2016 Fiscal Year Research-status Report
原発事故後を生きる有機農業者の生活再建と地域コミュニティ再生のエスノグラフィー
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16K12381
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Research Institution | Atomi University |
Principal Investigator |
つる 理恵子 跡見学園女子大学, 観光コミュニティ学部, 教授 (20227474)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 福島原発事故 / モノグラフ作成 / 生活再建 / 地域コミュニティ再生 / 根っこと根こぎ / 農民というアイデンティティ / 土に生きる / マイナーサブシステンスの崩壊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、福島第一原子力発電所事故により生活を根底から破壊された有機農業者の生活再建と地域コミュニティ再生過程に関するフィールドワークによりモノグラフを作成すると共に、フクシマ後の社会をどう生きるかという課題を被災地だけでなく現代日本社会の問題として捉え直すことにある。 2016年度は、福島県二本松市東和地区で有機農業を暮らしの根本に据えて生きてきた人々に聞き取りを行い、福島の原発事故以前、どのような歴史的・社会的状況下、暮らしを営んでいたのか、事故を境にどのような変化を余儀なくされたのか、その後、人々はどのような選択をし、現在に至っているのかを捉えた。それぞれの家の歴史、個人のライフヒストリー、ムラや地域社会の歴史や運営のしくみ等を通して、山や田畑に根ざした暮らしを成り立たせてきた知恵や工夫とそれを支えるしくみが浮かび上がってきた。 また、人々の語りを通して、事故を契機に東和地区以外の隣接市町村あるいは福島県内各地の人々の状況と自身のそれとを常に比較、意識しながら暮らすという視点の転換、また政治や社会への関心の目覚めや高まりといった変化が起きていることもうかがえた。 東和地区以外の地域および自治体の住民たちの状況も関連して捉えた。全村避難となった飯舘村の現状と課題、自主避難者たちの状況と全国の支援の様子、東和地区に隣接し避難地区となった川俣町山木屋地区の状況等である。家族、集落がバラバラになる中、各人が自己および相手の状況をどのように認識してきたか、また、つながりを維持するためにどのような努力がなされてきたか、当事者やその支援者による集会等で生の声を聞いた。さまざまな対立や葛藤がどのようなメカニズムで発生しているのかについても情報収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メインのフィールドとなる福島県二本松市東和地区での調査は、既に東和地区で人的ネットワークを有し、地元からの信頼も厚いジャーナリスト・研究者からの紹介を受けて始めることができた。それによって、話者の紹介をはじめとする様々な便宜を受けることができている。また、お話をうかがった方からさらに他の方をご紹介いただいたり、補足の情報を提供いただいたりするなど、調査は順調に進めることができた。 東京都世田谷区内を中心とする調査については、「コミュニティ&オーガニックカフェ ふくしまオルガン堂 下北沢」が2016年3月に閉店となったため、計画変更が生じたが、二本松市東和地区と世田谷区との交流イベント等の調査は行うことができた。また、福島県のアンテナショップの調査を追加することで東和地区だけでなく、福島県全体の現状や課題等の把握ができた。 島根県内での調査を2016年度は行えていないが、島根県への移住に関する東京都内でのイベントでの参与観察や情報収集等を通して、震災以降の地方への移住という1つの流れを捉えることができた。 以上のことから、若干、当初の計画とは異なることも生じたが、その都度代替策を講じて対応しているため、現在までの進捗状況はおおむね順調と認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度は、主に以下の3つのことを進める。1つは、引き続き関連する文献の収集・読み込みを通しての文献研究を行うことである。震災や原発関連の雑誌・論文・書籍として、社会学的研究の他、文学や哲学等にも目を配りたい。また、当事者が執筆したものや当事者の声を集めたもの等も重要文献として押さえておきたい。 2つめは、調査の実施とデータの整理・解釈である。二本松市東和地区の他、川俣町等隣接の市町村、世田谷区、島根県内、埼玉県内での調査を進める。人々の暮らしの基本には、山と田畑に根ざすこと、マイナーサブシステンスの豊かさ、農民というアイデンティティがあると思われる。それを聞き取りや参与観察を通して、何とかうまく捉えたい。 3つめは、関連学会や研究会での中間報告と情報収集を行うことである。私が所属する日本村落研究学会、日本有機農業学会、環境社会学会等への参加といずれか1つの学会での報告を考えている。
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Causes of Carryover |
メインのフィールドである福島県二本松市や他の調査他を優先したため、島根県内での調査を行うことができなかった。そのため、国内旅費の使用額が予定よりも少なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
島根県内での調査を実施していく。
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