2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K12456
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
田中 聡久 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70360584)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 音響知覚 / 認知神経科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
Large らは,リズム知覚のシミュレーションを脳神経モデルを用いて実施し,その結果から,脳活動とリズム刺激との間に生じる「引き込み」によって,リズムの知覚が生じるのではないかと推測している.Nozaradan らは,一定間隔で呈示されるピップトーンに合わせてリズム想像したとき,想像したリズムと同じ周波数成分の脳波が観 測されると報告している.Nozaradan らの研究結果から,周期音に合わせて想像したリズムの周期は脳波からデコーディングできると考えられる.しかし,周期音の呈示 が必要であるため,デコーディングできるリズムには制限 があり,自由に想像したリズムはデコーディングできない. さらに,音刺激による誘発電位 (EP; evoked potential) と事象関連電位をうまく弁別できていない可能性がある. そこで,今年度は音の呈示がない状態で,音を想像することによってリズム想像したときの脳波の周波数成分を解析し,想像したリズムと脳活動との引き込み現象を調べた.想像するリズムのタイミングを映像を用いて視覚的に 呈示し,被験者が 3 種類のリズムを想像している際の脳波を記録した.記録した脳波の周波数成分を解析し,想像したリズムの種類によって周波数スペクトルに現れる変化を調べた.また,映像が与える視覚的な影響を調べるため,リズムを想像せず,ただ映像を眺めている際の脳波を記録し, その周波数スペクトルをリズム想像時と比較した.さらに, 想像したリズムの種類によって単一試行の脳波に現れる違いを調べるため,脳波から想像したリズムを識別する実験を実施し,識別率を調べた.その結果,異なる拍子がスペクトルパワーに有意に違いとなって現れた.さらに,CCAを用いた識別実験では,チャンスレベルを上回る識別性能を出すことができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は,実験および解析を実施した.解析の結果は以下のとおりである. 各タスク(1拍子,2拍子,3拍子の想像)時のリズム周波数における振幅が 0 より大き いかを,1 サンプルの片側 t 検定で検証した.有意水準は p < 0.05 とした.t 検定の結果,無想像タスク時とビート 想像タスク時は 2.4 Hz の振幅が有意に 0 より大きかった. 2 拍子想像タスク時は 1.2 Hz と 2.4 Hz の振幅が有意に 0 より大きかった.3 拍子想像タスク時は 0.8 Hz と 2.4 Hz の振幅が有意に 0 より大きかった.これらの結果から,リ ズム想像時には想像したリズムと同じ周波数成分の脳波が 観測されることがわかった. 次に,正準相関分析による識別実験の結果,被験者間平均した識別率は 49.3 % であり,最も識別率の高かった被験者では 57.7 %, 最も識別率の低かった被験者では 36.6 % であった.全て の被験者において,チャンスレベルを上回る識別率が得ら れた.今回識別に用いた特徴量は脳波に含まれる周波数成 分の大きさに依存する.このことから,単一試行の脳波の 周波数成分にタスク間で違いが現れるということが示唆される. 以上の結果を,現在ジャーナル論文として執筆中である.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は以下の研究テーマを特に推進する. 音楽の知覚は,認知機能の発達において,重要な役割を担うと考えられている.近年,人の音楽に対する認知や脳のメカニズムなどを解明するため,音楽と脳の関係が研究されている.先行研究では,周期音や周期的なビートに対して皮質の引き込み応答が発生することや,馴染みのあるメロディーを基にした音刺激よりも,馴染みのないメ ロディーを基にした音刺激を呈示した際の方が強い引き込み応答を示すことが報告されている.しかし,自然な音楽 に対して,皮質の引き込み応答が発生するかは明らかになっていない.そこで,自然な音楽に対して皮質の引き込み応答が発生するか,また曲に対する familiarity によって皮質活動が変化するのかを明らかにするため,メロディーのみで構成される音刺激を呈示した際の頭皮脳波 (EEG; electroencelphalogram) を解析する. またリズム想像時のベータ帯域EEGの活動についても今後積極的に調査してゆく.
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Causes of Carryover |
リズム想像脳波の解析には、既存の計算機を利用することができたため、新たに購入する必要がなくなり、節約することができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
脳波の判別シミュレーション用の計算機を購入する予定.
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