2016 Fiscal Year Research-status Report
氷コアに含まれる個別粒子ごとの硫酸塩・硝酸塩エアロゾルの硫黄・窒素同位体比分析
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16K12573
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
飯塚 芳徳 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (40370043)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | エアロゾル / アイスコア / 個別粒子 / 同位体比 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、氷コアに含まれる個別粒子ごとの硫酸塩・硝酸塩エアロゾルの硫黄・窒素同位体比という地球温暖化の解釈に重要で、かつ新しい環境指標を抽出して、硫酸塩や硝酸塩の古大気環境や放射強制力の知見を高度化する。気温変動とエアロゾルの変化が明瞭な期間に着目し、第四紀の最大の気温変動であった最終退氷期と1970年の硫酸イオン濃度極大を持つ人為起源物質が極大となった期間に着目する。前者は自然起源による第四紀の最大の気温変動であり、後者はグローバルディミングが生じたとされる人為起源エアロゾルが最も気温に影響した時代である。最終退氷期の復元に使用する氷コアは南極ドームふじ氷床コアである。1970年前後の復元に使用するコアはグリーンランド南東ドームコアである。 前者の南極ドームふじコアについてはコミュニティーペーパが公表され、アイスコアが比較的自由に使用できる環境になりつつある。後者のグリーンランド南東ドームコアについては、採取後に低温科学研究所の低温室において密度測定や電気伝導度測定などのコア解析が行われた。その結果,南東ドームコアの氷化深度は83-86 m,涵養量は約1.0 m w.e. yr -1であった。南東ドームコアは氷床のドームとしては最も高涵養量の地域の一つである。圧密氷化過程を調べたところ,750 kg m-3 以上の密度域において,SE-Domeコアは通常の涵養量地域の浅層コアよりも変形しやすい特徴を持つことが分かった。これらのコアの一般的な性質について精査し、国際誌に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
南極ドームふじ氷床コアやグリーンランド南東ドームコアを用いて微粒子の抽出を昇華法を用いて行った。申請者の開発した昇華法は氷コア中の水溶性塩を抽出する手法であり、-50℃環境で1gの氷を昇華させることで500粒子程度の不揮発性エアロゾル粒子をフィルター上に抽出できる。 平成28年度に微粒子の同位体比分析として考えたのは北大の同位体顕微鏡である。これまでフィルター上に粒子を集めてきたが、この顕微鏡で分析するためにはシリコンウエハーに粒子を集める必要が生じた。フィルターであれば乾燥空気とアイスコア中の揮発性物質がフィルターの孔から逃げるが、シリコンウエハーの場合は空気の逃げ口を作る必要がある。また、シリコンウエハーを昇華チャンバーにのせる大きさに切断する際に切りくずが生じ、このシリコンの微粒子が超音波洗浄では除去できないといった、予想外の試料準備の改良が必要となった。いくつかの試行錯誤の結果、2016年10月ごろにはコンタミ除去の目算が立ち、試料をシリコンウエハーの上に準備することができるようになった。 その後、数カ月の施行を経て同位体顕微鏡をもちいた分析を試みた。しかしながら、同位体顕微鏡は数ミクロンという肉眼では捉えられない微粒子の分析には不向きであることがわかった。現在は当初の計画を変更しnanoSIMSを用いた分析を試みている。当初の計画になかったことからマシンタイム等の問題があり、分析はやや挑戦的な様相を示しているが、来年度末の研究機関終了に向けて粛々と進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、個別粒子ごとの硫酸塩や硝酸塩の硫黄・窒素同位体比から起源を推定し、その化合物との対比から、硫酸塩・硝酸塩エアロゾルが気候変動に与える影響評価の高精度化を目的に研究を進めていく。nanoSIMSを用いて、第四紀の最大の気温変動であった最終退氷期と1970年の硫酸イオン濃度極大を持つ人為起源物質が極大となった期間に着目し、個別粒子ごとの硫酸塩や硝酸塩の硫黄・窒素同位体比から起源を推定する。nanoSIMSで大気エアロゾル中の硫酸塩微粒子から硫黄同位体比を測定したという論文が出てきており、本研究では過去のエアロゾルを用いた個別粒子の同位体比分析を進める。 同位体顕微鏡を頼りにしていた研究計画であったため、研究の推進のためのメイン装置を変更する状況にあるが、こういった挑戦的な事態から新しい萌芽研究が創成されると前向きに考えて、現在測定できそうな代価装置を利用しつつ本課題を取り組んでいく。
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Causes of Carryover |
当初予定していた同位体顕微鏡の施設利用料を計上していたが、同位体顕微鏡が本研究にはあまり向かない装置であることが年度内に判明したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
代価装置として浮上したnanoSIMSなどの施設利用料
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[Journal Article] A firn densification process in the high accumulation dome of southeastern Greenland2017
Author(s)
Yoshinori Iizuka, Atsushi Miyamoto, Akira Hori, Sumito Matoba, Ryoto Furukawa, Takeshi Saito, Shuji Fujita, Motohiro Hirabayashi, Satoru Yamaguchi, Koji Fujita, Nozomu Takeuchi
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Journal Title
Arctic, Antarctic, and Alpine Research
Volume: 49
Pages: 13-27
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant