2017 Fiscal Year Research-status Report
軌道アンサンブルの解析による親水性タンパク質-タンパク質間会合の駆動力の解明
Project/Area Number |
16K12520
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
櫻井 実 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 教授 (50162342)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | タンパク質ータンパク質相互作用 / 水和自由エネルギー / 水和エンタルピー / 水和エントロピー / 熱揺らぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質は他のタンパク質との相互作用を通じて機能を発現する。タンパク質間相互作用は疎水性相互作用と親水性相互作用に分けられるが、最新のバイオインフォマティクス解析などの結果によれば、生体内では親水性相互作用の場合が多いことが示されている。それゆえ、本研究では親水性タンパク質間相互作用に焦点を当てる。 一般に、タンパク質間相互作用はencounter complex形成までの過程とその後の安定会合体形成までの2段階に分けられる。本研究では、それぞれの段階でどのような力が駆動力になっているのかを解明することを目的としている。前者では遠達力が働くことになるが、その起源が何であるかが興味の焦点となる。後者では、会合の駆動力と脱水和のペナルティを打ち消すメカニズムが興味の対象である。 昨年度は、水中で自由に拡散した後会合する系について調べたが、今年度は一つの大きなタンパク質中の2つの親水性ドメインが会合する場合について調べる方向に舵を切った。そのような例として、ABCトランスポーター中の2つのnucleotide binding domain (NBD)が2量体化する場合が考えられる。本研究では、代表的なインポーターであるマルトーストランスポーターを取り上げた。上述した会合の駆動力の研究を行うには、まずNBD間が離れた構造(inward-facing構造)から2量体化した構造(occluded構造)への構造遷移過程へのトラジェクトリーが必要である。そこで、本年度は、まず、マルトーストランスポーターを水和膜に埋め込んだ系のall-atom MDシミュレーションを実行した。その結果、inward-facingからoccluded 構造への構造変化のトラジェクトリーを得ることに成功した。なお、この研究は単独で論文発表した(Hsu et al., Proteins, 2018)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度調べた水中を自由拡散した後会合する系では、encounter complex形成までの主要な遠達力はタンパク質間の静電相互作用という結果が得られた。この結果は、われわれの先行研究(Furukawa-Hagiya et al., Chem. Phys. Kett., 616-617(2014)165-170)からの予想に反するものであった。そこで、その原因を探るため、先行研究と同様、大きなタンパク質の内部でドメイン間の2量体化が起こる系について調べることにした。本研究で取り上げたマルトーストランスポーターは、先行研究で調べたエクスポーターとは異なり典型的なインポーターである。このタンパク質は、NBDに相当するMalK、膜貫通領域(transmembranedomain; TMD)のMalFとMalGおよびマルトース結合タンパク質MalEからなる巨大膜タンパク質であり、MalKへのATPの結合により、MalKが2量体化し、inward-facing 構造からoutward-facing構造に向かって変化する。このような巨大系の構造転移をall-atom MDシミュレーションで捉えるのは、長時間の計算時間を要するため困難を伴うが、幸い本研究では、MalKの2量体化とTMDのinward-facingからoccluded構造までの構造変化を捉えることに成功した。また、このような変化は、MalEのトランスポーター本体への結合とATPのMalKへの結合が同時に満たされているときのみ起こることが判明した。本年度は、この成果を論文として発表することができた。しかし、本年度は論文作成に多くの時間を割いたため、MalKの2量体化過程の自由エネルギー解析は次年度にまわすことにした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、前述した平成29年度の成果に基づき、タンパク質中の親水性ドメイン間の会合過程の解析を進める。具体的な計画は以下のとおりである。 1)全年度で得たマルトーストランスポーターのinward-facingからoccluded構造への構造変化のMDトラジェクトリーから2つのMalK部分(2つのNBDに相当)のみのトラジェクトリーをピックアップする。 2)2つのMalKドメイン間の相互作用を重心間距離の関数として求める。その際相互作用は、ドメイン間の直接相互作用(静電相互作用およびファンデルワールス相互作用)と水を媒介とした間接相互作用に分割する。前者はMM計算、後者は3D-RISM計算より求める。特に、後者については水和自由エネルギー、水和エンタルピーと水和エントロピーの寄与を明確にする。 3)以上の計算結果より、encounter complex形成までの遠達力とそれ以降の安定複合体系性までの駆動力を明らかにする。
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Causes of Carryover |
今年度は次の2つの理由で次年度繰越し金が生じた。 1)前年度から継続している研究課題が、今年度前半約4ヶ月の研究でよい成果が上がった。これを11月締切りの著書(英文総説)に掲載するため、8月以降原著論文の執筆に全力を投入した。その結果、幸い原著論文はProtein誌に掲載され、著書も完成し現在印刷待ちとなった。この期間、別の課題にかける時間が十分に取れなかった。 2)本研究は、東工大のスーパーコンピューターTSUBAMEを用いて行うものであるが、このスパコンが昨年8月にリプレースされ3.0となった。それに伴い、従来使用していた計算プログラムでは計算パフォーマンスが十分でなくなり、プログラム等の改良を進めてきた。その間、長時間を要する計算は行わなかったので、計算機使用料として確保していた予算に余りが生じた。 次年度は、この改良されたプログラムを使用して、本研究の最終目標の一つである”親水性タンパク質間会合における水の役割”に関して、集中的にコンピュータ計算を進める予定である。
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