2017 Fiscal Year Research-status Report
高強度間欠的運動がミトコンドリアのピルビン酸の取り込みに及ぼす影響
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16K13014
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
榎木 泰介 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (70392701)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ミトコンドリア / 解糖系 / 酸化系 / 乳酸 / ピルビン酸 / エネルギー代謝 / 高強度間欠的運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、骨格筋の糖代謝における2つの代謝経路である解糖系と酸化系に注目し、一方を劇的に活性化させた際に、他方がどの様な影響を受けるのかについて検討する。 糖代謝における2つの代謝過程の分岐点はピルビン酸である。解糖系で産生されたピルビン酸の代謝運命は2通りで、乳酸に転換されるか、ミトコンドリアに取り込まれて酸化過程に進むかである。解糖系の亢進ではピルビン酸および乳酸が増加するが、これらのエネルギー基質が酸化系代謝に与える影響については、十分な見解が得られていない。 本研究では、特に解糖系過程を亢進する方法として間欠的高強度運動(HIIT)に注目し、初年度は、ラット骨格筋内の代謝酵素や膜輸送タンパク質の適応変化を検討した。2年目には、下肢骨格筋を解糖系筋と酸化系筋に分類して、その違いについて解析を進めるとともに、さらに骨格筋内に含まれるミトコンドリアに注目し、その適応変化について研究を掘り下げた。 特に本年度は、骨格筋よりミトコンドリアを抽出する実験手法について、検討を重ねた。先行研究から実験手法を3種類選定し、実験条件を変えながら試行し、改良を加え、ミトコンドリアの単離、抽出の精製度を見極めることを継続した。その結果、年度最終月に、学術的に満足を得られる精度とその方法を確立することができた。この実験手法をもって、ミトコンドリアに関連する酵素の測定を行い、それらを定量することに成功した。 次年度は、この実験方法を取り入れながら、糖代謝において、解糖系の活性化がミトコンドリアでの酸化代謝に、どの様な影響をもたらすのか、研究を進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、高強度間欠的運動(HIIT・4週間・週5回)もしくは持久的運動群(MIET・4週間・週5回)を実施した。HIITは特に解糖系の活性化、MIETは特に酸化系の活性化を狙い、本実験は個体(ラット)を対象に運動処方を用いた。採取した下肢骨格筋を酸化系筋と解糖系筋に分けて、骨格筋に局在するエネルギー基質輸送担体や代謝を担う酵素、筋グリコーゲンなど基質濃度の測定を進めており、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。 これまでに、解糖系を刺激するHIITが、速筋線維の解糖系に関する酵素・輸送タンパク質を増加させること、酸化系を刺激するMIETは対照的に、遅筋線維の酸化系に関する酵素・輸送タンパク質に影響を与えることが明らかとなった。HIITは解糖系の活性化を通じてピルビン酸と乳酸を産生することから、それに関する酵素(LDH・PDH)が増加することがわかった。加えて、HIITがピルビン酸を通じて、酸化系代謝にも影響を与える可能性が示唆される。一方、酸化系を刺激するMIETは、解糖系の活性化と速筋線維の動員が優位ではないことから、それらの変化はあまりみられなかった。 そこで2年目からは、骨格筋内で酸化代謝を担うミトコンドリアに注目し、上記分析と平行して、ミトコンドリアを骨格筋から単離精製・抽出する実験手技の検証を進めた。1年に及ぶ失敗の後、年度末3月の最終週に、学術的に満足できるレベルの手技を確立することができた。骨格筋からミトコンドリアのみを抽出し、HIITとMIETにおける適応変化の違いについて、検証を進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も初年度および2年目の実験を進めながら、最終年には特にミトコンドリアの適応変化について検証を行いたい。本研究はラット(個体)に運動刺激を行うものであり、細胞内の詳細なメカニズムを厳密にコントロール出来る実験条件ではないが、異なる運動刺激であるHIITとMIETが、それぞれ解糖系と酸化系を主として活性化し、またそれが双方の代謝にどの様な適応変化を起こしえるのかについて解明したい。 高強度のHIITでは、速筋線維の解糖系が活性化されるが、その際に細胞内のピルビン酸と乳酸の濃度が急激に上昇する。一方、70%強度ほどのMIETでは、遅筋線維の酸化系が活性化され、ピルビン酸と乳酸の濃度は低く安定している。このMIETでは、定常的なエネルギー供給のためにミトコンドリアが脂質を主に代謝している。ここで、HIITの高強度運動においても、多量に産生されたピルビン酸と乳酸は、いずれミトコンドリアで代謝されるならば、HIITも酸化系代謝を向上させる可能性が考えられる。この2年の研究では、骨格筋のエネルギー代謝周辺に関連する物質を測定してきたが、今後は、特にミトコンドリアに注目し、その増殖機構についても検討を進める。特に、解糖系と酸化系を連絡するピルビン酸の位置に注目し、ピルビン酸代謝関連酵素とその調整が、ミトコンドリア自体の量に依存するのか、細胞質のピルビン酸濃度に依存するのか、について検証したい。そのためには、筋細胞内にピルビン酸が多量に存在する条件も必要であり、大きな筋力発揮を必要とするレジスタンストレーニングや、運動意外にの薬理学的手法を用いることも候補とする。
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Causes of Carryover |
購入予定であった試薬(40% La-Na)が製造中止となり、適切な代替品を検討できず、購入が完了できなかった。 次年度に代替品(50% La-Na)を購入することで、測定実験を進めます
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Research Products
(3 results)