2017 Fiscal Year Research-status Report
生命科学とビジネスのダイナミクスの解明:生命の理解と応用を中心に
Project/Area Number |
16K12800
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 和歌奈 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD) (70768936)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イノベーション / 生命科学 / ビジネス / フィールド調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本でどのようにイノベーションが生じているのかを、再生医療の技術開発(生命科学)と起業家育成事業(ビジネス)の事例を取り上げ明らかにする。その際、申請者らが着目するのは、科学とビジネスにおける「生命」に関する概念・理解とその応用である。近年、イノベーションの実践者らは、急激に変化する環境に対応するために組織やネットワークを「エコシステム」と表現するなど「生命」や「生態」に関するメタファーで捉え始めている。一方、生命科学の分野では、分子生物学や遺伝子解析の発展を背景に科学者の生命に関する理解は大きく変化している。本研究は、ビジネスと生命科学という異なる分野のイノベーションの動態を明らかにするとともに、それらがいかに「生命」に関する概念、メタファー、実践によって結びつけられているかを明らかにする。 2017年度、研究責任者の鈴木は、それまで幹細胞の実験室(関西にある生命科学系の研究所)において収集したデータをまとめ、分析と理論の精緻化を中心に行なった。研究協力者のLiv Krauseは、春と冬に大阪、夏にフランスとデンマークにおいてイノベーションについてのフィールドワークを行い、豊富なデータを収集した。それぞれのインキュベーション・オフィスで参与観察を行い、起業家や企業を志す学生へのインタビューを行った。2人の研究成果を合わせたところ、社会科学、自然科学、組織マネジメントなどにおいて「エコロジー」「エコシステム」「レジリアンス」などの生態学由来の概念が多様な意味で使われていることが明らかになった。それぞれの実証データをもとに、それらの概念がどのようなものであり、どのようにフィールドで使われているかの詳細を明らかにした。また、そのような概念がどのような変化を経て、異なるフィールドで使われるようになったのかを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究責任者の鈴木は、実験室でのデータ収集を終え、分析と理論の精緻化に取り組んだ。投稿論文執筆の準備も進んでいる。研究協力者のKrauseは、イノベーションに関するデータの収集をほぼ終えて、分析とエスノグラフィーの記述の準備を整えた。さらに、個別の研究発表を通じて、専門家から有意義なアイデアやコメントを得た。これらの研究成果の蓄積を通じて、生命科学とビジネスについてのお互いの実証データを検証する段階にきたと言える。研究は、ほぼ計画通り進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、エコロジーやレジリアンスなどの生態学由来の概念が異なる分野やフィールドでどのように使われているかが明らかになったが、生命科学とビジネスという異なる分野における概念をどう比較するのか、という問題が浮上した。そこで、文化人類学の先行研究に基づいて、「比較」という概念を見直す作業を行う。今後、2人の調査で得られた実証データを分析するとともに、人類学者のマリリン・ストラザーンなどの比較の概念やそれに触発された「ラテラル・エスノグラフィー」という手法を検証する。これにより、異なる分野の概念の違いや概念の移動についてのエスノグラフィーを書く手法や分析概念、理論を発展させる。
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Causes of Carryover |
2017年度に研究責任者が妊娠・出産し、研究を一時中断せざるを得なかったため、使用するはずだった科研費を次年度に回すこととした。
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