2016 Fiscal Year Research-status Report
がん診断のための細胞外ベシクル捕捉・破砕用マイクロチップ開発
Project/Area Number |
16K12901
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
石原 量 東京理科大学, 基礎工学部材料工学科, 助教 (30633507)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 忠章 東京理科大学, 基礎工学部生物工学科, 助教 (40631213)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 表面機能化自律駆動マイクロチップ / 細胞外ベシクル / その場診断 / 放射線グラフと重合法 / がん |
Outline of Annual Research Achievements |
がんのバイオマーカーとして,体液中に存在する細胞外ベシクル(EV)が近年注目されている。EVはがん特異的なタンパク質をその膜に有することが報告されており,EVの検出ががん診断に繋がるとして期待されている。しかし,既存のEV検出方法は,煩雑で時間がかかり,多くのサンプル量が必要となる。これらの問題を解決する方法として,診療室や自宅などで簡単に病気を診断できる技術であるpoint-of-care testing (POCT)が注目されている。POCTを実現する材料として,自律駆動マイクロチップは,低コスト・短時間・少ないサンプル量・ポンプ無しで使用することができるため期待されている。申請者は,放射線グラフと重合法を本マイクロチップに適用し,表面機能化自律駆動マイクロチップを作製してきた。本年度は,本技術をEVに適用し,EVを簡便かつ迅速に検出することをめざした。 チップは以下の3ステップにより作製した。まず,開始剤BenzophenoneをPDMSマイクロチップ流路表面に担持した。次に,モノマー2-aminoethyl methacrylate (AEMA)で流路を満たし,10分間UV照射することによりPAEMAをグラフト重合した。さらに,anti-CD63 antibodyで流路を満たし,37 ℃で2時間,湿度100 %で静置することにより抗体を固定し,その後脱気した。作製した表面機能化自律駆動マイクロチップを用いて,MCF-7由来のEVを層流樹状増幅法(LFDA) によって検出した。増幅開始5分後における,左側の流路にEVを通液した場合と通液していない場合の蛍光画像をt検定(両側)すると,5 %水準において蛍光強度に有意差が認められたことから,EVを簡便かつ迅速に検出できることが実証できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では放射線グラフと重合法のうち,電子線グラフト重合法を利用する予定であり,電子線グラフト重合法を利用して作製した表面機能化自律駆動マイクロチップを用いてEV検出には成功した。しかしながら,電子線グラフト重合法では,電子線照射装置購入は現実的ではなく,電子線照射を外部委託しているため,マイクロチップ作製コストが高いことが問題であった。また,外部で照射・高分子鎖を重合するために重合時の条件を検討することにも限界があった。そこで今年度は,UVグラフト重合法をマイクロチップに適用することを検討し,安価,簡便,かつ様々な重合条件を容易に検討可能なマイクロチップの機能化法を確立することに成功した。このように,マイクロチップの作製にあたり,利用する放射線グラフト重合法の種類を電子線からUVへと変更したことが,やや進捗が遅れている理由の一つである。
|
Strategy for Future Research Activity |
EVを検出,解析,破砕という3つの目標のうち,今年度は1つ目の「検出」に関してはおおむね達成することができた。しかしながら,チップを実用化するためにはEVの検出感度の向上が必須である。そこで,より効率よくEVを捕捉するためにマイクロ流路の一部の高さを低くし,より抗体とEVとの接触頻度を向上させたチップを用い研究を進める予定である。また用いる抗体の種類,用いるサンプル量も検討予定である。これらの検討が済み,十分な検出感度が得られた場合には,本表面機能化自律駆動マイクロチップを腫瘍を形成させたマウスの血液中のEV検出へ適用する予定である。またこれと並行して裸眼での検出方法の確立も試みる。 2つ目の解析については,これまでアビジン‐ビオチン間の相互作用を利用して検出していたため,一度にEV膜上の一つのタンパク質を検出することしかできなかった。そこで,今後はレクチン‐ガラクトースというもう一つの相互作用を導入することで,EV膜状のタンパク質の複数同時検出(解析)をめざす。本実験に当たっては,ガラクトース複合体およびガラクトース修飾レクチンが必要となるため,それら分子の合成を進め,その後合成した試薬を用いて,層流樹状増幅法に適用する予定である。 3つ目の破砕に関しては,当初の予定通り,一定の密度以上の4級アミンが細胞膜を破砕し細胞を殺すことに着目し,温度によりEVを捕捉した高分子を収縮させ基材表面付近の4級アミンと接触させることで破砕を試みる。その際に十分な密度の4級アミンと接触させられるかという点が予想される課題点であり,4級アミンをガラス基板表面だけでなく,ガラス表面から原子移動ラジカル重合法によって4級アミンを含む高分子鎖を成長させることで十分な密度の確保を試みる。
|
Causes of Carryover |
表面機能化自律駆動マイクロチップの作製にあたり,当初の予定では電子線グラフト重合法を利用する予定であったが,途中から予定を変更し,より安価かつ簡便なUVグラフと重合法を利用することにしたため,実験を安価に進めることができたから。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
細胞外ベシクルに関する最大規模の学会であるISEV2017への参加費として利用する予定である。また,検出に当たりこれまでの蛍光検出から裸眼検出を目指すためその試薬や装置の購入に利用する予定である。
|
Research Products
(5 results)