2016 Fiscal Year Research-status Report
末梢性BDNF遺伝子発現を利用した神経伝達物質受容体活性評価およびうつ病治療戦略
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16K12894
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
福地 守 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 助教 (40432108)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | BDNF / ケラチノサイト / 発光イメージング / 脂肪組織 / 高脂肪食 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)ケラチノサイトにおけるBDNF遺伝子発現制御機構の解明 以前の我々の研究により、BDNF mRNAが脳・神経系だけでなくケラチノサイトにおいても発現している予備的な結果を得ている。そこで、培養ケラチノサイトを用いてBDNF mRNA発現に関する解析を行った。その結果、培養神経細胞に比べ低いもののBDNF mRNAが発現していることが明らかとなった。BDNF mRNAは、スプライシング様式の違いにより複数種類のmRNAが合成されることが知られているが、神経細胞同様、ケラチノサイトにおいてはBDNF exon I-IX、exon IV-IX、exon IXAをはじめとするmRNAが発現していることが明らかとなった。 また、ケラチノサイトにはNMDA型グルタミン酸受容体が発現していることが報告されている。神経細胞ではNMDA受容体の活性化によりBDNF mRNA発現が増加することから、ケラチノサイトをNMDAで処理することでNMDA受容体を活性化し、その後のBDNF遺伝子発現変化を計測したが、顕著な変化は認められなかった。したがって、ケラチノサイトに発現するNMDA受容体は神経細胞とは機能的に異なることが示唆された。 (2)脂肪組織におけるBDNF遺伝子発現に関する解析 BDNF遺伝子発現変化を発光により可視化可能なBDNF-Lucマウスを用いた以前の我々の研究により、高体重のマウスの脂肪組織で強い発光が検出されることが示唆された。そこで、高脂肪食または通常食を用いたマウスを飼育し、2週間おきに体重およびマウス腹部の発光を計測した。その結果、高脂肪食を与えたマウスでは体重増加および腹部の発光増加が認められた。一方で通常食を与えたマウスでは体重や発光に顕著な変化は認められなかった。したがって、BDNFは脂肪組織にも発現しており、肥満との何らかの関係があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ケラチノサイトにおけるBDNF遺伝子発現制御機構の解析では、ケラチノサイトに発現するBDNF mRNAの種類を初めて同定し、特にBDNF exon I-IX、exon IV-IX、exon IXAをはじめとするmRNAが発現していることが明らかとなった。その一方で、ケラチノサイトに発現するNMDA受容体は神経細胞とは機能が異なる可能性が考えられ、ケラチノサイトを用いてNMDA受容体の活性を評価することが難しいことが予想された。 脂肪組織におけるBDNF遺伝子発現に関しては、高脂肪食により脂肪組織におけるBDNF遺伝子発現が顕著に増加すること、さらにこの増加が体重の増加とよく相関することが明らかとなった。この発光変化と体重変化は、予想以上に強く相関しており、BDNFが肥満と密接に関連する可能性を示す興味深い結果となった。以前より、視床下部におけるBDNFと摂食に関する報告はあったが、本研究では中枢神経系ではなく末梢組織である脂肪組織においてBDNFが何らかの生理活性を有する可能性を示しており、今後の研究の発展が大いに期待される。 以上の結果に基づき、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策は以下の通りである。 (1)ケラチノサイトにおけるBDNF遺伝子発現を利用した神経伝達物質受容体の機能評価 ケラチノサイトには、NMDA受容体の他にアドレナリン受容体などの神経伝達物質受容体も発現しているため、これら受容体のアゴニストを用いてBDNF遺伝子発現が誘導されるかを検討し、これら受容体の活性状況をBDNF遺伝子発現変化により評価可能か検討する必要がある。 (2)高脂肪食により誘導されるBDNF遺伝子発現に関する解析 高脂肪食による肥満では、脂肪組織に慢性的な炎症が起こること、低酸素状態であること、血管新生が亢進すること、などが報告されている。これら脂肪組織の状態とBDNF発現誘導との関連性について解析することで、脂肪組織に発現するBDNFの生理的意義を明らかにする必要がある。そのためには、高脂肪食によるBDNF遺伝子発現が脂肪組織のどの細胞で誘導されるのか(脂肪細胞、マクロファージ、新生血管など)を明らかにする必要があると思われる。
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Causes of Carryover |
ラチノサイトを用いた解析において、当初の予定とは異なり、NMDA受容体の活性化によりBDNF遺伝子発現が変化しないことが明らかとなり、条件検討が必要であること、そして他の神経伝達物質受容体に着目した解析を計画する必要があることが判明した。そのため、ケラチノサイトを使用する実験の規模を一部を縮小したことにより、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在、アドレナリン受容体などの他の神経伝達物質受容体アゴニストを用いた解析を計画しており、この実験に必要な消耗品(ケラチノサイト培養用消耗品や受容体アゴニストなど)の購入に使用する予定である。
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Research Products
(5 results)