2018 Fiscal Year Research-status Report
小中学生の「わがこと意識」促進要因解明による、主体的な防災学習プログラムの開発
Project/Area Number |
16K12839
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
木村 玲欧 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (00362301)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 防災教育 / 自然災害 / 生きる力 / わがこと意識 / 総合的な学習の時間 / インストラクショナル・デザイン / アクティブ・ラーニング / カリキュラム・マネジメント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人生経験が浅く災害を具体的にイメージすることが難しい小中学生が、中央教育審議会が推奨し、新学習指導要領などにも取り上げられている能動的学修(アクティブ・ラーニング)やカリキュラム・マネジメントの考え方を援用しながら、防災専門家の介入のない教師-児童生徒の教授過程において、災害を自分たちに引きつけて考える「わがこと意識」を持ち、教科学習の中で主体的に学ぶような学習プログラム(単元構想図・指導案)・教材等)を開発して、子どもたちの「生きる力」を向上させるものである。 本年度は、プログラム・教材開発のための前提となる「わがこと意識」を高めて主体的に学ぶことができるような学習目標を明確化させるための意識調査を引き続き行い、定性的・定量的な分析を行った。特に、2011年東日本大震災において障害者(障害手帳所持者)の死亡率を見ると被災地全体の死亡率よりも2倍近く多かったことが指摘されていることをふまえ、様々な障害のある児童生徒への効果的な防災教育を検討するための基礎資料として、学校現場における防災教育の現状と課題,要望等を明きからにする質問紙調査と、自然災害を含む学校安全の危機を現場教員がどのように意識しているのかを把握する質問紙調査を行い、視覚障害のある児童生徒が、地震の揺れに突然遭遇した時や緊急地震速報を見聞きした際、近くに大人(補助者)が誰もいない状況に置かれても、自らの判断で身を守る行動がとれる防災教育プログラムを提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、児童生徒が「わがこと意識」を持つための促進要因について心理学面接法・質問紙法による質的量的社会調査を引き続き実施して検討を行うことと、心理学・教育学の教育方法・技術論をもとに「わがこと意識」を持ちながら主体的に学べる防災学習プログラム(学習目標・単元構想図・指導案・教材等)の整備を、心理学・教育学におけるインストラクショナル・デザイン理論のADDIE 理論の考え方ではじめることを目標としており、これらについては2011年東日本大震災の被災地である南三陸町、2009年兵庫県佐用町水害の被災地である佐用町、最近大きな災害発生がない栃木県をフィールドとして、実際に研究が進められていることは大きな成果であると考えている。 特に、普通の小中学生だけはなく、2011年東日本大震災において障害者(障害手帳所持者)の死亡率を見ると被災地全体の死亡率よりも2倍近く多かったことが指摘されていることをふまえ、その現状を明らかにするための調査と、具体的な実践として「地震」における「視覚障害のある児童生徒」に焦点を当てて、視覚障害のある児童生徒が、地震の揺れに突然遭遇した時や緊急地震速報を見聞きした際、近くに大人(補助者)が誰もいない状況に置かれても、自らの判断で身を守る行動がとれる防災教育プログラムを提案した。またそのモデル校として、平成29年度の文部科学省委託事業「防災教育を中心とした実践的安全教育総合支援事業」の栃木県モデル校である栃木県立盲学校を選定した。ここでは、幼稚部から小中高等部、専攻科までがあり、通常の小・中・高等学校の教科教育と基本的に同じ目標、同じ内容で教育が行われており、障害をもたない子どもたちが使用するプログラムとの比較検討が可能であり、そのための実践・効果測定を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、アクティブ・ラーニングやカリキュラム・マネジメントの考え方をもとに防災学習プログラムの開発・検証・改良を続けながら研究を促進させていきたい。特に、インストラクショナル・デザイン理論におけるADDIEプロセスに基づいた、現場教員等との協働による効果測定・評価を行っていく。ADDIE理論とは、学習プログラム設計を進めていくための基本となるプロセスモデルのことで、分析→設計→開発→実施→評価の5段階における英語の頭文字をとったものである。特に最終段階の評価を重要視しており、実際に現場で使用し、学習者の学習目標の達成度を評価することでその学習プログラム・教材を評価し改善・改訂につなげていきたい。 今年度は障害をもつ児童生徒の中でも、「地震」における「視覚障害」に焦点をあてて、障害をもたない児童生徒のプログラムの一般性の検証と、視覚障害者向けのプログラムの効果測定を行った。今後は、障害の範囲を知的障害をもつ児童生徒に広げ、彼らが地震災害や緊急地震速報について正しい知識を身につけ、地震及び緊急地震速報を認知した際には、自らの危険を予測し回避する対応能力を高めることができるような教育プログラムの開発・検証を行うことで、障害をもたない児童生徒および、障害をもつ児童生徒も含めた、子どもたちの生きる力を向上させるような防災教育プログラムのあり方について提案をしていきたい。
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Causes of Carryover |
本研究において、東日本大震災の被災地における被災学校教育現場の教員等へのインタビューやグループワークなどを通して、防災教育の検証を行うことを目的としていたが、東日本大震災からの復興が当初予定よりも大幅に遅れており(例えば住宅再建について、阪神・淡路大震災では震災から5年ですべての仮設住宅が解消されたが、東日本大震災では震災から8年が経過してもまだ仮設住宅等による避難生活が続いている)、協力教員のもと着実に進捗はあるものの従来の計画からのこれまでの遅れをすべて取り戻すには至らなかった。またその検証で必要となった、障害をもつ児童生徒への防災教育プログラム開発・検証においても、特別支援学校での実践・検証の許可においては、そこに通う子どもたちの特徴から簡単には許可が下りずに、ラポール(信頼関係)を醸成するまでに時間が必要であった。 次年度は、東日本大震災での児童生徒の実態や教訓を盛り込んだかたちで、子どもたちに災害を身近に感じてもらい「わがこと意識」を増大させるような防災教育プログラムの開発を進めて行くために、東日本大震災や各被災地等での防災教育プログラムの検証に関する旅費等として使用し、また能力向上のための教育プログラム・学習教材作成のための材料費、成果に関する論文投稿料などについて、使用する計画である。これらは執行年度は違うものの、当初計画に則した使用用途である。
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