2018 Fiscal Year Research-status Report
インプラント治療に抗酸化治療の併用をめざした基礎的研究
Project/Area Number |
16K11646
|
Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
上野 剛史 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (30359674)
|
Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2020-03-31
|
Keywords | インプラント / 活性酸素種 / 酸化ストレス / 抗酸化 / 骨芽細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで、生体材料表面に培養された細胞について、細胞内の活性酸素種(ROS)という観点から、その親和性を評価した研究は少ない。本研究では、チタンインプラントの親和性を、ROSから評価することを第一の目的とした。チタンは元々生体親和性の高い材料であることが知られているが、実際の骨-チタン接触率は、長期の治癒時間を待っても30-60%程度であることが報告されており、この生体の反応に幅があることについての要因を提示した研究は少ない。本研究ではまず、骨を形成する主要な細胞である骨芽細胞を用いて、これをチタン表面に培養し、培養初期の4時間後と24時間後において、細胞内ROSの定量と染色による画像評価を行った。その結果、生体親和性が高いはずのチタン表面に培養した細胞においても、ROSが発生することを示した。このことにより、チタン表面における細胞の挙動は、ROSの影響を受けることが示唆され、ROSの発生レベルによっては酸化ストレスにより細胞の活動が抑制されることも示唆された。次に、この細胞内に発生したROSによるDNAの酸化損傷レベルと、アポトーシスレベルの評価を行った。その結果、DNA損傷は、通常のポリスチレンプレートに培養した細胞のものと比べると、画像評価からは少なからず認められたが、アポトーシスはそれほど認められなかった。つまり、チタン上に培養した細胞内ROSのレベルは、DNAに酸化ストレスを与え、細胞の基本的な機能に対して抑制的な影響をおよぼす可能性があることが考えられるが、細胞死を誘導するほどのレベルではないということが推察された。申請者の過去の研究から、チタンの細胞親和性には、表面に自然付着した有機物(炭素化合物)が大きく影響していることが示されている。このことから、チタン上の炭素量と細胞内ROSの関連を検討したところ、炭素除去により、細胞内ROSが減少することが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
通常のチタン上に培養された細胞の機能と、ROSに関連性があることが証明されたことから、チタン表面の処理によっては、細胞内ROSの発生を減少、もしくは適正化し、細胞機能の活性化を亢進させられる可能性を示すことができた。チタン表面は、有機物(炭素化合物)の自然付着を避けることができないことが報告されている。また前述のように、チタン表面の有機物が、骨芽細胞の活性を抑制することが、申請者らによりすでに証明されている。これらのことから今回、チタン表面の炭素量による細胞内ROSの発生を評価したところ、炭素を除去することにより、細胞内ROSの発生を抑制し、とくに細胞接着や細胞骨格形成の基本的な細胞機能を促進するということを示すことができた。 このことはチタンの表面処理によって、チタン表面に抗酸化効果を付与できることを示している。つまり本研究においては、チタンの抗酸化効果を最適化するための表面処理方法を開発することをめざした、基礎的なデータを得ることができたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
インプラント治療には必ず外科的処置を伴うため、インプラント周囲には炎症に起因した多くのROSが発生し、それが過剰になった場合は、細胞のアポトーシスや組織治癒の遅延を引き起こすことが知られている。そのような状況をシミュレートし、親和性の高いチタンと通常のチタンで、細胞内ROSの発生状況の違いを評価する。このシミュレートについては、すでに論文発表されている実験を踏襲するため、予備的な実験を必要とせず、実験の遂行に支障は少ないと考えられる。この結果によっては、インプラント表面自体が直接的もしくは間接的に抗酸化作用を有することが生体内で有利に働くという結論を導ける可能性があると考えられる。実際にチタン表面に付着した有機物を除去すると、骨芽細胞内のROSが減少するという結果が得られたことにより、炎症下の状況をシミュレートしたモデルでも、通常のチタンに比較して細胞内ROSが減少するという可能性は高いと考えられる。さらに、この炭素の除去方法については、紫外線やガンマ線など、ある特定の波長を有する光を照射することで有機物を分解する方法や、次亜塩素酸などを用いた化学的な洗浄方法などがあげられる。今後は、細胞に対する酸化ストレスの減弱からみたチタン表面の処理方法の最適化をめざして研究を推進する妥当性も得られると考えられる。本研究は、生体材料の生体親和性の評価をROSから評価する点と、生体親和性が高いと信じられてきたチタン上に培養された細胞からもROSが発生するということを示した点で新規性が高く、またそのROSをコントロールすることにより、チタンの生体親和性を向上させ、より効率のよい骨形成能をもつインプラント技術を目指すという点で、発展性の高いものと位置づけることができると考えられる。
|
Causes of Carryover |
(理由) 実際の交付内定が平成28年末であり、すでに申請が採択されなかったと判断していたこともあり、研究の開始が遅れたため。さらに、2018年度に申請者が心臓弁膜症のために長期病気休暇をすることとなったため。 (使用計画) 2018年度までの研究成果を順次発表していくために使用する予定である。
|
Research Products
(3 results)