2016 Fiscal Year Research-status Report
経頭蓋交流電気刺激による認知症自己認識システムへの促通効果とメカニズム
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16K12956
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
小俣 圭 浜松医科大学, 光先端医学教育研究センター, 特任助教 (20508783)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 経頭蓋交流電気刺激 / 核磁気共鳴スペクトロスコピー / 脳内化学代謝物 / γ波 |
Outline of Annual Research Achievements |
高齢化社会を迎え増加している認知症者への対策のため、その原因解明や治療法開発が急務となっている。本検討課題では、認知症へのリハビリテーション効果を念頭に、電気刺激法による認知機能への効果とその生理的変化の探索を目指すものである。近年、頭部への交流電気刺激により脳の状態変化を引き起こすことが可能であるとの報告があり、その応用として神経疾患への応用が期待されている。しかしながら電気刺激によって脳の状態がどのように変化するのかに関しては、膜電位変化等が知られているが詳細が明らかではない。本研究の目的は、1)経頭蓋交流電気刺激により脳にどのような変化がおこるのか、2)経頭蓋交流電気刺激が認知機能の促通をもたらすのか、の2点を検討することである。特に認知症において機能低下が知られている「自己認識システム」に焦点をあて、脳計測手法を用いて交流電気刺激による脳神経基盤への影響を調べることにした。本研究の目的は臨床応用を射程に入れているが、本計画では基礎的知見を得るために健常者を用いて交流電気刺激法の可能性を模索・検証する。本検討の特徴は電気刺激法によって変化する脳活動だけではなく、核磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)を用いて化学代謝物質の変化も合わせて検討する点にある。 今年度はまず経頭蓋交流電気刺激(tACS)の予備実験およびMRSの実験最適化を行った。経頭蓋交流電気刺激の適切なパラメータ探索を行い、先行研究を踏まえて、tACSは背外側前頭前皮質に印加する事にした。ここは短期記憶を含む実行機能に関わる領域であり、先行研究において自己認識システムに影響を与えた部位である。検討の結果、この部位の左右半球に対してガンマ波帯域で10分間の刺激を加えることにした。MRSの検討を行うため、関心領域の設定と諸処のパラメータセッティングを行い、電気刺激印加前後に計測するプロトコルを確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況としては、おおむね順調に進展していると言える。今年度の目標は経頭蓋交流電気刺激の予備実験とfMRI・MRSの実験最適化である。今年度は経頭蓋交流電気刺激の手技を本大学の田中准教授よりレクチャーをして頂き、その訓練を行った。これら装置の扱いはシンプルであり想定よりも早く習得することが出来た。検討の結果、tACSの運用にあたっては二重検定盲を用いることにした。一方で、刺激を加えるためのパラメータに関しては、様々な可能性がある。今回は先行研究を受けて、背外側前頭前皮質上に電極を設置することとし、加える電流もガンマ波帯域とした。また、電極直下の脳領域のMRSの撮像を行うため、マーカーを作成して背外側前頭前皮質の部位を捉えるように試みた。加えて電気刺激の効果をみるために、刺激の前後において脳内化学代謝物濃度を計測することにした。そのため刺激前後において可能な限り同一部位の計測が必要となる。そこで、ほぼ同一部位を撮像する手法を開発した。またMRSのパラメータ検討も行った。精度の良いデータを得るためには一定サイズの関心領域が必要であるが、一方でサイズが大きすぎれば関心領域外が入り込む事にもなる。そこでサイズの最適化を検討し、被験者の疲労も考慮して10分程度の撮像時間を用いることにした。今後はこれら調整したパラメータによって被験者の計測を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の計画では、tACSの予備実験とfMRIとMRS実験の最適化であった。これらの検討については概ね予定通りに行われたと考えている。今後の研究の推進にあたっては、今年度に設定した実験系を実際に用いて計測を行うことである。加えて、tACSによる機能的変化について機能的MRIを用いた実験についても合わせて考慮する。実際に自己認識システムに対して電気刺激が影響をおよぼすとすれば、その脳活動自体も変化すると予測される。今回電気刺激の印加には背外側前頭前皮質をターゲットにしている。この領域は主に実行機能に関連し、短期記憶などにも関連する。そこでこの部位に関連性のある実験タスクを用いて、電気刺激に依る課題成績変化や脳活動変化を検証する。例えば「空間遅延反応課題」や「逆サッケード課題」「Feeling-of-knowing課題」などを現在検討中である。また、MRSの解析に関して撮像法としてMEGA-PRESSとPRSSがあるが、これらの間の違いもMRSの解析結果に大きな影響を及ぼす。そこで、平成29年度はこれらの撮像法の違いについても検討を行う。上記を踏まえて、被験者を募り、適宜実験を遂行してゆくのが今後の研究方針である。
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Causes of Carryover |
初年度は経頭蓋交流電気刺激法のパラメータセッティングや機能的MRIや核磁気共鳴法スペクトロスコピーの最適化が目的であったため、予想よりも研究費の予算執行を少なくすることが出来た。また、装置の購入に当てる部分に関しては、本学の田中准教授の意向により電気刺激装置を借り受ける事が出来たことで消耗品等にのみに対して予算を割くことになり、予算の節約を行うことが出来た。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の繰越し金に関しては、主に実験の遂行に使用する。また装置の消耗品も発生する事が予測されるため、それらの補填のために使用する。加えて、解析に関してより新しい方式のソフトウェア購入やPCの購入などに当てることとする。
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