2016 Fiscal Year Research-status Report
液晶素子を用いた色覚異常者向け色弁別補助デバイスの開発
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16K12965
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
中山 敬三 近畿大学, 理工学部, 講師 (80324333)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 色弁別補助 / 色覚異常 / ゲストホスト型液晶 / パネルD-15 / 輝度変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
色覚異常者は微妙な色味や輝度の感じ方の違いにより正常色覚者がその色から感じている色味を推定している。そのため、安定した色弁別評価実験ができるよう、パネルD-15テストで推奨されているD65光源および色評価によく利用されるD50光源を採用し、両光源下で同一の実験が遂行できる環境を整備した。 また、色覚異常の検査などでは色票を用いたチェック、すなわち、物体色の色知覚での検査が主流である。しかし、本研究の目的は日常での色弁別を補助する装置の開発であるため、コンピュータや電子デバイスでの使用状況下を想定した実験を行うため、色の提示方法としては、日常でのニーズに合わせて反射光の色判断のみならず、液晶および有機ELディスプレイに表示した色を弁別する実験系も構築した。また、水銀ランプおよびLED光源のプロジェクタも設置し、日常での色弁別が必要な様々なシーンを効率よく近似できる実験環境を構築した。 D型色覚の成人に実験協力してもらった結果について述べる。マゼンタ色素を用いたゲストホスト型液晶素子を用いた。この素子への印加電圧を制御すると、緑色の光の透過率を変化させることができる。提案素子は、静的な見え方の変化のみではなく、素子を知覚できる速度で駆動させた時の輝度変化が利用できる。すなわち、素子の駆動に合わせて輝度が変化する色は緑の光を多く含んでいるとの補足情報が得られる。実験協力者にはこれらの知識を事前に説明し、様々な色票を用いて素子の使用方法を訓練した。評価としてパネルD-15テストを用いた。素子を用いない裸眼状態では横断線が10本の強度D型であった。しかし、素子を用いて輝度の動的変化具合の情報も加味し、正常色覚者が似ていると感じている色を推測して並べる実験結果は、わずかな誤り(minor errors)が2個のみと改善され、提案素子の有効性が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究実施計画においては、眼前に素子を固定し安定して実験するための実験系の作製、素子の試作、実験手順の構築、および実験協力者に合わせた色票の選定などを目的としていた。 実験系の構築に関しては各種光源や発光表示デバイスでの色覚実験環境を整えた。特に提案素子は液晶素子であるため、偏光に関しては注意が必要である。そのため、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ観察での影響等を調べるための設備を整えた。また、申請予算で購入した3Dプリンタにより液晶素子固定の治具作製、素子駆動用のスイッチなどのインタフェースの筐体などの試作環境も整った。 素子の試作に関しては、最適なパラメータの探索などを現時点では行っていないが、これは「研究実績の概要」で述べたように、結果が良好であったためであり、遂行上の問題はない。 本研究では、本提案素子の色弁別補助装置としての評価方法も検討する必要がある。そのためには実験手順の構築も必要となった。研究協力者の意見なども取り入れながら、色票を使った実験などを繰り返し、パネルD-15テストで素子の補助効果が評価できることがわかった。 以上のように、2年目の研究遂行に向けて基礎となる環境および知見が得られたことから、「おおむね順調に進展している。」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の知見をもとにして、より実際の使用に適した詳細な評価を行う。特に使用形態に関しては、当初は平成30年度において行う予定であったが、実験協力者から眼鏡型の要望が強いことから、眼鏡型のデバイス作製を優先して行う予定である。 また、現在は素子の駆動はユーザーのスイッチ操作で直接行っているが、観察していると、ほぼ同じ周期で複数回駆動させ判断していることから、最適な素子の駆動すなわち透明-色付き状態の変化回数やスピードなども調査し、駆動回路側に一定時間駆動する回路・プログラムを有するインタフェースを作製しユーザーの負担を減らす操作方法の研究も行う。 本素子を用いた色弁別は、色の見えを直接用いるのではなく、液晶素子の特定の光に対する透過率変化の情報から、使用者は、それまで知覚したことがない、緑および赤の色味の量を推定する方法である。そのため、色弁別時は、直感的・主観的な判断ではなく、極めて論理的な推論を働かせる必要があるため、素子を使いこなすには色彩の知識の習得、色票を用いた素子の訓練が必要不可欠であることが、実験から得られた。そこで、実験協力者の意見を元に、効果的な訓練資料・手順の構築を行う。 色弁別の環境として平成28年度は色票を主に用いて実験を行ってきたが、ディスプレイを用いた実験も行う。ディスプレイに広く用いられている液晶ディスプレイおよび今後広がりが期待される有機ELディスプレイを用いる。これらは、偏光やスペクトルの鋭さなどに違いがあるため、色票を用いた実験結果とは異なる可能性もある。違いが生じた場合は、補助装置の色素の変更や、液晶の駆動方式の変更などを試みる。
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