2016 Fiscal Year Research-status Report
ラットの超音波発声の音響学的変異を利用した生物汚染のモニタリング法
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16K12603
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
和田 博美 北海道大学, 文学研究科, 教授 (90191832)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | PBDE / USV / ラット / 母子分離 / 仲間遊び / ペアリング / 順位争い |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究内容】ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)は火災の延焼を防ぐために不可欠な化学物質である。しかし甲状腺ホルモンや生殖系ホルモンを阻害するため、生態系への影響が危惧されている。本研究ではPBDEを妊娠ラットに投与し、仔ラットの超音波発声(USV)を解析した。妊娠ラットにデカブロモジフェニルエーテル(BDE-209)を投与した。投与量は1000mg/kg(高投与群)、500mg/kg(低投与群)、0mg/kg(統制群)の3条件、投与期間は妊娠15日~出産後21日までであった。生後4、7、10、13、16、19、及び22日目に仔ラットのUSVを5分間記録した。解析の結果、高投与群と低投与群のUSV1回当りの長さが統制群より有意に短くなった(p<0.05)。生後7日目は低投与群、10日目は高投与群、13日目は高投与群と低投与群の両投与群が、それぞれ統制群のUSVより有意に短くなった(p<0.05)。仔ラットは母親から離れ体温が低下するとUSVを発声してコミュニケーションをとる。USVが短くなることで母親に気づかれにくくなり、生存が危うくなると予想される。USVの発声回数と平均周波数には影響がなかった。 【研究の意義と重要性】PBDEの影響を測定する指標として、本研究ではラットのUSVを採用した。USVは、運動機能が未熟な出生直後であっても測定可能な数少ない行動上の表現型であることから、生体影響を早期に検出できる。しかも非侵襲的に記録できることから、動物実験に伴う倫理や福祉の問題となることが少ない。ラットは世界中のいたるところに生息し、一部のラットは人間と生活圏を共にしている。本研究の成果から、USVは環境汚染を評価する指標としてブローバル・スタンダードとなる可能性を秘めた指標と言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究がやや遅れた原因として、PBDE入手の遅れを挙げることができる。本研究で使用するBDE-209は日本国内で製造していないため、ドイツのMerck社に依頼した。あいにく在庫がなく、新たに製造するまでに時間を要した。手元に届いた時期が2016年8月末となった。しかしひとたび研究がスタートした後は、ラットの日齢とともに実験を遂行することができ、「研究実績の概要」に示した通り、乳児期USVの成果を出すことができた。なお平成28年度中に計画していた仲間遊び場面のUSVは、平成29年度の4月中に達成できる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
【仲間遊び場面のUSV解析】PBDEを投与した仔ラットが離乳し、平成29年4月中に生後40日目に達する。個別飼育した同性のラット3~4匹を1グループとする。これらのラットを1つのケージに入れ、仲間同士でじゃれ合って遊べるようにする。仲間遊びの時間は15分間で、最初の5分を馴化に、残りの10分をUSVの記録に当てる。同じグループで連続3日間仲間遊びを行う。楽しく遊んでいるときのUSV、不快感なときのUSVそれぞれの発声回数、周波数、長さ等の音響学的パラメータを解析して、PBDEが仲間遊び場面のコミュニケーションに与える影響を明らかにする。 【ペアリング場面のUSV解析】生後90日に達した異性同士をペアにして、1つのケージに入れる。ペアリングの時間は15分間で、最初の5分を馴化に、残りの10分をUSVの記録に当てる。同じペアで連続3日間ペアリングを行う。交尾中のUSV、射精した後の雄のUSVそれぞれの発声回数、周波数、長さ等の音響学的パラメータを解析して、PBDEがペアリング場面のコミュニケーションに与える影響を明らかにする。 【順位争い場面のUSV解析】成熟した雄同士はエサ、縄張り、交尾の相手をめぐって順位争いをする。そこで当初の計画にあった「エサ提示場面・不提示場面のUSV解析」を変更し、雄同士の順位争い場面でのコミュニケーションを解析する。生後100日に達した雄同士をペアにして、1つのケージに入れる。順位争いの時間は15分間で、最初の5分を馴化に、残りの10分をUSVの記録に当てる。同じペアで連続3日間順位争いを行う。順位が確定する前のUSV・一方の雄が敗北し順位が確定した後のUSVそれぞれの発声回数、周波数、長さ等の音響学的パラメータを解析して、PBDEが順位争い場面のコミュニケーションに与える影響を明らかにする。
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