2017 Fiscal Year Research-status Report
生体電気信号から魚の心理を推定する:『生物感性工学』への挑戦
Project/Area Number |
16K12513
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
辻 敏夫 広島大学, 工学研究科, 教授 (90179995)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 将之 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (70253119)
平野 旭 呉工業高等専門学校, 電気情報工学分野, 准教授 (60594778)
曽 智 広島大学, 工学研究科, 助教 (80724351)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 小型魚類 / 感性計測評価 / 生体信号計測 / 行動計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,モデル生物であるゼブラフィッシュとメダカの心理状態推定法の開発を目指す.具体的には,生体電気信号から魚の生理状態と運動状態を計測し,魚の心理状態の表現軸を見出してこれにマッピングすることにより,ストレスを含めた心理状態を推定する.本研究課題は以下の4つの小目標で構成される: (1)魚の生体電気信号から生理状態と運動状態を同時計測するアルゴリズムの開発.(2)心理刺激実験プロトコルを設計し,生理状態と運動状態を解析することにより魚の心理状態を表現する空間軸の構成.(3)計測した生理・運動指標を心理状態空間に変換するアルゴリズムの開発.(4)心理状態制御モデルを構築することによる魚の心理状態の制御と未来予測の実現.平成28年度までに,1匹の魚の呼吸波計測を行い(目標(1)),人工的に恐怖を誘発して呼吸のリズムと運動を抽出し(目標(2)),恐怖情動が表現可能な心理軸を導いた(目標(2)). 平成29年度は,上記成果を学術論文として発表した(Soh et al. 2018, Zebrafish).また,エタノールを用いて快情動を誘発し,生体電気信号と行動から各種指標を抽出し,線形判別分析を用いて,快・不快・ニュートラルの3種類の情動識別を行った.その結果,不快情動は約70%の正答率で識別できるが,快情動の正答率は10%以下であった.そこで,正規分布を内包する確率ニューラルネットLog-Linearized Gaussian Mixture Network(LLGMN)を用いて識別を行ったところ快情動の正答率は50%~60%に以上に上昇し,チャンスレベルである33%を大きく上回った.この結果は,快情動の識別には非線形性が重要であることを示している.また,快情動を発現している魚からは多様な行動様式が観測され,不快情動のように画一的な行動を示さないことが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H28年度までに魚の生体電気信号から生理状態と運動状態を同時計測するアルゴリズムの開発を行い,心理刺激実験プロトコルを設計するとともに,心理状態推定のためのデータ収集実験を行った,H29年度は,生理状態と運動状態を解析することにより魚の心理状態を表現する空間軸を見出し,計測した生理・運動指標を心理状態空間に変換するアルゴリズムを開発した.この進捗は,研究計画調書に記載した当初の計画通りであるため.
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度までに,生体電気信号から呼吸指標と行動指標を抽出するシステムの構築に成功した.また,快情動と恐怖情動を誘発する化学物質を魚に与えたときの魚の行動と呼吸リズムを計測し,恐怖と快が表現可能な心理空間軸を生理指標と運動指標から構成することに成功した. H30年度は,当初の研究計画に基づき,魚の心理状態の動的変化を予測する心理状態制御モデルを構築し,ヒトと魚のコミュニケーションツールや飼育魚の精神衛生管理システムへの応用を検討する.魚の心理状態の異変を早期検知するためには,心理状態が近い未来にどのように変化するか予測することが必要不可欠である.本研究では運動制御モデルと生理状態制御モデルを構築し,実測データを用いてシステム同定を行い,そのパラメータに基づいた心理状態の未来予測アルゴリズムを開発する.たとえば,恐怖情動が誘発された直後は呼吸リズムが急激に上昇するが,数分経過すると呼吸リズムは下降と上昇を周期的に繰り返しながら下降する傾向にあることが本研究によって明らかにされている(Soh et al. 2018, Zebrafish).これは,恐怖情動が時間経過に伴って,徐々に緩和されることを示している可能性がある.このような呼吸や運動から抽出した指標の時系列変化を研究代表者が提案するニューラルネットである Reccurent-LLGMN [Tsuji et al. 2003]用いて記述し,心理状態表現空間にマッピングすることで心理状態の未来予測を行う.そして,魚の心理状態の異変をいち早く検知できるだけでなく,モデル予測制御法に基づいて適切な心理刺激を魚に与えることで所望の心理状態を目標値とした心理状態制御を行うことを目指す.さらに,計測された生理状態と行動状態,および,推定した心理状態をディスプレイに提示することで,人間と魚の間のコミュニケーションシステムを開発する.
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Causes of Carryover |
当初の計画では,小型魚類集合水槽システムのメンテナンスを行うための濾過カセットや,とアンプのメンテナンスを行うための電子部品,生体電気信号計測用電極などの消耗品を購入する予定であったが,実験結果の安定性を優先したため実験環境に関わる消耗品取り換えを平成30年度に延期したため.平成30年度は上記消耗品を購入する予定である.
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Research Products
(2 results)