2017 Fiscal Year Research-status Report
口腔癌におけるSlit/Roboシグナル作用機構の解析とバイオマーカーの開発
Project/Area Number |
16K11716
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
安部 貴大 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (20383250)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 雅修 東京大学, 保健・健康推進本部, 講師 (10392333)
森川 鉄平 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (80451772)
浜窪 隆雄 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (90198797)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 口腔癌 / Robo1 / Slit |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、様々な細胞機能に関与するSlit/Roboシグナルについて、まだ明らかとなっていない口腔扁平上皮癌での発現様式やシグナル伝達機構を明らかにしたいと考えている。口腔粘膜上皮基底細胞層の細胞接着系の破綻によって起こる発癌、進展のメカニズムに、Slit/Roboシグナルが重要な役割を担っていることが予想されることから、当初の予定として掲げた検討項目、1)細胞株を用いたRobo受容体の発現検討、2)Slit誘導による増殖能や遊走能の検証、3)切除時に採取したヒト検体(癌部、非癌部、前癌病変)の組織学的、生化学的発現解析を進めた。まずは、ヒト由来口腔扁平上皮癌患者から樹立された細胞株HSQ-89, HO-1-u-1, Sa3, SASを用いてROBO1の発現の有無について検討を行った。細胞株は理化学研究所細胞材料開発室より入手した。抗ROBO1抗体は先端科学技術研究センター計量生物医学研究室所有のモノクローナル抗体を用いた。mRNA発現は各種プライマーを設計のうえqRT-PCRで検討し、シークエンス解析を行った。タンパク発現はウエスタンブロット、フローサイトメトリー、免疫染色で検討した。さらにHSQ-89細胞株を用いてSlit誘導による遊走能の検証を行った。これらの検討結果から、mRNAはいずれの細胞株も発現を認めた。また、HSQ-89細胞株ではシークエンスでROBO1と同じ配列を認めた。一方、タンパク質ではHSQ-89, HO-1-u-1、Sa3の細胞株に発現を認めたが、SAS細胞株では検出できなかった。HSQ-89細胞株のSlit誘導による遊走能を確認した。これらの検討より、口腔癌の代表的な細胞株において、ROBO1の発現を認めた(mRNA; 4/4,タンパク質; 3/4)。ROBO1の発現が口腔癌の発生や浸潤・転移に関与するか,今後さらなる検討を進める.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ウェスタンブロッティングを行った検討では、強制発現細胞株であるRobo1/CHOで検出される同じ位置にHSQ-89、Sa3でバンドが検出された。Robo4/CHOでは検出されなかった。ヒトに交差性のあるCHOの抗ヒトGAPDH抗体により、HNSCC細胞株4種類では、約37kDaの位置にバンドが検出された。一方、フローサイトメトリーにより、Robo1/CHO、HSQ-89、Sa3ではMFIの右方シフトが観察され、Robo1が検出された。フローサイトメトリー、qRT-PCRによる、Robo1のタンパクおよびmRNAの相対定量はRobo1/CHO、HSQ-89、Sa3、HO-1-u-1、SASのRobo1のタンパクの1細胞あたりの発現量で、それぞれ220,000、22,300、3,010、184、33.7分子であり、それぞれRobo1/CHOの1/10、1/100、1/1,000、1/10,000程度の発現量であった。Robo1/CHO、HSQ-89、Sa3のRobo1のmRNAの1細胞あたりの発現量では、1.97、0.281、0.0226であり、比較的発現するHSQ-89、Sa3でそれぞれRobo1/CHOの1/10、1/100程度と、Robo1/CHO、HSQ-89、Sa3の間のRobo1のタンパク発現およびmRNA発現は相関していた。これに対しHO-1-u-1、SAS、Robo4/CHOのRobo1のmRNAの発現は測定限界値未満であった。このように細胞株には、ROBO1の発現量に差があることが示され、これはヒト検体においても同様の傾向が示唆され、さらに抗体の特異性を担保する染色が得られにくいことも計画を阻む要因となった。
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Strategy for Future Research Activity |
Robo1の機能は、軸索誘導以外に、細胞移動や細胞骨格への関与が報告されている。Robo1は、胎児の脳や肝臓、胃などでの高発現が伊藤らにより報告されているが、成人の正常器官では明らかなRobo1の高発現は認めない。一方、ヒト線維血管増殖性糖尿病性網膜症の網膜ではSLIT2およびRobo1の発現が高いことが報告されている。また、Robo1は、伊藤らのトランスクリプトーム解析により、肝細胞癌の特異的抗原として報告されており、肝細胞癌の患者血清では分泌型Robo1の量が健常人と比較して高いことから、肝細胞癌のRobo1検出による血清診断への可能性が示される知見が見いだされた。さらに、抗Robo1抗体によるADCC、CDCCの存在が示され、抗体医薬としの可能性が示された。Robo1の発現は、大腸癌、小細胞肺癌、神経膠腫、乳癌、そして近年、HNSCCでも報告されるようになったが、Robo1は癌細胞における発現だけではなく、癌の血管内皮細胞での発現も報告され、先に述べた、SLIT2/Robo1シグナルが、癌細胞の浸潤、転移、上皮間葉移行(EMT)、腫瘍血管新生における重要な役割を果たすことが示されてきている。さらに共同研究者の浜窪らの研究により、肝細胞癌、小細胞肺癌において、A 90Yによりラベルした抗Robo1抗体による放射免疫療法 (Radioimmunotherapy, RIT) の有効性が示されたこともあり、Robo1は抗体による癌治療法の標的因子としての可能性の高いものであると考えられる。そのため、本研究では、複数のHNSCC細胞株におけるRobo1の発現量を明らかにすることで標的因子としての可能性を模索し、抗Robo1抗体を用いた細胞障害活性の検討についても模索し、HNSCCに対するその有効性についても推し進めていきたい。
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Causes of Carryover |
前年度に引き続き、現有の物品費での研究遂行が可能であったことから、実験試薬等の必要経費が軽減された。また、発現解析の実験系に時間を要し、その結果としてRobo1の発現の多様性が認められたことから、シグナル伝達の解析への試薬投入が行われず、高額な支出がなかった。今後はRobo1抗体の親和性の違いによる細胞障害活性の検討にも着目し、ヒト検体(癌部、非癌部組織、血液)の解析ならびに動物実験への着手を目指したい。
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Research Products
(7 results)