2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K12524
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
田村 進一 大阪大学, その他部局等, 名誉教授 (30029540)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 脳内情報 / スパイク波 / シミュレーション / 培養神経細胞 / 多重通信 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は,従前、脳波の解析結果より,脳内において、特定の経路を自己組織的に構成し、情報通信を行っていることを発見した.この結果を受け、我々は、このような経路の探索・形成がHebb則に従う神経回路で可能であり,記憶銘記,連想,抽象化,記憶の再構成など脳情報処理の基本機能が,単純な経路形成のみで統一的に説明され,生理的・神経回路的に実現可能であると仮説を立てている.本研究の目的はこの仮説をシミュレーション並びに生理学的に実証することである.その一環として,本年度は昨年度に引き続き,先ず,非同期的2次元メッシュ状神経回路網のシミュレーションにおいて,多重通信が可能であることの実証に取り組んだ.具体的には,時空間刺激パターンは,スパイク波と名付ける波動として伝播し,別の部位にある受信神経では特定の時空間パターンに変換される(遠隔伝送),受信した神経は,その受信時空間パターンがどの刺激によるものか,識別できる(多重通信)ことが示された.これは素子としての神経細胞が記憶素子として働くとともに,遠隔部位への多重伝送の中継素子としても働くことを示しているものと考えられる. その上で,本年度は,上述の現象の生理学的実証に向けて,培養神経細胞回路網を用いたスパイク時空間パターンの解析を行った.その結果,シミュレーション同様,スパイク波が観測され,さらに回路網の特定の領域において,スパイクの時系列パターンより,そのスパイク波がどの刺激に由来するものか,識別できること,さらにその識別できる領域空間パターンが,刺激部位により異なることが判明した.これより,脳内情報通信における多重通信の機構が生理学的に存在することが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要でも述べた通り,昨年度来,先ずシミュレーションにより,スパイク波の時空間パターンより,そのスパイク波がどの刺激によるものか,識別できる(多重通信)ことを示してきた.昨年度は,このシミュレーションによる実証のみであったが,本年度は培養神経細胞回路網によるスパイク解析を行い,それよりシミュレーションと同様の結果が得られ,脳内多重通信機構の生理学的実証を行うことができた.一方,シミュレーションにおいても,引き続き、より詳細な解析,具体的には識別率とスパイク時空間パターンを構成する様々なパラメータ(例えばシナプス遅延,不応期など)の関係解明などに取り組んだ.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は,スパイク波モデルに基づき,先ず,シミュレーションにおいて,識別率とスパイク時空間パターンを構成する様々なパラメータ(例えばシナプス遅延,不応期など)の関係,またスパイク波の伝播方向と識別率の関係などについて,より詳細な解析を行う.また,近隣のニューロンの発火タイミングの時間差と,識別率の関係についても解析を行う.さらに,培養神経細胞回路網による実験,解析により,上述のシミュレーションで得られた結果の生理学的実証に取り組む.これらの実験,解析により,脳内情報通信のメカニズムの解明を引き続き試みる.
|
Causes of Carryover |
関連部署より,物品購入等の支援を受けることができたため、当該年度の出費を抑えることができた.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度における当該研究費用に繰り越し投入し,培養細胞実験費用(新たなプローブ購入等),より高速に解析処理ができるワークステーション,参考図書の購入等に充当する。
|