2016 Fiscal Year Research-status Report
子供の貧困と芸術教育ーパイロット・プログラム(アート遠足)の実践ー
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16K12981
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
高橋 るみ子 宮崎大学, 教育学部, 准教授 (50197191)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 芸術教育 / 鑑賞教室 / 遠足 / ルーマニア / 子供の貧困 / 公共文化施設 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、県内の三つの公共文化施設で「アート遠足ver.ダンス」(以下、「アート遠足」という。)を実施した。 まず、7月に、宮崎県立芸術劇場を会場に、市内の小規模校3校(宮崎市立鏡洲小学校、同内海小学校、同浦之名小学校)の全校児童と、1保育園の年長児が参加する「アート遠足」を企画・実施した。内容は、大学教員による講話と2つの小作品で構成する50分とし、作品の上演については、宮崎と東京のダンスカンパニーに出演協力をお願いした。制作は、地域のアートNPO法人に協力をお願いした。ただし、本研究の目的「子供の貧困に端を発している文化芸術体験の貧困及び各祭の是正に資する」については、特に劇場関係者と共有することができなかった。しかし、10月に、都城市総合文化ホールを会場に、都城市立志和池小学校の2年生を対象に企画した「アート遠足」は、ほぼ理想に近い形(遠足の先にアートがある!)で「アート遠足」を実施することができた。内容は、大学教員による講話と1つの小作品で構成する30分とし、作品の上演については、宮崎と東京のアーティストに出演協力をお願いした。制作はホールにお願いした。ただし、教育委員会との連携・協力を仕組むことができなかった。そこで、3月に、川南町文化ホールを会場に、校区に児童養護施設のある小学校を含む2校(川南町立川南小学校、同東小学校)の全校遠足として「アート遠足」を企画・実施した。特筆すべきは、川南町と同教育委員会の共催である。 以上の実践から、「アート遠足」を実施する際の課題として、子供の文化芸術体験の貧困に対する問題意識について公共文化施設と共有する手立て、教育委員会との連携・協力の進め方等が明らかとなった。これらの課題とルーマニアで企画・実施したラウンドテーブルの内容については、12月に開催された第68回舞踊学会大会(宮崎市)で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
<研究初年度(平成28年度)の自己評価> 「生活保護世帯=貧困世帯」といった一般的なイメージにとらわれず、生活保護制度に補足されていない貧困の実態がもたらす子供期の種々の不利の中から、健康や学力と比べて要支援性が低い文化芸術的体験に焦点をあてることができた。また、従来の「平素と異なる生活環境にあって、見聞を広め、自然や文化などに親しむとともに、人間関係などの集団生活の在り方や公衆道徳などについての望ましい体験を積むことができるような活動」として「特別活動」の「学校行事」に位置づけられている「遠足・集団宿泊的活動」に対し、学校(研究協力校)や教員の脱学習を図ることができた。同じく「学校行事」の「文化的行事」と統合・精選して実施することができた。さらに、広域・複数の学校との連携・協力を図るだけではなく、公共文化ホール等に子供たちを招き入れる新しい「遠足」の形を提案することができた。. 一方、劇場法で学校との連携・協力を図ることが示された公共文化ホール等に、大学から、必要性が高くかつ効果的な支援を具体的に提案することができた。しかし、学校や児童・生徒から提案することはできなかった。したがって、公共文化ホ ール等が、これまでピンポイント的に取り組んできたアウトリーチ事業等を見直すといったような進展は見られなかった。また、日本以上に「子供の貧困率」が高いルーマニアの子供たちが、舞台芸術の教育プログラムを通じて、社会と向き合い、立ち向かい、居場所を見つける事例を紹介することはできたが、“貧困の連鎖”を断ち切る「貧困対策の推進」に対する地域(学校を含む)の興味・関心を高めるところまでは至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は,「特別活動」の「文化的行事」と「遠足・集団宿泊的活動」とを統合・精選した「アート遠足」を実施し、この“鑑賞教室をセットした遠足”が、子供の貧困に端を発している「文化芸術体験」の貧困及び格差の是正に資する試みであることを実証することである。研究の契機は、文化庁が実施する「文化芸術による子供の育成事業」等で明らかとなった宮崎県内の子供たちの文化芸術体験の貧困及び格差の実態である。そこで平成29年度(最終年度)は、以下の方法でに研究を 推進する。 昨年度の実践をまとめたフォットブックを作成し、継続・新規協力をお願いする公共文化ホール等に配布する。また、文化庁「文化芸術による子供の育成事業」の実施予定校に作成したフォットブックを配布し、研究協力の打診・お願いをする。そして、県外(いわき市)の実践も含めて、歓迎遠足やお別れ遠足等の全校遠足にとらわれず、学年遠足での可能性を探る。引き続き川南町教育委員会と連携・協力して、町内の複数校が参加するアート遠足を実施する。 学校や教員の「アート遠足」に対する興味・関心を高める方策として、次期学習指導要領の「社会に開かれた教育課程」と絡めた「アート遠足」を、附属学校園と協力して実施する。また、国内外の周知用に、ダイジェスト・ムービーを作成する。 研究報告書を作成すると共に、平成30年度には、この「アート遠足」(日本型教育)を海外へ輸出できるよう準備する。
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Causes of Carryover |
3月に川南町で実施した「アート遠足」に参加を予定していた川南町立東小学校がインフルエンザによる学級閉鎖となり、参加を取りやめた。東小学校は、校区に児童養護施設を有する学校ということで、学校とホールの往復にチャーターバスを手配した。このチャーターバスをキャンセルしたことで、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
生じた次年度使用額については、東小学校が再チャレンジできるよう、学校とホールの往復のためのチャーターバス料金として使用する。、
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