2017 Fiscal Year Research-status Report
超広視野観測装置による天体画像を用いた科目横断型学習教材の開発
Project/Area Number |
16K12750
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
西浦 慎悟 東京学芸大学, 教育学部, 講師 (50372454)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 科目横断型学習教材 / 原子構造 / イオン / 可視光天文学 / 狭帯域撮像観測 / 広視野撮像観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、Hβ輝線用狭帯域フィルター(通称N4873)の性能評価、主にこれを用いたサンプル天体の観測を行った。また、アーカイブ・データから作成した天体画像を用いた試行的実践を行った。なお、本研究では、東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡と可視光域広視野カメラKWFCを用いた。 N4873フィルターの性能評価については、1) KWFCの各CCDチップ上下の非線形応答性の確認、2) 等級較正の精度評価、3) 限界輝度の評価、を行った。1)については、KWFCの各CCDチップ上下で、照度に対して非線形的かつ最大約2-3%の応答差が生じることが確認できた。これは、最大で約2-3%の信号差を無視できるのであれば、一般的な画像解析に簡単な修正作業を施すだけで、教材として問題の無い画像を作成できることを示している。2)、3) のために分光測光標準星BD+333642と近傍渦巻銀河M101の撮像観測を行った。 教材用天体の観測については、N4873フィルターの完成の遅れ、木曽観測所の次世代観測装置の立ち上げ、などから当初予定していたデータの多くが取得困難となった。そこで、木曽観測所が独自に取得した観測データの提供を受け、これに不足したデータを取得・追加することで、バラ星雲、オリオン座大星雲、IC5146、網状星雲、そして、おとめ座銀河団のデータを揃えることができた。 試行的実践については、アーカイブ・データを用いて作成した様々な天体のカラー画像を用いて、教育学部1年生約40名を対象に、これら画像の色が示す科学的な意味を調査・報告させた。これによって、暫定的な結果ではあるが、基礎的知識を伴わず自由度のみが高い自主的学習活動では、天体のカラー画像に内包される基本的な科学的意味を読み解くことが困難であることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の遂行には、同一天体に対して数種類のイオンに由来する輝線に対応した広視野狭帯域撮像データの取得が必要不可欠である。特に電離水素起源であるHβ輝線に対応した狭帯域フィルター(通称、N4873フィルター)の作成・試験観測は早急に行う必要があった。しかしながら、初年度当初の配分額では狭帯域フィルターの作成・購入に全く不十分であり、前倒し支払いの制度を利用することで、初年度内にN4873フィルターを作成できたものの、N4873フィルターを用いた初年度の観測は事実上行うことが出来なかった。 N4873フィルターを用いた狭帯域撮像観測については、本年度初めから観測時間を申請・実施したものの、天候に恵まれなかったことと、木曽観測所の次世代観測装置の立ち上げが重なったことから、十分な観測データを得ることは叶わなかった。 これらによって、当初予定より、狭帯域フィルターの性能評価については約1年、教材用天体の観測データの取得に約6ヶ月の遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の配分額の問題のため(前述)、本研究計画は申請時スケジュールから1年近くの遅れを生じている。 最終年度にあたる次年度はまず、初年度末に完成した狭帯域フィルターN4873の等級較正精度と限界輝度の評価を至急行う。また、本年度限りでKWFCの運用が停止されることから、木曽観測所から教材化用に提供された観測データと、これに不足分を自力で追加取得した観測データの画像解析を進め、教材となる天体画像を作成する。前年度の報告にて、教材化する天体数を減じることで計画の遅れに対応するとはしたものの、電離ガス構造が分かり易い星形成領域であるバラ星雲の教材化を最優先とし、これとは異なる超新星残骸に分類される網状星雲の教材化も優先したい。画像作成完了後は、次年度後半を目安に高校生や大学1、2年生を対象とした試行実践を行う。
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Causes of Carryover |
前述の理由で、初年度にHβ輝線に対応した狭帯域フィルター(通称、N4873フィルター)作成のために前倒し支払いの制度を利用したこと、本年度の観測の多くを、観測所を直接訪れないリモート観測の方式で行ったこと、天候などの問題により画像解析を行える十分なデータが得られなかったため、解析補助などが不要であったことなどによる。 (使用計画) 本研究で作成する教材は、主に天体のカラー画像から、物理的・化学的情報を抽出するものである。観測データからカラー画像を作成するツールは有償かつ高価なものであり、これらの購入・入手に充てる予定である。また、観測データの画像解析補助の謝金にも充てる。また、現在、一般には狭帯域撮像では分離が困難と思われる輝線成分を、複数のフィルターを用いた狭帯域撮像データを用いて分離できる可能性を試行中であり、このための狭帯域フィルター・セットの購入も検討している。
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Research Products
(3 results)