2016 Fiscal Year Research-status Report
高浮力型氷海リアルタイムモニタリングブイシステムの開発
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16K12574
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
青木 茂 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (80281583)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 環境分析 / 海洋機器開発 / 極域海洋 / 環境変動 / モニタリング |
Outline of Annual Research Achievements |
地球規模の気候変動の解明と予測において、海洋が持つ膨大な熱容量や水循環における役割の重要性から、海洋、特に南極海をはじめとする観測の困難な極域海洋でのモニタリング体制の構築が急務となっている。本研究では、近年急速に発展した漂流型中層ブイの浮力制御技術と衛星通信技術を応用して、氷海域でも運用可能な海洋鉛直プロファイル観測機能と観測結果のリアルタイム送信機能を有する係留型ブイ観測システムの開発を目的とする。特に沿岸大陸棚域を想定し、氷の存在する極域海洋で大陸棚水深程度までの鉛直プロファイルを取得可能なリアルタイムブイシステムの構築を目指している。これまで、浮力調節型のブイに基づくシステムの構築に成功し、オペレーションが可能な流速範囲についての基礎的な情報等を取得してきた。この耐流速性をより高めることが次の段階の目的である。 今年度は、従来型ブイでの実績をベースに、流速1ノットという目標耐流速基準に基づく本体ブイの基本設計について検討した。一方で、従来型ブイに改良を施し、投入方法を検討することで、実際に南極海などの高緯度氷海での運用を視野に入れた実験観測を開始した。海氷域における氷塊衝突防止のため、水温による結氷状況判別方法のプロトコルに基づくソフトウェアを従来型ブイに実装し、極域沿岸海洋での一年間を予定した長期間実験観測を開始した。この観測は、試験海域の実際の海況の予備的な調査を兼ねており、流速情報の取得なども目指している。極域では一般的な舷高の高い船舶をもちいて本体ブイを含むシステム全体の設置・回収方法について検討し、訓練・実地設置を行った。南極海沿岸ポリニヤ域において現実に設置作業に成功したことで、係留システム投入手法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
高流速タイプの基本的な設計の結果、浮力の増大に伴い、従来型と比較して非常に大きな躯体が必要となることが分かった。特に空中重量は2倍程度になることが分かった。 現状で整備されているブイシステムについて、必要となるさまざまな局面に関する情報収集を先行して開始した。南極の観測現場への実際の投入に成功したことで、手法面において得るものが大きかった。大きな特徴である衛星データ通信についてはアンテナ突起部分が生命線であり、これを保護するために、投入時の海水抵抗や衝撃をできるだけ回避したい。南極観測船「しらせ」で実際の作業を実施したが、しらせは舷高が6~8メートルと高い。これは他国の砕氷船でもほぼ似たような状況である。このため、設置時のブイ本体の急激な移動などをできるだけ避けるため、補助索に切り離し装置を装着して投入する方法を考案して対応した。これにより、複雑ではあるが、安全性の高い設置方法が確立できた。 海氷衝突防止については、表面に結氷温度以上の水温を検知した時のみ浮上するとする水温による氷況判別手法の実装を終え、この点でも、極域での自動的な運用に向けて大きく前進できた。この実装結果の試験、および関連環境情報の取得に着手できた。この情報は、2017年度末に得られる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
従来型ブイの開発試験では日本沿岸海域で行ってきたため、比較的小型で舷高の低い船舶を用いて、波浪状況についても極めて理想的な状況で試験を実施できた。しかしながら、極域でオペレーションを行える船舶は、その耐氷性・長期性の必要から世界一般に大規模に作られている。また、設置時の時間的な制約も強い。設置作業に関しては、設置時に設置用の索に切り離し装置をつけることで設置時の衝撃を極力低下させる複雑なオペレーションにより対応した。このオペレーションの成功自体は成果であるものの、今後、諸外国との共同などより広い条件に拡大したときの設置方法の制約を考えると、必ずしも汎用性があるとは言い切れず、別の困難を誘発する可能性もあることが明らかとなった。この手法は、経験値の少ない人員で実施することは困難であり、アルゴのような容易性と著しい対照をなしている。また、耐圧性能が容器の強度を規定するため、従来型の400m耐圧を踏襲して耐流速性能のみを向上させると極めて大きな躯体となってしまう点は、本体の取り回しの面にも制約をもたらす。 このように密度変化による浮力調節方式の実現は、現実的には、躯体形状、耐深度に大きく依存する実態が浮かび上がった。今後は、現在実施している実験の結果を踏まえつつ、ケーブル巻き出し式などのシステムの可能性や、海況・耐圧も考慮に入れた海域ごとの得失などの詳細検討を実施する必要がある。
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Causes of Carryover |
本年度はその他費目の高流速タイプブイのレンタル費用として計上していたが、性能設計の結果、必要な浮力の増大に伴い、従来型と比較して非常に大きな躯体が必要となることが判明し、本体の製作にも時間を要した。加えて、これを用いた観測を南極で実施するとしても、現場での取り扱いが難しい現実が浮上し、十分に検討を加えたうえで執行することとしたものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後は、ブイのレンタル費用は短期化するなどして抑制し、代わりに申請時に予算計上していた切り離し装置について予算執行する。これは、新システムの係留時(システム回収のため)に加え、現在のシステム投入時のオペレーションにおいても必要となるため、試験観測に使用中で切り離し装置が利用できない現時点では不可欠の装置である。
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Research Products
(1 results)