2016 Fiscal Year Research-status Report
人工透析患者向けプロバイオティックドリンクヨーグルトの創製
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16K12741
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
増田 哲也 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (60165719)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 医療用食品 / 人工透析患者向け乳製品 / 低カリウム乳製品 / プロバイオティクス / ドリンクヨーグルト |
Outline of Annual Research Achievements |
100mlの牛乳には150mg前後のカリウムが存在しているため、一日当たりのカリウム摂取量を1,500mg以下にする必要がある人工透析患者は、乳・乳製品の摂取に注意しなければならない。近年、整腸作用など種々の生理効果が期待されるプロバイオティクスを含有したヨーグルトが市販されているが、人工透析患者はその恩恵を享受できない。多くの人工透析患者が投薬の副作用で便秘に苦しんでいる現状を改善することを目指し、カリウム含量を低減させた脱脂乳(以下、低カリ脱脂乳)を原料として、整腸作用が期待されるプロバイオティクスを含有し、しかも風味良好なヨーグルトを創製することを目的とした。 平成28年度は脱脂乳を分画分子量10kDaの限外ろ過膜(UF膜)でカリウム含量の低減化を試み、処理後のカリウム含量を1/3以下に低減させるためにかかる費用ならびに所要時間を勘案し、低カリ脱脂乳の調製法を決定した。また、UF膜による処理で乳糖とカルシウム含量が減じたので、乳糖とカルシウムを処理前の含量まで添加した。プロバイオティクスとして添加する乳酸菌は、ヒト腸管由来のL. acidophilusグループ乳酸菌十数菌株から、胃酸耐性および胆汁酸耐性が強く下部消化管まで生菌として到達できるもの、ヨーグルト製造条件の温度ではほとんどプロテアーゼ活性を示さないもの、さらにヨーグルト製造過程でほとんど溶菌しないものとしてL.gasseri JCM1025株を選抜した。 発酵スターターにはStreptococcus thermophilusとLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusを用い、選抜したL.gasseri JCM1025を発行後期に添加することで、発酵には影響を及ぼさないようにして、両者の共生関係を利用し最短8時間発酵での製品化を可能とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度に設備備品として申請していたクロスフローリサーチⅡiシステムの納期が手違いで著しく遅れたため、それを用いた低カリ脱脂乳の大量調製は年度末に数回施行したに過ぎず、このシステムを用いた低カリ脱脂乳調製の最適条件の確立は次年度にずれ込んでしまった。 しかし、プロバイオティクスとして添加する乳酸菌は、胃酸耐性および胆汁酸耐性が強く下部消化管まで生菌として到達できるもの、ヨーグルト製造条件の温度ではほとんどプロテアーゼ活性を示さないもの、さらにヨーグルト製造過程でほとんど溶菌しないものという条件でL.acidophilusグループ乳酸菌12菌株からL.gasseri JCM1025株を選抜することができた。 プロバイオティクスとして添加する乳酸菌のプロテアーゼにより製品ヨーグルトの風味が劣化することも懸念されたので、S.thermopphilusとL. bulgaricusを発酵スターターとして用い、両者の共生関係を利用し最短8時間発酵での製品化を目指し、プロバイオティック効果が期待されるL.gasseri JCM1025は別途培養した菌体を発酵過程の後期に添加し、発酵への直接的関与をできる限り避けるようにした。
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Strategy for Future Research Activity |
a) クロスフローリサーチIIiシステムによる低カリ脱脂乳の最適大量調製条件の確立 本来ならば前年度に最適条件を確立することになっていたが、納期が遅れたためまだ検討が不十分であったので、今年度、精力的に検討し最適条件を確立する。 b) プロバイオティック乳酸菌の最適添加量の決定 プロバイオティック乳酸菌が持つ整腸作用等の生理効果が発揮されるためには、下部消化管まで少なくとも106cfu/mlの生菌が到達する必要があるといわれている。そこで、試作したプロバイオティックドリンクヨーグルト中の L.gasseriの生菌数を、L.bulgaricus共存下でも選択的計数が可能なマルトース-MRS培地用いて確認する。その結果を踏まえ,創製するプロバイオティックドリンクヨーグルトへの添加量を決定する。 c) 最適均質化圧力の決定 透析膜を使って作製した脱塩脱脂乳から調製したヨーグルトはホエー分離が顕著で保形性も不十分であったこと、さらにヨーグルトの発酵には風味の点でL.gasseriは関与しない方が良いことより、一般的なスターター乳酸菌でタンク発酵させた後に冷却し、L.gasseri菌体を添加して十分撹拌した後に、均質化してドリンクタイプとすることを目指しており、均質化圧力とL.gasseriの生残性並びに舌触りを主な指標として検討し、最適均質化圧力を決定する。 d) 風味向上を目途とした香料の選定 低カリ脱脂乳を原料としたプロバイオティックドリンクヨーグルトの風味について、遊離アミノ酸組成、遊離脂肪酸組成、さらにアセトアルデヒドをはじめとするカルボニル化合物組成を分析して風味を確認すると共に、官能評価を行い、おいしい医療用食品を目指し、最適な香料の種類とその添加量を決定する。
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Causes of Carryover |
平成28年度に設備備品として申請していたクロスフローリサーチⅡiシステムの納期が手違いで著しく遅れたため、それを用いた低カリ脱脂乳の大量調製は年度末に数回施行したに過ぎず、最適条件の確立は次年度にずれ込んでしまった。そのため、このシステム用に購入予定であった中空糸フィルターの購入を断念したため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
クロスフローリサーチIIiシステム用の中空糸フィルターを選定して購入し、低カリ脱脂乳を原料としたプロバイオティックヨーグルトの風味について、遊離アミノ酸組成、遊離脂肪酸組成、アセトアルデヒドをはじめとするカルボニル化合物組成を分析するためのHPLC及びGC用のカラムを購入する。また、結果を論文化し投稿する。
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