2016 Fiscal Year Research-status Report
向社会的関係性に基づく認知症の社会的リハビリテーションの提案
Project/Area Number |
16K12968
|
Research Institution | National Center for Geriatrics and Gerontology |
Principal Investigator |
牧 陽子 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 研修開発研究室, 室長 (60642303)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 弘司 比治山大学, 現代文化学部, 教授 (00243527)
廿楽 真紀子 (高尾真紀子) 法政大学, 政策創造研究科, 教授 (30768437)
小川 敬之 九州保健福祉大学, 保健科学部, 教授 (50331153)
山口 智晴 群馬医療福祉大学, リハビリテ-ション学部, 准教授 (50641461)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 認知症 / 社会参加 / 社会的リハビリテーション / 向社会性 / 社会的包摂 / 認知症の社会的理解 / 互恵性 / 認知的共感 |
Outline of Annual Research Achievements |
28年度は心理実験、介入の前提として地域住民対象のセミナー、文献調査、先進事例検討、及びインターネット調査を実施した。調査は、認知症のリハビリテーション(リハ)として社会に受け入られる向社会的関係性を基礎とした社会参加の方向性の探索を目的として、全国20歳以上の男女1600名を対象とし、認知症の社会参加に対する一般の人の受容意識を尋ねた。質問項目は、地域社会の課題の認識、地域活動・ボランティア活動の有無など地域との関わり、生活満足度・主観的幸福度、認知症の理解、介護経験の有無、認知症の人との接触、認知症に対する意識・態度、認知症の予防や支援、社会参加の取組についての評価、参加意向、参加理由及び不参加理由等である。一次解析の結果、認知症に対する意識・態度についての探索的因子分析では、認知症の予防、知識、認知症の人の社会における受容等、認知症に関する関心全般に関わる因子、認知症に関する否定的な感情に関する因子、認知症への無関心因子の3つの因子が抽出された。認知症の予防や支援に関する取組についての評価では、「望ましい+やや望ましい」が7~8割を占め、概ね好意的な評価であり、特に「認知症の人や家族が気軽に相談ができる『まちの保健室』」や「運動などによる介護・認知症予防教室」等の評価が高かった。客や来場者としての参加意向は「参加したい+やや参加したい」が4~5割で、「運動などによる介護・認知症予防教室」「認知症の人や家族が気軽に相談できる『まちの保健室』」、「まちの清掃活動、花壇づくりなどに認知症の人が参加」の参加意向が高い傾向が見られた。運営スタッフとしての参加意向は3~4割前後にとどまった。また、認知症についての意識、予防・支援の取組の評価、参加意向いずれにおいても、50代以上が20代~40代よりも高く、女性の方が男性よりも高かったが、年代差よりも男女差が大きい傾向が見られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度に実施した調査では、自分自身のための認知症予防活動への関心、当事者・家族のための医療・福祉相談の充実に加えて、認知症当事者とともに取り組む社会貢献活動への参加意向が示された。また、啓発活動として実施したセミナーの参加者へのアンケートでは、認知症当事者と共に取り組む社会貢献活動に積極的な参加意欲が示された。これらの結果から、認知症当事者の社会貢献活動の実施により、認知症当事者の社会参加・社会的包摂が広がる可能性が推察される。先行研究調査の範囲内では、健常高齢者の社会参加・社会貢献活動の認知症予防効果に関しての介入研究・疫学調査の報告がなされているが、認知症当事者のリハとしての効果検証はなされていない。実践先進事例として認知症当事者のボランティア活動参加や、デイサービス等のプログラムとして地域貢献活動においても、認知症当事者の生活の質(QOL)を高めるとともに、地域の認知症の理解促進にも資する可能性が確認されたが、認知症リハとしての位置づけはなされていない。経験的に認知症の進行予防、行動・心理症状の緩和に資すると認識されているものの、効果検証はなされていない。文献調査・実践事例の検討を通じて、本研究で、認知症当事者の社会貢献活動をリハとして位置づける必要性が確認された。 ポジティブ傾向の心理実験は、対照群となる健常成人のデータを取得し、健常成人ではポジティブ傾向の有意差は生じないことを確認している。今後、健常高齢者、疾患群のデータを蓄積していく。仮説は、表情認知において先行研究で報告をした、認知症高齢者認知のポジティブ傾向*が、前頭葉機能に関連する認知課題でも確認されることである。 *Maki Y, Yoshida H, Yamaguchi T, Yamaguchi H. International Psychogeriatrics. 2013; 25:105-10.
|
Strategy for Future Research Activity |
28年度の事例検討により、当事者を中心とした活動、及び介護保険事業所(デイサービス等)を中心とした小規模な社会貢献活動が実施をされていることが認められた。ただし、大半の事例では、認知症当事者の社会参加としての意味は付与しても、認知症のリハ・進行予防としての位置づけはされず、認知症当事者・介護家族・地域への効果評価もなされていない。さらに、個別に実施され、社会貢献活動として評価はされているものの、社会的リハとしての方法論としての検討はなされていない。社会的リハは、それぞれの地域に根付いていくことが要請され、社会資源・心理的背景等地域差が大きな要因となるが、汎化可能な要素もある。そこで、今年度は先進事例の実施方法を検討し、他地域でも実践可能な介入・効果評価の方法を検討する。 心理実験については、実験結果が日常生活に汎化されて初めて意味を持つと考えられる。認知症を医療として考える場合には、治療対象として、うつ傾向、無関心、暴力等行動・心理症状が焦点化されるが、残存機能を活かして支援をするリハでは、ポジティブ傾向の評価が重要な意味を持つ。28年度の調査に示されるとおり、地域社会では認知症に関しては、ネガティブなイメージが先行しているが、社会参加を促進するとともに、ポジティブ傾向を地域住民にも示していくことで、さらに、認知症の理解・社会参加が促進されることが予想されることから、心理実験の結果は介入方法に反映させることとする。 最終年度には、効果評価に基づいて、社会に実装可能な向社会的関係性に基づく認知症リハの提案を行う。リハの効果は通常、認知機能維持向上等認知症当事者の改善効果で評価されるが、社会的包摂は当事者の改善とともに、介護家族・地域社会にも良い影響をもたらすことにより促進されていく。そこで、本実験では、認知症当事者の改善とともに、介護家族・地域住民の効果評価も実施をする。
|
Research Products
(6 results)