2016 Fiscal Year Research-status Report
分散PDSの応用研究:個人を軸にした社会的なシステムへの移行に向けて
Project/Area Number |
16K12551
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Research Institution | Bunkyo University |
Principal Investigator |
加藤 綾子 文教大学, 情報学部, 講師 (10597941)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 分散PDS / PDS / パーソナルデータ / プライバシー / 脱中心型 / データ流通 / 個人中心 / 個人主導のデータ流通 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,分散PDS(Decentralized PDS)の考え方を踏まえ,個人を軸にした社会・経済システムへの移行について整理して示すことである. 初年度である本年度は,産学官の議論に積極的に参加し,PDSのユースケースの検討を行った.そこでは,筆者は主にワーカーのデータ活用のケースを提案・提供した.その成果は,産業競争力懇談会(COCN)2016年度最終報告書Appendix(pp.30-32),経済産業省 産業構造審議会 商務流通情報分科会 情報経済小委員会 分散戦略ワーキンググループ第6回 配布資料4(p.39)に所収された. また,本年度は複数の国際会議等で情報収集を行い,応用的なユースケースの検討も独自に進め,複数の国内学会等で報告した.特に海外動向については,COCNや政府の会議で情報提供を行った(COCN前掲書に所収の「Insurance and Financing」と「Quantified Employee」のレポートは筆者提供.経済産業省 前掲資料(p.41)は筆者和訳). 各個人に集約される個人のディープデータの活用は,資本や労働の調達において,集合Nにおけるより適切な取引相手の探索やタスク割り当てに寄与すると考えられる(マッチング精度の向上).一方で,個人にとって,自らのデータの蓄積は,自己の実績証明となり得,個人の交渉力向上に寄与するものと考えられる.多対多の取引において,仲介機能(メディエータ)が想定される場合,その検索およびマッチングにはネットワーク外部性が強く働くため,その仲介機能は寡占化すると考えられる.従って,この場合はルールや制度による規制が必要である.さらに,本研究は,PDSに加えて分散型台帳技術のコンセプトを組み合わせると何ができるかについても試論した.これら初年度の検討結果は,情報処理学会,進化経済学会,サービス学会などで報告した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究を取り巻く社会的背景として,2016年は,EU一般データ保護規則(GDPR)が発効し,データに関する個人の権利強化について,世間の関心がより一層高まった年であった.日本では,個人主導のデータ流通の在り方が,産学官で集中的に議論され,この一年間で社会的認知を獲得してきた.このような潮流により,本研究課題にとっての研究環境は申請時点に比べて大きく前進した. さらに,2017年3月時点では,問題意識を共有する研究者・企業人らと共に有志で「MyData Japan 2017」というシンポジウムを企画・開催することが決定している. 本研究は,産学官の議論への積極的な参加とフィードバックを通じて,海外動向報告やユースケース検討において,日本における個人主導のデータ流通に関する議論の展開と時流の創出の一端に貢献することができた.また,一連の活動を通じて,本研究は次なる研究上の着想を得ることができた.これらの点で,初年度の進捗状況は,当初の計画以上であったといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,引き続き海外動向調査を行うとともに,個人を主軸としたデータ流通がなされる環境における,取引や経済の在り方について検討を深めて行きたい. 現在はまだ,個人を主軸としたデータ流通は理念先行型であるが,金融分野と医療分野は規制産業であることと社会的要請があることなどから,他の商業分野に比べて逸早く,個人本人への機械可読式データの還元や移動が実現し,状況が進展する可能性がある.本研究はこれらの動向を注視しながら,必要に応じて各分野の専門家らと議論を行い,研究を進める.その成果は各種学会・研究会等で報告する.
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