2018 Fiscal Year Research-status Report
消費者行動変容を考慮した水素エネルギー社会の環境・経済効果分析
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16K12663
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鷲津 明由 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60222874)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 次世代エネルギーシステム / 水素 / 産業連関表 / ユニットストラクチュア |
Outline of Annual Research Achievements |
2030年頃に想定されている水素エネルギーシステムについて,産業連関データベースを作成し,われわれが開発した2005年次世代エネルギーシステム分析用産業連関表(IONGES)に加えることにより,システムが経済や環境へもたらす効果を分析し,その結果を学術誌で発表した。また,作成したデータベースを早稲田大学次世代科学技術経済分析研究所のウェブページで,公開した。 さらに,2011年次世代エネルギーシステム分析用産業連関表(IONGES)の作成作業を行った。2011年IONGESでは,総務省による2011年産業連関表に,15種類の再生可能エネルギー種の施設建設部門と,経常運転(発電)部門を付け加えている。2011年IONGESでは,木質バイオマス発電,メタン発酵ガス化発電,廃棄物発電のバイオマス関連発電部門におけるバイオマス燃料投入を丁寧に記述し,バイオマス発電活動が地域経済にもたらす影響などを分析しやすくした。具体的には,木質バイオマス燃料部門からの発電部門への木材投入額,廃棄物処理部門または下水処理部門から,メタン発酵ガス化発電部門へのメタンガスの投入と廃棄物発電部門への蒸気投入を記述し,これらの発電部門の電力需要が,それぞれの燃料供給部門へ生産波及をもたらすことが分析できるようにした。 作成結果を用いて,再生可能エネルギー部門のユニットストラクチュア分析(各種の再生可能エネルギー発電の施設建設または経常運転1単位(100万円)が,経済全体に構造的に引き起こす中間財の取引量についての分析)を行った。また,再生可能エネルギーの発電活動に付随的なサービス活動(修理サービス,輸送サービス,金融,情報などのビジネスサービス,等)を通じて,経済の広範囲に波及効果が及ぶことが分かった。これらの成果を,査読付き論文として投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2030年頃に想定されている水素エネルギーシステムについて,産業連関データベースを作成する方法を開発し,開発したデータを公開するとともに,それを用いた分析結果を学術誌において公表するという,本研究課題の中心的な研究目的を達成することができた。 さらに2018年度には,研究の土台となる次世代エネルギーシステム分析用産業連関表の作成作業に専念した結果,ほぼ表が完成し,現在最終調整を行っているところである。 一方,水素技術に対する社会の期待は,本研究課題出願時に比べて変容している。すなわち再生可能エネルギー利用社会において,再生可能エネルギーをより使いやすくするための手段としての水素の役割が注目され始めている。そこで,2018年度は,産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所への見学,学会等における情報収集を通じて,水素技術に対する社会的期待の変化を把握し,今後の水素利用の見通しについて考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所・清水建設-産総研ゼロエミッション・水素タウン連携研究室では,太陽光発電の余剰電力や変動性の吸収,大都市の建築物におけるエネルギー消費量削減といった,身近な目的のために水素を「こまめに」利用するための技術開発を行っていた。これは,水素を新たなエネルギー源として,海外から大規模に輸入して今までとは抜本的に異なる水素利用社会を構築するという,本研究開始当初に一般的であった,水素利用についての社会的認識とは大きく異なる考え方である。身近な目的のために水素を「こまめに」利用するための技術は,海外からの水素を大規模に利用するための技術とは大きく異なる。また水素のこまめな利用という構想は,より現実的で近い将来実現可能なエネルギーシステムの未来像であると考えられた。そこで,研究期間を一年延長して,今年度は,新たに得られた知見,すなわち身近な目的のためのこまめ水素の利用法に注目し,それによって加速されるエネルギーマネジメントシステムの高度化が,社会経済にもたらす効果(例えばカーボンプライシングメカニズムにもたらす効果等)を,完成したばかりの2011年次世代エネルギーシステム分析用産業連関表を用いて分析する。分析の結果は,学術雑誌への投稿や,学会発表,ウェブページでの成果公表等で積極的に発信し,水素技術のより現実的で効果的な利用方法の推進に貢献したい。
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Causes of Carryover |
当初プロポーザルに記入した研究成果は,研究の早い段階である程度の成果を出したが,その後,水素技術を取り巻く環境が大きく変わったと考えられたため,昨年は研究の方針を修正するための充電期間とした。 その結果,水素利用は,よりエネルギーマネジメントを円滑にするための方策の一つと理解することができた。今年度はその認識に従い,さらに完成を見た次世代エネルギーシステム分析用産業連関表を用いて応用研究を展開し,より一層の成果の取りまとめを目指す。
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Research Products
(23 results)