2016 Fiscal Year Research-status Report
大規模エージェントシミュレーションにおける途中分岐実行の実現とその応用
Project/Area Number |
16K12488
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
鎌田 十三郎 神戸大学, システム情報学研究科, 講師 (20304131)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 大規模エージェントシミュレーション / 分散集合ライブラリ / 京コンピュータ / 人工市場シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
社会事象シミュレーションなどの分野では,モデルや対象社会への導入ルール(例:証券市場へのサーキットブレーカなど)の検証のため,各種パラメータを変更しながら,そのシミュレーション世界への影響を分析することが多い. 本研究は,この種の分析を大規模並列エージェントシミュレーションに対して効率的に行えるようにするため,シミュレーション実行中にその対象シミュレーション世界を複製し,それぞれの並行世界を並列にシミュレーション可能な環境を,京などの大規模並列計算機上に実現することを目指す. 並列シミュレーションの分枝実行は,分散オブジェクト集合ライブラリに,スナップョット取得およびデータ複製・再配置機能を導入することで,シミュレータが容易に対象世界の複製および並行世界の並列実行を可能とすることで実現する. 初年度の研究では,まず分散オブジェクト集合ライブラリの整備をおこない,加えて人工市場シミュレーション基盤 Plham への応用をおこなった.現在,京コンピュータ上で 640銘柄 32万エージェントのシミュレーションを,2000計算ノードを用いてほぼ1秒1ステップで実行可能となっている.この際,大規模シミュレーションを効率的におこなえるように,分散オブジェクト集合ライブラリ自体の各種機能拡張も進めている.現在,ライブラリなどの公開に向け,システムの完成度をあげているところである. 加えて,いくつかの分散集合クラスに対して,単純な形でのデータ複製・再配置機能のテスト実装をおこなった.本実装では,計算ノードが協調動作することで,参加計算ノード数にほとんど依存しないスケーラブルな実装を達成している.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分散集合ライブラリの開発については本研究申請時点から進めており,査読付き国際会議(ICIS2016)での発表1件をおこなった.分散集合ライブラリは,ノード間にまたがったオブジェクト集合データ(リストやマップを含む)を管理し,要素に対する演算や再配置などを管理するデータ構造である.本発表では,連想関係にある複数の分散集合について,オブジェクト共有関係を維持したまま再配置を可能とする手法を提案・実装している. 一方で,分散集合ライブラリの人工市場シミュレーション基盤 Plham への応用もすすめている.シミュレーションの効率的並列化のためには,市場取引およびエージェントのパイプライン的実行や,通信と計算のオーバラップなど高度なスケジューリングが必要であるが,分散集合を用いた見通しのよい実装が可能となりつつある.本件についても国際会議(AROB2017)で発表済みである. 一方で,分散集合ライブラリに対するデータ複製・再配置機能については,一部のクラスに対してテスト実装をおこない,そのスケーラビリティを確認した.シミュレーションのある段階において,分散集合上に管理したデータを複数のノードグループに複製・再配置をおこない,個々のノードグループごとに並行世界のシミュレーションをおこなうのが目的である.本件については,対外未発表であるため,アルゴリズムなどの詳細についての記載は,現時点では公開しない.
|
Strategy for Future Research Activity |
まずは,現状の分散集合ライブラリの完成度を高め,2017年度中の公開をおこなう予定である.Plham の改良版についても,2017年度中に順次公開をおこなう予定である.また,2017年度から Plham へのスナップショット保存機能ならびに並列実行機能の実装を開始し,年度中にプロトタイプ実装を完了する予定である. 一方で,本研究のもうひとつの課題は,提案する分枝実行機能を用いて,効果的にシミュレーション分析をおこなう手法を検討することにある.こちらについても 2017 年度後半から研究を開始し,Plham を例に重点的に分析すべき状況を検出するための仕組みや,並行シミュレーション世界の差異を実行時に判定するための仕組みについて,実応用に根ざした研究をすすめたいと考えている. Plham の開発は,東京大学和泉研究室との共同研究としてすすめており,ポスト京萌芽課題などにも取り組んでいる.まずは,従来おこなわれてきたサーキットブレーカの効用分析などを題材にシミュレーションの分枝実行や実行時分析への応用を検討したい.また,現在進めている株式市場と債券市場の相互関係などの事例も用いながら,検討を進めていきたい. 一方で,シミュレーションの大規模並列化においても,エージェントへの情報伝達の遅れ幅が,どの程度シミュレーションに影響を与えるかなど,分析すべき課題が存在する. このようなシミュレーション分析事例を題材に,どのように実行時に並行世界の差異を分析し,どのように注目すべき事象に集中的に計算資源を投入すればよいか,必要な機能の分析・検討を進めていきたいと考えている.
|
Causes of Carryover |
2016年度に入ってから,ポスト京萌芽課題に共同研究者として研究予算申請をおこない,これが受理されている. このため,二つの研究活動を協調して運用しており,本予算での 2016 年度の計算機などの備品購入費を 2017 年度に先送っている.また,旅費についても,他の研究費と協調して運用しており,また国際会議が日本で開催されたこともあり,本年度については本予算からの支出は不要となった.研究自体は,総体として順調に進んでいる.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度から本格的にシミュレーションの分枝実行の研究を開始するため,アプリケーションデータの保管・分析のための研究備品の拡充および研究発表旅費に充当する予定である。
|
Research Products
(4 results)