2016 Fiscal Year Research-status Report
窒素欠乏水田で生じるイネ根圏微生物の変化と窒素の自律的供給
Project/Area Number |
16K12644
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
杉山 修一 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (00154500)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 窒素循環 / 水田 / 無肥料 / 窒素固定 |
Outline of Annual Research Achievements |
長期無肥料栽培は収穫物の持ち出しにより耕地の栄養塩が外部に流出するために養分欠乏が生じ,持続的生産が不可能と考えられてきた。しかし,実際に長期無施肥でも30年以上にわたり高収量を安定的に達成している水田が存在する。なぜ長期無施肥でも高い生産性が維持されるのかの科学的メカニズムは明らかにされていない。本研究では、水田の窒素循環に焦点を当て,東北地域の無肥料栽培水田の窒素循環を解析した。 収量性が異なる4カ所の長期無施肥水田と1箇所の慣行水田の窒素動態を解析した結果、高収自然栽培水田では移植後のイネの窒素吸収量が他の自然栽培水田に比べ大きく、7月中旬までは慣行水田と同等であった。この結果は土壌の窒素供給力が高く、雑草が繁茂しないことでイネに十分量の窒素が供給されたことに由来した。稲藁分解試験の結果、高収自然栽培水田の土壌は湛水後すみやかに稲藁を分解し、稲藁周辺土壌の窒素量を飛躍的に高める特徴があった。このメカニズムとして、稲藁をエネルギー源とする微生物の窒素固定が高収自然栽培水田土壌では活性化している可能性が示唆されたが、現地水田土壌の微生物バイオマス量は低く推移していたことから、この微生物機能は微生物量によるのではなく、特定の微生物種や微生物コンソーシアムによることが考えられた。また、既存の無施肥水田の窒素収支と比較して、稲藁施用による窒素固定が活性化された場合、玄米収穫により搬出される窒素が十分に補われることが試算された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
長期無施肥水田で安定的な収量が確保できているメカニズムを微生物による窒素固定の活性化との関係で明らかにすることができ,1年目としては順調なスタートをきれた。
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Strategy for Future Research Activity |
長期無施肥水田で安定的な多収がもたらされるメカニズムとして,土壌細菌による窒素固定がこれまでの想定以上に高いこと,無施肥水田間で窒素固定能力が大きく異なることが明らかとなった。したがって,今後は窒素固定に係わる微生物群集をメタゲノム手法で解析することや水田での窒素固定能力を実測することで,窒素固定細菌のどのような種類が,どこで,どのように水田の窒素循環に貢献しているかを明らかにすることを目指す。
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