胎児期化学物質曝露が動脈硬化症に及ぼす影響のエピゲノム及び血管生物学的解析

2016 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 16K12608
• Research Institution: Chiba University
• Principal Investigator: 森 千里 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (90174375)
• Co-Investigator(Kenkyū-buntansha): 江口 哲史 千葉大学, 予防医学センター, 助教 (70595826) ; 櫻井 健一 千葉大学, 予防医学センター, 准教授 (80323434)
• Project Period (FY): 2016-04-01 – 2019-03-31
• Keywords: 環境影響評価 / 化学物質 / 血管 / DNAメチル化

Outline of Annual Research Achievements

心血管疾患は我が国における死因の第一位となっており、その対策が急務である。心血管疾患は動脈硬化症を基盤としており、その危険因子・発症メカニズムを明らかにすることは心血管疾患による死亡を減少する上で有効と考えられる。近年子宮内環境が動脈硬化症に影響することが示唆されている。そこで、本課題「胎児期化学物質曝露が動脈硬化症に及ぼす影響のエピゲノム及び血管生物学的解析」では子宮内環境、特に化学物質が動脈硬化症に与える影響を明らかにするとともに、そのメカニズムを解明することを目指す。
本研究はヒトの新生児を対象として、DOHaD仮説に基づく動脈硬化症の発症メカニズム解明を目的としている。DOHaDのメカニズムの一つとしてDNAのメチル化が提唱されているが、DNAメチル化がどのような機序に基づいて動脈硬化症を引き起こすかの詳細なメカニズムは不明である。本研究においては、（1）POPsによる胎児への影響を臍帯動脈を用いて検討すること、（2）臍帯動脈で影響が認められたDNAメチル化領域に、特異的なメチル化状態の変化を挿入し、その領域のメチル化が血管構成細胞に及ぼす影響を明らかにすることを目指している。
本年度は、試料としての臍帯・臍帯動脈および血清試料の採取は全て完了した。臍帯動脈におけるDNAメチル化解析に関連して組織からのDNA採取法を最適化することができたので、今後DNAメチル化の網羅的解析を行う予定である。また、血清PCBの測定に関しては、一部検体において測定を行ったので、さらに検体数を増やす予定である。
特定の領域におけるDNAメチル化を変化させる手法として、Cas9に基づく方法とTALEを用いる方法について検討を行った。コストおよび汎用性を考慮し、Cas9に基づく方法から試みることに決定し、ベクターを入手し、次年度にむけた準備を行った。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

研究計画において、本年度は臍帯動脈におけるDNAメチル化の網羅的な解析を行うことを主とした研究と考えていた。サンプルとしての臍帯の採取は順調に進んだものの、DNA抽出に関してトラブルが生じた。通常行っていたプロトコールでのDNA抽出を行う予定であったが、予備実験の段階でDNAが分解してしまう現象が起こっていることが判明した。そこで、この原因の究明と対策を行った。このために数ヶ月の期間を要することとなってしまった。その結果本年度においてDNAメチル化の網羅的な解析を行うことはできなかった。
PCB測定に関しては、一部の検体で測定を行うことができ、比較的順調に進んでいると考えている。また、今後の研究に必要と考えられる特定領域のメチル化を制御する方法を検討した。Cas9を用いた方法から行うことを決定し、ベクターの手配などを行った。この点に関しては、次年度に行う予定のものを前倒しで行うことができた。

Strategy for Future Research Activity

当初予定していたDNAメチル化の網羅的解析に関しては、DNA抽出条件の検討で最適化のために時間を費やしたため計画通りに進まなかった。しかし、この問題に関しては解決できたため、次年度は臍帯動脈DNAメチル化の網羅的解析を行うこととする。H２９年度に入学してくる大学院生も本プロジェクトに加わる予定であり、研究の推進力となると期待される。PCB測定に関してはすでに一部で測定がなされており、このデータを用いて環境化学物質と動脈DNAメチル化の関連の解析を進める予定である。また、細胞生物学実験に関しては研究協力者と連携しながら進める予定であり、こちらに関しても今年度は推進できると考えている。

Causes of Carryover

本年度進捗に大きな影響を与えたDNA抽出法の最適化が完了したため、次年度にはDNAメチル化の網羅的解析が可能となる。DNAメチル化解析にはメチル化アレイなどを用いる予定である。このため、DNA抽出も順次行う必要があり、これらの実験試薬を購入する必要が生じる。また、細胞生物学実験法に関しても手法が決定されたため、次年度は実際に細胞を用いた実験を開始する予定である。実験に用いる細胞に関しては血管内皮細胞や血管平滑筋細胞を用いる予定である。それらの細胞入手および培養実験試薬、遺伝子導入試薬などの購入も必要で有る。前述の試薬類は比較的高額なものであり、これらを購入するため、今年度の支出を節約し経費を残した。

Expenditure Plan for Carryover Budget

前期のように次年度においては、網羅的なDNAメチル化解析を開始する予定である。網羅的DNAメチル化解析には、メチル化アレイを用いて行う予定である。次年度使用分に関しては主にアレイ購入費として使用する。また、DNA抽出も必要となるため合わせて次年度使用分を用いて購入する。