2016 Fiscal Year Research-status Report
将来世代の視点を取り込んだフューチャーアセスメント手法の開発に向けた基礎研究
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16K12660
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
原 圭史郎 大阪大学, 工学研究科, 招へい准教授 (30393036)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西條 辰義 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 教授 (20205628)
栗本 修滋 大阪大学, 工学研究科, 特任教授 (20448103)
上須 道徳 大阪大学, 工学研究科, 特任准教授 (50448099)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 仮想将来世代 / 合意形成 / 将来ビジョン設計 / 評価・アセスメント / アカウンタビリティー / 持続可能性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、将来世代の視点・利益を代弁してビジョン設計や施策評価に臨む役割を持つ“仮想将来世代”を創出し、現世代と将来世代双方の視点を総合的に反映した参加型の評価手法、すなわちフューチャーアセスメント手法の開発に向けた基礎研究を実施することを目的としている。 H28年度は、岩手県矢巾町において「公共施設管理」2050年プランを設計するというテーマ設定の下、参加型討議を3度実践した。3度の討議実践を通じて、現世代および仮想将来世代それぞれの立場での、討議参加者の認識・思考パターン変化に関連する基礎分析を行うとともに、関連データの収集を行った。 無作為抽出された住民の中から、討議への参加意思を表明した先着26名の住民が各回の討議に参加した。各回4グループ(A,B,C,D)に分かれてそれぞれ別個の部屋で討議を行ったが、4グループとも1回目の討議では現世代の立場で、2回目は将来世代の代弁者としての立場で、そして3回目は、現世代・将来世代いずれの立場も指定しないものの、「提案理由」と「将来世代に対するアドバイス」の2点を明確化するという条件のもと、討議を行った。 その結果、例えば1)仮想将来世代になることで、世代間互酬性(自分たちより先の将来にも何かを残そうと考えること)が高まる。2) 将来世代へのアドバイスの重要性と、問題を先送りにしてはならないという責任感を高く感じるほど、世代間互酬性が高まる、ということが分かった。また、1回目討議(現世代視点)では、とくに「ハコモノ」への着目が強かったのに対し、2回目討議(将来世代視点)では、特に「人」への考慮の広がりが、そして3回目討議では、「コミュニティ」への考慮の広がりが見られた。これらのことから、仮想将来世代となりきって討議をするというプロセスを経ることで、人々の将来に対する認識が大きく変化しうる、ということが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H28年度は、計画通りに着実に研究を進めることができた。当該年度は特に、岩手県矢巾町において住民参加型の討議を数回実施することで「仮想将来世代」グループの思考パターンを客観的に分析・把握することが大きな目標であったが、それを着実に達成することができた。 年度前半は、岩手県矢巾町役場において役場職員と住民参加型フューチャーデザイン討議のための意見交換を綿密に行い、年度の後半に実施した3度の討議実践のための準備を着実に進めた。討議参加者については、無作為抽出された住民から参加者を募り、先着26名の討議参加者を得た。26名の参加者(住民)が、「公共施設管理」2050年矢巾プランを設計するというテーマ設定の下で3回の討議に臨み、ビジョン設計を具体的に進めた。なお、研究提案時は、住民参加による討議のテーマを水道インフラとしていたが、矢巾町職員との協議の結果「公共施設管理」のほうが、町の政策ニーズにも合致すること、また研究目的に照らし合わせても、より具体的なデータ・結果を得やすい、という結論に至り、このテーマに決定した。 参画研究者と矢巾町役場職員とが緊密に協働し、参加者がどのような発想や判断のもとで討議に臨んだかを詳細に把握することを目的としたアンケート票や、討議参加住民が、公共施設管理2050年プランをどのような判断基準の下で設計したのかを把握するためのワークシートを設計した。各回の討議終了直後に参加者全員に対してこれらのアンケート票とワークシートへの回答を依頼し、得られた回答情報から、1回目討議(現世代視点)、2回目討議(将来世代視点)、そして3回目討議(提案理由と将来世代へのアドバイスを考慮)における参加者の思考パターンの変化を詳細に分析することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度は、28年度の参加型討議を通じて得られた各種データ(アンケート票、ワークシートから得られたデータ・結果)について、参加者属性との関係でより詳細に分析し、仮想将来世代の創出の意義をより詳細に提示する。また、仮想将来世代の創出に基づく評価法(フューチャーアセスメント)に関する今後の研究課題を整理するとともに、これまで得られた知見を体系的にまとめて論文化につなげる予定である。 また、仮想将来世代の創出環境や条件、仮想将来世代・現世代の思考・判断傾向および評価項目や重みづけの総合化の手順等といった複合的観点から、フューチャーアセスメント手法の基本形(プロトタイプ)の設計にも着手をしていきたい。
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Causes of Carryover |
28年度には、研究計画に即して岩手県矢巾町における住民参加型討議(3回)を着実に実施したが、参画研究者による討議会場への渡航費用が当初見積りより若干少なかったこともあり、旅費が当初計画より少額となった。また、28年度実施の一連の参加型討議では、アンケートなどを通じて各種データを獲得することができたが、これらデータの詳細分析はこれから実施することにしたため、28年度に購入予定としていたデータ解析用のパソコンおよび解析ソフトの購入費用や、データ解析のための人件費などについては、29年度に使用することとなったこと、が主な理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度は、引き続き岩手県矢巾町において参加型討議のフォローアップを継続的に実施していく計画であり、そのための旅費を使用する予定である。また、これまでの参加型討議から得られた各種データの解析用のパソコンおよび解析ソフトの購入、またデータの整理等を目的としてRA雇用など人件費の使用を計画している。さらに、本研究で得られた成果を広く国内外の学会等で発表していくための費用も想定している。
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Research Products
(8 results)