2016 Fiscal Year Research-status Report
「死後の土地利用」の地球環境研究における意義と持続可能性
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16K12820
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
土居 晴洋 大分大学, 教育学部, 教授 (40197992)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 土地利用 / 環境 / 弔い / 人口増加 / 経済成長 / 文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,土地利用変化の要因の一つとして「墓地」を捉え,日中比較を視野において,中国における土地資源と埋葬の形態に関わる経済的・社会的・文化的要因を把握することで,人類にとって不可欠の「死者のための土地利用」の形成メカニズムと持続可能性を明らかにすることを目的とする。 3年計画初年度である平成28年度は,(1)墓地に関する文化的・歴史的資料,墓地開発に関する法律制度等の資料収集,(2)「死後の土地利用」である「墓地」を「土地利用」の観点から分類を行うこと,(3)マクロスケールでの「墓地」開発の確認,(4)メソスケールでの「墓地」開発の地域的特質の確認,の4点を中心に研究を実施した。 (1)国内では国立国会図書館等,中国では北京大学図書館で資料収集を行った。文化的要因としての「風水思想」,政治経済的要因としての殯葬改革に関する制度や実績に関する資料の他,総人口や死亡数に関する経年的データなどを入手した。(2)土地の使用面積や遺骨等の埋葬の形態を基準として,土葬墓地,平面墓地,壁墓地などを確認した。(3)『中国民政統計年鑑』をもとに,経年的に省単位の公墓数等を整理した。(4)北京市を事例として,北京市が管轄する公墓やそれ以外の集団墓地に関する資料を収集し,地図上の位置を特定した。 以上の研究成果の概要は,日本地理学会春季学術大会(平成29年3月28日~29日,筑波大学)において発表した(発表題目:「中国都市地域における墓地の立地動向」)。 また,わが国に関しては,明治期以降の墓地に関する法制度の変遷や墓地に関する社会学的,工学的研究などの資料を収集した他,『ゼンリン住宅地図』等を用いて,東京大都市圏と地方都市の墓地の分布図の作成のための作業を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に実施した国内と中国における現地調査および資料収集によって,現代中国の都市地域における墓地開発の歴史的経緯や地域的な動向について考察した結果,現代中国の都市地域においては,人口増加と市民の生活水準の向上という背景のもとで,墓地による土地資源に対する圧力を高める動きと政策的な圧力を低減する動きが併走している状態にあると言える。具体的には以下のように整理できる。 まず,中華人民共和国の建国(1949年)以後,社会主義国家建設の一翼として「殯葬改革」が進められている。全国的に土葬から火葬への転換が進められ,現在の火葬率は約50%であり,沿海地域など経済発展地域で火葬化が進展している。また公墓や葬儀等を行う施設である殯儀館も全国的に整備されつつある。 メソスケールの事例である北京市においても「殯葬改革」が進行した。宗教施設の墓地などが市政府に接収・移管され,市民向けの集団墓地である公墓の整備を進めている。また,平面墓地や壁面墓地,樹木葬など,小面積の土地を使用する形態が増加している。一方で,旧思想として退けられた「風水思想」が再び注目され,風水思想上の好適地が選定される傾向にある。 以上のように,人口増加と経済成長を続ける中国の都市地域における墓地開発は,「殯葬改革」によって,土地資源を節約する,あるいは土地資源を消費しないよう諸施策が実施されてきた。その一方で,都市地域における死亡数の増加は顕著であり,豊かになった市民による風水上の好適地志向の高まりは確実に土地資源に対する圧力を高めている。 わが国に関しては,法制度の変遷などの文献資料を収集し,現代日本における墓地を土地資源との関わりで捉える準備を進めた。また,東京大都市圏と地方都市(大分市)において,『ゼンリン住宅地図』等を利用して,対象地域の全墓地の分布図を作成している。
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Strategy for Future Research Activity |
土地利用の課題としての墓地の持続可能性を考察する視点として,(1)墓地の土地面積や墓地と周辺の土地利用の関係,(2)墓地開発などの墓地の形成メカニズムの解明が求められる。また,これらを達成するためには,(3)事例都市・地域の拡大が求められる。 (1)現地調査によって,北京市で位置を特定された各公墓の領域を地図上で確認する。また北京市管轄以外の集団墓地についても全数を明らかにする。また,風水思想との観点から,これらの立地を評価し,周辺土地利用との競合・共存関係を検討する。なお,GoogleEarth画像の特徴に基づく墓地開発地の特定手法を上海都市圏など他の都市圏にも適用する(3)。 わが国都市地域の墓地立地を特定するために平成28年度に実施した作業(東京都西東京市・小平市など,大分市)を周辺地域に拡大する(3)。これにより,人口規模と墓地面積の関係の考察へと進みたい。なお,ビルの中に設けられる納骨堂など,地図上に表記されない実質的な墓地についても業界団体への聞き取り調査等により明らかにする。 (2)墓地の形成メカニズムについて,平成28年度に整理した殯葬改革に伴う制度変更等に関する不明な点を聞き取り調査により解決する。また,土地所有や墓地開発に係わるアクターや意志決定プロセス,中国特有の国有・集団所有制度との関連を明らかにする。また,集団墓地の多くが集団所有地に立地していると考えられることから,農村共同体と行政や外部資本との関わりを考察する。わが国の場合は,公的墓地,宗教団体の墓地,個人の墓地など,多様な設置主体について事例を選定し,聞き取り調査を行う。 これら主として現地調査における聞き取り調査を中心にして,墓地の形成メカニズムを制度,開発主体,さらには背景的要因としての,場所の特徴や人口の動向などとの関係において考察する。
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