2016 Fiscal Year Research-status Report
被災地における暮らしの再構築とその民俗的背景に関する調査研究
Project/Area Number |
16K12379
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
政岡 伸洋 東北学院大学, 文学部, 教授 (60352085)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 幸治 東北学院大学, 文学部, 教授 (30551775)
岡田 浩樹 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (90299058)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 暮らしの再構築 / コミュニティの再編成 / 民俗文化の活用 / 生業の展開 / 地域の文脈 / 地域間の研究者交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、復興支援事業が終了し高台への集団移転も始まった東日本大震災の被災地である①宮城県本吉郡南三陸町戸倉波伝谷、②宮城県石巻市牡鹿町鮎川、③宮城県石巻市雄勝町といった三陸沿岸の3地区を中心に、民俗学の立場から現地調査によって得られた資料に基づき、そこに見られる様々な現象を把握するとともに、震災前のあり様にも注意しつつ、その意味について地域の暮らしの文脈から考えようとするものである。また、阪神淡路大震災の被災地である神戸市長田区および淡路市富島でも同様の調査・分析を行い、さらには各地の巡検調査も実施することで、そこで得られた結論を普遍化させることも目指している。以上の目的の下、平成28年度には、研究代表者及び研究分担者・連携研究者が分担して上記のフィールドでの現地調査を実施し、被災地での動きを軸に資料を収集・分析を行った。 また、本年度は、新潟県中越地震の被災地での巡検調査を行うとともに、長岡震災アーカイブセンターにて地元研究者と共同で『公開研究ワークショップ「被災地と地域文化」』も開催し、情報共有と課題の普遍化を目指すための議論の場も設けることができた。本研究のような被災地での動きを対象とした研究では、地域性・個別性が顕著なこともあり、普遍化することが非常に難しい点が指摘できるが、このような各地の研究者間の情報共有および普遍化に向けての議論の場を持つことは極めて重要であることも、あらためて再認識させられた。 そのほか、本年度の研究成果報告会については、広く研究者のみならず市民にも公開するため、『今だからこそ議論する「被災地で民俗学が考えるべきこと」』と題して、現代民俗学会と共同で開催し、福島県の被災地での動向も視野に入れつつ議論し、被災地での動きの意味とともに、民俗学としてどのようにこの問題に向き合うべきかについても考える重要な機会となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査に基づく資料の収集および分析については、一般的に復興支援事業等も終了し、被災地は新たなスタートを切って復興も順調に進み、大きな変化の時期は終わったかのようなイメージがある。しかし、実際にはどうかというと、例えば南三陸町戸倉波伝谷では一連の復興関連事業の完成に伴い、新たな暮らしの再構築に向け、コミュニティの再編成を目指すなど再び動き出そうとしており、石巻町鮎川でもこのような状況の中で民俗文化が活用され、新たな地域づくりがはじめられようとしている。このように、被災地では新たな暮らしの構築に向けスタートを切ろうとしている現状が見えてきた。この点からすれば、被災地の暮らしの再構築の問題を考える上で、今後の動きについてもきっちりと把握し、その意味について考えていくことは、極めて重要である点が再確認できたことは大きな成果であった。 また、以上のような東日本大震災の被災地での研究成果について、新潟県中越地震の被災地の動きと比較し、その共通点と相違点を議論する機会を得たことは、ともすれば狭い地域内だけの議論に埋没しがちな理解を相対化するうえで非常に意味があったのではないかと考えている。 さらに、平成28年度の研究成果報告会を現代民俗学会と共同で開催できたことは、被災地を民俗学の立場から対象化する際の学問的意義と課題について、幅広く議論する機会ともなり、本研究の成果を今後どのように活かすべきかを考える貴重な機会ともなった。 このほか、本研究に参加するメンバーは、その成果を国内・国外を問わず、研究者を対象とした学会はもちろんのこと、一般向けのワークショップにいたるまでさまざまな場で公表している。 以上の点から、本研究の現在までの進捗状況については、おおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、現在までの進捗状況でも指摘したように、東日本大震災の被災地では、これからの暮らしの再構築に向け、新たな動きを見せていることから、引き続き現地調査に基づく資料の収集と分析を進めていければと考えている。 また、各地の現地巡検については、単に他の被災地をみるだけでなく、そこの研究者と情報共有と議論の機会を設けることで、大きな成果が期待できることから、当初より計画していた大きな津波被害を受けた北海道奥尻島や、阪神淡路大震災の被災地である神戸市長田区、今後南海地震で甚大な津波被害が想定され本研究のテーマについても関心を持つ徳島県または和歌山県でも実施できればと考えている。 このほか、研究代表者はもちろん、研究分担者・連携研究者もそれぞれの機会があるごとに積極的に発表し、本研究での成果をさまざまな機会で研究者のみならず、広く一般市民にも公開していく予定である。
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Causes of Carryover |
研究代表者が平成28年度に学科長を務めており、校務に時間がとられることが多く、予定していた研究のための時間を確保することが難しく、十分執行できなかった点があげられる。また、研究分担者についても校務で時間を取られ、全額執行できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に校務を理由に研究費を執行できなかった研究代表者及び研究分担者も役職を離れることになり、十分研究時間を確保できるようになったことから、平成29年度においては、より研究活動に力を注ぎ、今回の不足分と合わせて執行できればと考えている。
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