2016 Fiscal Year Research-status Report
筆位置を音色で確認できる視覚障碍者用音響ペンの提案
Project/Area Number |
16K12781
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Research Institution | Tsukuba University of Technology |
Principal Investigator |
巽 久行 筑波技術大学, 保健科学部, 教授 (30188271)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮川 正弘 筑波技術大学, その他部局等, 名誉教授 (70248748)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 教育工学 / 視覚障碍補償 / 音響ペン / 筆位置獲得 / 筆記訓練 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はペンの移動が音で分かるような,視覚障碍者のための音響ペンを提案している。2年の研究期間の初年度に当たる平成28年度は,音で筆の位置や軌跡を確認できるプログラムを開発するために,1) 筆移動と音響との間のパラメータ設定の考察,および,2) 筆移動に対する音の方向識別の検討,という2項目を行った。音の性質を決める3要因は,音量,周波数,周波数成分である。本研究で提案する音響ペンが発する音(疑似音)は,音量は頭部中心からの距離で変化させ,周波数は前方左右方向で変化させ,周波数成分は前方上下方向で変化させるような,音響場の定位感を考えている。これらの音は,電子ペンの筆位置情報をもとにPC音源で疑似生成しているが,音の方向識別能力や移動距離感覚は個人差もあるので,被験者に応じて3要因の閾値設定が可能なプログラムとしている。現在,プログラム開発のために,筆位置の動作分析は光学追跡装置を用いており,疑似音響の生成はPC音源(General MIDI)のプログラミングで行っている(予備実験はソフトウェア・シンセサイザを用いた)。最終的に音響ペンの筆位置測定は,電子ペンで使われている赤外線・超音波法の利用を予定しているが,その手法はデータ解析に不向きで精度も得られないので,プログラム開発段階では光学式手法で行った。なお,筆移動はファジィ制御で使用されるMin-Max重心法で推定でき,また,筆軌跡は空間表現手法の一つである距離場空間モデルで推定できるので,定位感の音響をある程度の推定値で求めることは可能である。しかし実際には,被験者の方向識別感覚や移動距離感覚には個人差があるので,多種多様な状況下でのデータをもとに機械学習させた推定値を採用している。この学習プログラムの作成と,被験者の個人差に応じて定位感(音響の聞こえ方分布)を求めるプログラムを作成するのが平成28年度の研究であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
音源がどの位置にあるのかを聴き手が感じることを定位感と呼ぶ。本研究で提案する音響ペンは,PC音源と電子ペンで構成することを考えているが,その筆位置の定位感は,電子ペンの筆位置情報をもとにPC音源で疑似生成した音である。また,それを聞く際は,視覚障碍者が耳で聞く環境音等の聴覚情報を邪魔しないように,音響ペンが発する疑似音は骨伝導ヘッドホン(耳の近くの骨を振動させて音を聞くヘッドホンで,鼓膜で聞く他者の声や周囲の音などと同時に聞くことができる)で聞くことを予定している。このため,実音の定位感と比べて,疑似音による音響ペンの定位感の作成が難しいこと,さらに,骨伝導音のために,鼓膜音と違って音圧の差異を調整するのが難しいことが,進捗状況が遅れている理由である。現状,疑似音響を生成するプログラムの微妙な作成が難しいため,平成29年度は当初の研究計画書には計上していない音圧計を購入し,生成した疑似音の音圧を検証しながら定位感プログラムを修正する予定である。ただし,購入予定の音圧計は,筆位置である疑似音響が常に変動するため,音圧レベルがリアルタイムにPCで解析可能な機器とする(もし,それが高価な場合は購入を断念し,定位感プログラムの作成を別の方法で考える)。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に開発した疑似音で筆の位置を確認するプログラム(その内訳は,筆移動推定と筆軌跡推定を行うプログラムから構成される)を用いて,平成29年度は書画訓練シミュレータの開発を行う。この遂行が当初の予定を上回る場合は,筆の誘導と書跡の確認を行うプログラムを追加する。最初に,練習用の書画音を作り出す書画音生成プログラムを作成する。練習用の書画音は,円や三角形のような単純な図形軌跡音から,平仮名などの文字や簡単な漢字などのような文字軌跡音を,被験者の方向識別能力に合わせて生成する。次に,書跡判定プログラムを作成し,最後に,これらをまとめて書画訓練シミュレータとする。練習なので,書画生成は被験者が筆移動中に書跡が正しいことが確認できるような,対称性等を持つものが良い。例えば書画が円ならば,筆移動中の定位感は理解しやすく,書き出しと書き終わりの位置が同一なので音の識別が容易となる。書画訓練シミュレータは,初めに被験者がPCによる書画の音響デモを聞き,書画学習をしたくなるようなクイズ形式にする予定である(音によるあみだくじや迷路脱出なども良い)。本シミュレータの開発にはデータマイニングの手法を適用する予定である。また,研究計画の遂行次第では,筆の誘導と書跡の確認プログラムを追加するが,これは距離場空間により移動可能な領域が求められるので,その移動可能領域における距離場円の中心を結ぶ経路が,最も移動が円滑な経路であるという仮定のもとに誘導経路の候補を求めるもので,その軌跡の推定はニューラルネットワークの手法を採用する予定である。
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Causes of Carryover |
主要な物品である光学式モーショントラッカーが当初予定よりも安価に購入できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の経費と合わせて旅費の一部に充当する予定である。
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Research Products
(6 results)