保存療法の開発,更には,がんの化学放射線療法における重大な副作用とされる口内炎の治療法開発の基盤となることが期待される.
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Causes of Carryover |
PAF合成阻害を有する生薬およびその公知成分を用いて、LPCAT2阻害薬開発に関する研究およびLPCAT2の遺伝子発現調節に関する研究については実施できなかった。29年度で実施したい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
PAF合成阻害を有する生薬および公知成分の購入,LPCAT2発現調節ドメインの解析のための各種試薬の購入に使用する。
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Research Products
(3 results)