2016 Fiscal Year Research-status Report
国際的スタンダードカリキュラムの構築「大学学部における総合科学としての天文学」
Project/Area Number |
16K12776
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
縣 秀彦 国立天文台, 天文情報センター, 准教授 (30321582)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鴈野 重之 九州産業大学, 工学部基礎教育サポートセンター, 特任講師 (20615364)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 天文教育 / 国際ガイドライン / 質保証 / 高等教育 / 総合科学 / シラバス / カリキュラム / 天文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本学術会議では、大学教育の分野別質保証の在り方について検討を行い、分野毎に指針を発表した。この中で天文学は物理の一分野と位置付けているが、実際に大学の物理学部に含まれ物理学の学士としての質保証が必要とされる「天文学科」が設置されている大学はごく少数にすぎない。その一方、全国100以上の大学で行われている天文学に関する教育についてはその扱いが定まっていない。本研究では全国の大学で実施されている天文学教育の実態を明らかにするとともに、「総合科学としての天文学」という新しい視点に基づいて、天文学分野における大学学部まで教育内容の質保証について具体的な課題を抽出しようとしている。 今年度は、日本の4年制大学の天文学・宇宙科学に関する講義のシラバス調査を行った。国立・私立大学の1/4を無作為に選び、公開されている全シラバスから科目名検索し、「宇宙」「天文」を科目名に含む授業を抽出し、73 講座のシラバスを調査対象とした。これらを精査した結果、科目名に「宇宙」「天文」という言葉が含まれているにも関わらず、内実は地球科学のみなど、宇宙についての内容を取り扱っていない授業もあることがわかった。また、天文学的内容を主とした授業であっても、担当教員は日本天文学会の会員でない場合が約半数に及ぶ。このことは、大学で教員を適材適所できていないこと、天文学界とは関係のないところで天文教育が進められていることを示唆している。 一方、本研究では、諸外国の大学における天文学カリキュラムを比較検討した。日本の大学院へ進学を希望する外国人学生の学習内容も調査し、多角的に新しい視点「総合科学としての天文学」に即した国際ガイドラインの作成作業を国際天文学連合に提案した。他の学術分野の国際ガイドライン作成のトリガーとなるとともに、今後の国際的な高等教育のあり方に対して多方面への波及効果が見込まれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度、基礎データ収得のため、日本の4年制大学で開講されている天文学・宇宙科学に関する講義のシラバスを調査したところ、予想外の実態が明らかになった。総合科学としての天文教育ガイドライン作成にあたって留意すべき点が明確になった点は重要である。また、日本学術会議の質保証資料及び日本天文学会の天文教育ガイドライン案を英文に直すことが出来たため、今後の国際比較において諸外国の共同研究者と共に考察することが可能となった。 一方、同様の調査を国際的に実施しようと試みたが、データの取得方法の確定に手間取り、解析可能なデータ数が集まっていない。この問題の解決が2年目の重要課題となっている。ただし、諸外国の研究者からの反応・反響は高く、国際天文学連合OAD事務局(ケープタウン)、ライデン大学等と共同研究をスタート出来たのは大きな収穫であった。 平成29年3月、国際天文学連合のC1分科会(天文教育分科会)に、国際ガイドライン作成ワーキンググループ設立申請を共同研究者と共に行った。この可否については未回答であるが、平成31年の国際天文学連合創設100周年に向けて、天文教育の国際ガイドライン作成の必要性の理解が高まりつつある。 今年度の研究結果として重要な点は、今後のガイドライン作成作業において、大きく2種類の指針が必要であることが明確になった点である。それは、専門家教育のためのガイドラインと、すべての人たちが身につけるべき天文リテラシー(天文リベラルアーツ)の2つの独立したガイドラインである。この方針に沿って、国内においても国際的においてもさらなる調査活動を継続する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
1.海外の現状把握について 平成29年度に予定されている天文学・天文教育に関する複数の国際会議にて、講演・調査活動および海外の共同研究者との打ち合わせ等を行い、国際天文学連合内のワーキンググループ設置に向けて基礎資料の収集を進める。また、国際天文学連合国際普及室の協力を得て、各国の担当者を通じて、基礎資料の収集を行う。具体的には専門家育成とリテラシー形成の2面においての各国の取り組み(例えば、国内にガイドラインが存在するかなど)を集約する。また、複数のサンプルポイントを設置し、具体的な現行のカリキュラム・シラバスを収集し分析する。 2.国際ガイドライン作成作業について 国際天文学連合内のワーキンググループと連動して、2種類のガイドライン案を平成30年度中に取りまとめる。この案は、平成30年8月にウィーンで開催される国際天文学連合総会にて審議される見込み。 3.国内調査の継続とその論文化 以上の3項目を中心に本研究を推進する。
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