2016 Fiscal Year Research-status Report
津波による犠牲者はなぜ発生したのか?質的調査に基づくメカニズムの解明
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16K12841
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Research Institution | Tokoha University |
Principal Investigator |
重川 希志依 常葉大学, 大学院・環境防災研究科, 教授 (10329576)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 聡 常葉大学, 大学院・環境防災研究科, 教授 (90273523)
阿部 郁男 常葉大学, 大学院・環境防災研究科, 教授 (30564059)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 津波犠牲者 / 田老地区 / エスノグラフィー / 質的調査 / 東日本大震災 |
Outline of Annual Research Achievements |
東日本大震災以降,支援活動等を通じ釜石市並びに宮古市の消防団や行政職員,地域コミュニティリーダーとの間に信頼関係を培ってきた。今回の調査では、釜石市消防団の幹部職員を対象に①消防団全体指揮、②遺体搬送の調整業務、③津波避難誘導と避難所サポートの3つのテーマでエスノグラフィー調査を実施した。また宮古市社会福祉協議会会長の協力を得て、調査の趣旨を説明した上で協力していただける7世帯を選定した。消防団を対象とした調査結果に基づき、3つの発言録を短縮して読み物として整理した。 さらに津波により犠牲となった7名の方の家族を対象に、震災以前の暮らしから地震発生時の状況、津波により被災するまでのプロセスについて、エスノグラフィー調査を実施した。調査実施時期は平成29年3月27日~3月30日、各世帯ごとに個別に聞き取り調査を行った。1回の聞き取り時間は約2時間である。聞き取り内容はすべて文章化し、それに基づき得られたデータを、津波により犠牲となった方並びに残された家族の世帯と住まいの状況、被災時の状況、津波に対する意識、今後のこと、の4項目に分けて整理した。その結果、①犠牲となった場所は自宅前あるいは自宅傍が4ケース、防潮堤場が3ケースであり、避難の移動中で津波に巻き込まれた事例はなかった。②対象者全員が生まれ育ち共に田老であった。このため、過去の津波災害が語り継がれており、避難の必要性も十分に認識していた。③避難途中で3mあるいは4mという津波予想の情報を聞いている例が4ケースあり、この情報がその後の避難行動の判断に影響を与えていた。④これにより、ここなら大丈夫とそこにとどまった例が3ケース、時間があると物を取りに戻った例が2ケースあり、それが犠牲発生につながった。⑤家族が犠牲になったことで「金をもらっただろう」と心無い言葉をかけられた例が3ケースあることも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
なぜ津波により犠牲となってしまったのか,その理由や背景を含めた要因解明は非常にデリケートな問題に触れることとであり,調査には細心の注意が求められ,調査に協力していただく方たちとの信頼関係が築かれていなければ実現することは不可能であった。研究着手以前から、被災地での支援活動等を通じて築いていた人定つながりにより、津波により犠牲となったご遺体の搬送調整等を担った消防団員によるヒアリング調査や、7名の犠牲者のご遺族から詳細なヒアリング調査を実施することができた。犠牲者に関する情報を聞き取ることは、残されたご遺族や遺体を目の当たりにした消防団員の方たちにとって、震災から6年が経過しても非常に辛いことであったが、今年度の研究では十分な理解と協力を得ることができ、当初設定していた目的に関して、おおむね順調に研究が進捗していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、調査にご協力いただいた7世帯の方たちから得られた結果を取りまとめた。東日本大震災以降、津波による被害発生過程を解明する多くの研究が実施されており、今回得られた成果も既往研究で指摘されていることと同一の内容も含まれている。今後、調査にご協力いただける方の数をさらに増やし、また多様なケースを対象として具体的な事例を集め、「亡くなった方はなぜそういう状況に遭遇しなければいけなかったのか」を,社会的な背景や津波来襲状況も含め一つ一つのケースにフォーカスをあて被災過程を解明し,記録し、その成果の活用方法を含めた研究に発展させていく予定である。さらに、詳細な聞き取り調査に基づき、地区ごとの詳細な津波性状の違いを解明することにより、マクロな被害想定では市民に伝えることのできない,津波被害の詳細な発生過程を示すことを目標とする。
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Causes of Carryover |
今年度は、当初予定していた現地調査及びヒアリング調査件数を減らし、調査資料を郵送してもら等の措置をとった。そのため研究遂行への影響はなかったが、多くの未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、引き続き調査対象地域において、津波により犠牲となったケースを選定し、個々の犠牲者の被災過程を解明するためのエスノグラフィー調査(個別のヒアリング調査またはグループディスカッション)を予定している。 そのため、調査メンバーの旅費や調査で得られた音声の証言記録を文字化するための経費、及び調査内容を記録するための記録用機器並びに消耗品の購入等に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)