2016 Fiscal Year Research-status Report
消費者行動変容を考慮した水素エネルギー社会の環境・経済効果分析
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16K12663
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鷲津 明由 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60222874)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水素エネルギー / 産業連関分析 / 定置用燃料電池 / FCV / 水素ステーション / 次世代エネルギーシステム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,われわれが開発した次世代エネルギーシステム分析用産業連関表(Input-output table for analysis of next-generation energy system: IONGES) (http://www.f.waseda.jp/washizu/table.html)の投入係数行列に,水素関連部門のベクトルを拡張し,それを用いて2014年6月(2016年3月改訂)の経済産業省による「水素・燃料電池戦略ロードマップ」(以下,ロードマップ)で想定される水素エネルギーシステムの構築が,経済や環境にもたらす効果を俯瞰的に分析した。すなわち,水素を海外の風力発電などを利用して大規模に製造し,有機ハイドライドによってタンカーで日本に輸送する。国内の港湾施設で,有機ハイドライドから水素を精製し,港湾近くの100万kWの水素発電所に送る。このような大規模な水素利用システムが確立すると,水素価格が30 JPY/Nm3となり,燃料電池自動車の普及が進む。2030年には,FCV80万台,水素ステーション約900か所が実現し,FCVの燃料電池システムの価格が現状の1/4になる。すると,家庭用燃料電池の価格も5年で投資回収可能な金額となり,530万台が普及する。水素関連設備の初期投資が生み出す乗数効果は2.6~2.7倍である。海外での水素の生成に必要な電力は,全設備運転による誘発の約30%を占めている。海外に豊富に賦存するにもかかわらず,需要地から離れているために利用できない風力などの未利用エネルギーに,これに相当する新たな利用機会を提供できる可能性がある。水素社会システムの定着には,国内の水素ステーションの効率化がキーポイントではあるが,その一方,FCV等の利用がもたらす化石エネルギー削減効果は,供給設備の建設や運転にともなう追加的なCO2負荷を相殺できると見込まれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定よりやや早いスピードで,われわれが開発した次世代エネルギーシステム分析用産業連関表(IONGES)の投入係数行列に,水素関連部門のベクトルを拡張し,それを用いてロードマップで想定される大規模な水素エネルギーシステムの構築が,経済や環境にもたらす効果を俯瞰的に分析することができ,その結果を,環境経済・政策学会2016年大会,第33回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス,The 24th CIRP Conference on Life Cycle Engineering の学会で報告を行った。さらに,査読付き学術誌への投稿も行った。 特に,本研究で最もチャレンジングな,まだ実現していない次世代科学技術についての産業連関投入ベクトルの作成方法について,次のようにその作成手法を確立できたことは大きな成果であった。すなわち,有機ハイドライド(脱)水素化設備は現在開発中の技術であるため,資材構成についての開示情報を得ることができなかった。一方,NEDO(2010) 「平成21年度エコイノベーション推進事業,海外再生可能エネルギーの大陸間輸送技術の調査」によれば,これら設備には,既存のシクロヘキサン製造プロセスと類似するプロセスが想定されるということである。そこで,本研究ではシクロヘキサン製造プロセスに記載の各部品に対して,経済産業省「生産動態統計」で捕捉される平均単価を当てはめ,(脱)水素化プロセス全体の金額的資材構成比を推計した。これには,水素化設備が普及した段階では,各部品も現在の汎用部品と同等の価格になるとの前提に基づく。FCVについてもFCVは,IONGESのHVの投入係数ベクトルをもとに,同投入係数ベクトルのエンジンと燃料タンクを除く係数値から,FCVの投入ベクトルを作成した。情報の少ない未来技術の普及予測評価にあたって,このような前提を置くことの妥当性の検討は今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の成果から,水素ステーションの運転経費の節減が,大規模水素エネルギーシステム構築の主要課題である一方,水素ステーション運転が誘発する電力関係部門への間接効果が大きいことが分かった。ここでもし,この誘発される電力を地域の未利用エネルギーが供給できる場合,この分の誘発を全て地域経済に還元できる可能性がある。特定の地域に遍在して使うことが難しい再生可能エネルギー(廃棄物等に由来するメタン発酵バイオガスなど)や,さもなければ出力抑制しなければならない太陽光・風力の変動電源の有効な貯蔵手段として水素が選択され,それが(FCVを含む)燃料電池で利用されれば,社会全体のCO2削減に大きな効果があると考えられる。このような地域密着型の水素利用システムについて検討することが,残された期間の研究課題である。 2017年1月24日に北海道鹿追町に,環境省の委託事業により「しかおい水素ファーム」が開設された。「しかおい水素ファーム」では,家畜ふん尿由来のバイオガスを原料としてCO2フリーの水素を製造し,地域の燃料電池自動車(FCV),FCフォークリフト,付属施設の定置型燃料電池で使用するという,水素サプライチェーンの実証施設である。同時に,バイオガスプラントの余剰熱を用いてマンゴーを栽培したり,チョウザメを養殖したりするなど,地域農業の高付加価値化にも貢献する。また,家畜糞尿処理の適性化に伴う景観の改善は,観光業の振興にも貢献する。地域エネルギー利用システムの高度化のみならず,地域産業発展に貢献する水素利用システムの俯瞰的分析を行うために,今年度はまず,現地調査および,産業連関分析に必要な資料収集を行う。次に,大規模水素利用システム分析で開発した手法をもちいて,地域密着型水素利用システムの各投入係数ベクトルを作成し,研究の最終年度である来年度に同システムの俯瞰的分析を完成させる。
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Causes of Carryover |
当初計画では大規模水素エネルギー利用システム(文献調査中心)に関する分析と,地域密着型中小規模水素エネルギー利用システム(フィールド調査に基づく)に関する分析を並行して行う予定であった。しかし,費用を要する地域密着型中小規模水素エネルギー利用システムに関する調査は,2017年度以降に行うことが有効であることが判明したため,比較的費用を必要としない大規模水素エネルギー利用システムに関する分析を先行させた。そのため,繰越金が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
地域密着型中小規模水素エネルギー利用システムに関するフィールド調査を,2017年度以降に実施する。
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