2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K12810
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
阿部 芳郎 明治大学, 文学部, 専任教授 (10221730)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 製塩 / 製塩土器 / 珪藻分析 / 海草付着性微小生物 / 藻灰 / 藻塩 / 実験考古学 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本列島には岩塩が存在せず、古代より塩は海水を煮沸することによって生産されたことが古代文献資料等にも確認できるが、これに加え「藻塩」などの用語に示されるように海草の利用が古くより指摘されてきた。そこで本研究では遺跡における製塩の痕跡を確認する手法として、製塩土器以外に海草および海水の存在の有無を評価する手法を検討し、遺跡において採取された土壌や貝層サンプルを用いて分析を実施した。分析は珪藻分析・プラント・オパール分析と海草付着性の微小生物遺存体の産状である。同様の手法はすでに西日本の古代遺跡においても実施された事例があるが、本研究では現生の海草付着性の微小生物の産状を確認した結果、これまでの選別手法では回収率が著しく低くなっている事実を確認したため、その精度を上げる工夫を加え、おおむね良好な成果を確認した。本研究では関東地方の縄文時代においてこの手法を用いた分析を実施するとともに、分析対象範囲を製塩土器出現以前の中期にまで拡張した点で前例がない。分析の結果、製塩土器出現以前の時期において製塩痕跡を確認することができた。この事実は製塩土器の出現と製塩の開始期が同時ではないことを実証した点で重要である。 さらにまた、製塩土器の生産と流通の実態を解明する目的で晩期の製塩土器の胎土分析を併行して実施した。分析対象地は海浜部と内陸部の複数地域においておこなった。申請者は過去の研究において製塩土器の在地生産の可能性について指摘し、海浜部からの一元的な塩の流通に再考の余地があることを指摘してきた。本分析によって、その推測の妥当性がおおむね確認できた。また、海草を用いた土器製塩の技術を解明するために、実験考古学的な手法によって藻灰を用いた土器製塩実験を実施し、その成果を公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
製塩痕跡の確認手法については一定の確度を保証できる段階にまで達した。今後は分析サンプルを入手し、分析対象の時空間の拡張を行いたい。
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Strategy for Future Research Activity |
日本列島の製塩史の解明という大目的を達成するためには、複数の多岐にわたる課題が意識されるが、当面は製塩痕跡の年代的な遡及の確認と藻灰の利用形態の解明が重要な課題となる。製塩工程における藻灰の利用技術が解明できれば、古代製塩技術の解明に有益な知見を提供できる。
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