2016 Fiscal Year Research-status Report
特発性歯痛発症への前頭前野の機能変調の影響に関する研究
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16K11759
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Research Institution | Kyushu Dental College |
Principal Investigator |
椎葉 俊司 九州歯科大学, 歯学部, 准教授 (20285472)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
左合 徹平 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (80710574)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 慢性疼痛 / 特発性歯痛 / 心理ストレス / 前頭前野 / 大脳辺縁系 |
Outline of Annual Research Achievements |
特発性歯痛(ideopatic toothache;IT)は口腔顔面領域の慢性疼痛の一つである。ITの発症機序は未だ明らかにされおらず、治療法もないのが現状である。ITの痛みは通常、ヒト以外の動物にはみられない。ヒトのみのITが起こる理由として、高度に発達した高次脳機能の変調が関与していると推察される。本研究はヒトのヒトたる所以である前頭用連合野にある前頭前野のに注目した。大脳辺縁系は恐怖や怒り、嫌悪、愛着、喜び、悲しみなどの情動の中枢である。痛みも不快な情動体験と定義されており、痛みの処理、修飾にも大脳辺縁系が深く関与すると予測される。大脳辺縁系は負荷されたストレスの快・不快を判断し情動が生じると同時に、その活動変化は前頭前野に伝えられる。前頭前野は大脳辺縁系活動をコントロールするより高次脳であり、過度の反応を抑制する働きを持つ。うつ病、PTSDは日常生活における繰り返される強いストレスによる前頭前野の疲弊化が原因とされる。IT患者の多くは痛みが起こる以前に心理的な強いストレスを被っている。平成28年度は慢性疼痛の発症に心理ストレスが関与する可能性を検討した。ラットに拘束水浸ストレス(拘束ケースに固定し胸骨中央部まで20℃の水に3時間浸す)を7日間負荷してストレスモデルを作製した。その後、坐骨神経を4箇所を絹糸を用いて緩徐に結紮し、ラット足底部の慢性疼痛を発症させた。この動物モデルの足底部に疼痛刺激を加え、疼痛関連行動を測定し疼痛閾値を測定した結果、ストレス負荷モデルでは有意に疼痛閾値が低いことがわかった。以上より、ITを含めた慢性疼痛疾患には心理ストレスが関与する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度は心理ストレス負荷が前頭前野活動の機能を変調させることを明らかにする目的で研究を進めた。心理ストレスが負荷された生体は大脳辺縁系、特に扁桃体の異常な活動亢進を招く。この時、過剰な活動を抑制するために、さらに高次脳である前頭前野の活動が亢進し大脳辺縁系に抑制的に働く。心理ストレスを負荷した動物モデルの疼痛閾値が低下したことで、心理ストレスが慢性疼痛の発症に大きく関与していることが明らかとなった。心理ストレス負荷動物モデルに疼痛刺激を加え、前頭前野の活動状態をマイクロダイアリシスによる前頭前野の神経伝達物質を測定することで評価すること、セロトニン、ドーパミン、アドレナリンのどの神経伝達物質が関与しているかを明らかにすることまでを28年度の目標としていたが、そこまでは到達していない。しかし、既に心理ストレスモデルに疼痛刺激を加えたときの前頭前野の細胞外液のサンプリングは終了しており、分析を残すのみである。分析は余裕をもって1日1サンプルの分析でも1ヶ月以内で終了することが可能である。サンプル分析の結果によっては他の神経伝達物質の検討も必要となるが、既に心理ストレス動物モデルの作製法、サンプリングシステムの構築は完成しており多くの時間は必要としない。従って、本研究は概ね順調に進展していると予測される。
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Strategy for Future Research Activity |
心理ストレスの負荷によって疼痛閾値低下が28年度の研究で明らかとなった。心理ストレスにさらされた状態では通常では痛みと感じない刺激でも痛みと感じてしまうことがある。従って、慢性疼痛発症機序には心理ストレス負荷が少なからず関わっていると予測される。心理ストレスが身体のどの部分に影響を与えているのかが重要である。研究代表者は心理ストレスは高次脳、特に前頭前野を疲弊化すると考えている。29年度は28年度に用いた心理ストレス負荷ラットに疼痛刺激を加えた場合の前頭前野の活動変化を前頭前野に埋入したマイクロダイアリシスを用いて神経伝達物質の細胞外液量を足底することで検討する。前頭前野が疲弊化するのであれば神経伝達物質の細胞外液量は痛み刺激を加えても増加しないことが予測される。対象とする神経伝達物質はセロトニン、ドーパミン、アドレナリンとする。さらに、前頭前野の疲弊化が明らかになれば、IT患者に疼痛刺激を加えた場合の前頭前野の活動をfMRIで検討する予定である。
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Causes of Carryover |
物品が予定価格よりも低価で購入できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
論文作製費用として使用する。
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