2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K12366
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
井上 健 福島大学, 経済経営学類, 教授 (80334001)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 高樹 福島大学, 経済経営学類, 教授 (40231956)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 漁業権 / 漁業共同体 / 居住要件 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では特に東日本大震災以降に顕著化し始めた漁業権行使に関わる居住要件について、現状の把握と今後の在り方について探求することを目指している。沿岸漁業においては資源管理や漁業集落における協調体制の確立などに寄与してきたと評価されている制度ではあるが、特異な状況と考えられる現在の東北太平洋沿岸地区において、本来的な意味とは異なる形で機能している可能性が見えてきたことが、本研究の背景にはある。 以上の研究課題に取り組むために、本年度は、漁業地区調査と既存研究の整理を行った。漁業地区調査では宮城県石巻市の3地区と宮城県の広域を管轄とする漁協1か所におけるヒヤリングを実施した。先行して前年度に別の地区で実施したヒヤリングの結果も含め、明らかになってきたのは以下の点である。第一に、相異なる二つの意見が明確に対立する状況が存在しているということである。具体的には、本来の居住要件通り、いかなる理由があっても対象地域に居住していないものには漁業権の行使を認めないという意見に対して、特例的な状況であることから居住要件をある程度緩めるべきだという意見が存在している。第二に、意見の分布が地区によって異なっているということである。居住要件を厳しくするべきという意見が多数を占める地区から、その逆の地区まで分布の態様は様々であることが確認された。以上のような状況の中で県を統括する漁協に対して統一的な方針を示すべきであるという意見も存在している。ただし、漁業権行使については伝統的な漁村単位の自治に委ねられてきたことから、そのような対応は現状としては難しいようである。既存研究の整理においても、現地調査で確認された2つの異なる立場と同様のものが存在していることが確認されているが、本研究課題について直接取り組んでいる研究の存在は確認されていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2016年度には、漁業地区調査として、漁協および支所を合わせて20地区でヒヤリングを実施する計画であったが、実施できたのは10地区であった。先方の都合もあり、こちらの予定通りのスケジュールで必ずしも進められないことが計画通りに進んでいない一つの要因となっている。ただし、調査を実施する中で派生的に得られた情報もあるため、必ずしも当初の20地区すべてで調査を実施する必要性はなくなったと判断している。特に、宮城県の広い範囲を管轄とする漁協において適切な情報を収集できたことは本研究の進展にとって非常に意義があったと判断している。調査研究を行う前には、漁協が統一的な方針を示し、その方針で示された状況に向かって収束していくという結末もありうると考えていたが、現時点では、そのような可能性は低いと判断している。もう一つ予定した調査研究事項である、既存研究の整理については予想していたよりも対象領域についての先行研究が少ないことが分かったため、周辺領域も含めて再度調査することが必要となっており、次年度に残された課題となっている。以上の点を考慮した上での研究の実質的な進捗状況は7割程度と評価しており、やや遅れ気味という判断となる。次年度以降、適切な調整を行いながら、対応していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降、漁業地区調査において未実施となった地区に加えて、本来の年度計画で実施する予定であった地区について、ヒヤリングを実施していく。ただし、調査の設定において難航した1年目の経験をふまえて、実質的な情報量は保ちつつ調査地区数の絞り込みを行っていく。訪問した地区において近隣地区における情報も合わせて入手するような工夫をすることがおもな手段になると考えている。また、支所についての情報を本所で一括して入手するなど効率的な収集に努める。
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Causes of Carryover |
予定していた漁業地区調査が先方の都合等の理由で実施できないものがあり、結果として旅費支出が当初の予定額よりも少なくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に対応できなかった漁業地区における調査を期間設定等による工夫をしながら2年目の予定の中に入れ込んでいく。そのための調査旅費として使用する。
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