2016 Fiscal Year Research-status Report
運動時に賦活する機能的脳神経回路の同定と可塑性の探索
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16K13017
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
北 一郎 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 教授 (10186223)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西島 壮 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 准教授 (10431678)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 運動 / 機能的脳神経回路 / 免疫組織化学 / 行動神経科学 / 精神機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
スポーツ活動や運動は、身体にとどまらず、記憶・学習、情動反応、認知・実行機能といった多様な精神機能にも恩恵効果をもたらす。この多様性の背景には、運動が局所的な脳領域だけでなく、皮質及び皮質下の広範な脳領域間ネットワーク全体に協調的に作用することが関連していると考えられる。最新の神経科学は、安静時でさえも脳内神経回路の活動は無秩序ではなく一定の時空パターン(デフォルトモードネットワーク)を示すことを明らかにしているにもかかわらず、運動の恩恵効果を発現する機能的神経回路やそのリモデリングについては依然、解明されていない。本研究では、運動時に賦活する機能的脳神経回路の可視化を試み、さらに、その機能解剖学的可塑性について探索することを目的としている。本年度は、空間的に離れた脳領域間の協調的活動を検出するために、免疫組織化学法による脳機能マッピング法を応用したこれまでにない運動時の機能的脳神経回路の同定法の確立を目指した。その方略として、動物実験を用い、神経活動依存性遺伝子(最初期遺伝子)の発現から運動時に賦活する脳神経活動の時空間特性を明らかにし、それらの神経活動の領域間相関及び共変動の定量化を試みた。対象とする脳領域は、運動と情動に関連する領域(一次運動野・島皮質・海馬・視床下部室傍核・扁桃体基底外側核・扁桃体中心核・腹側被蓋野・黒質・縫線核・青斑核)とした。運動条件には、異なる運動強度(非運動、低強度運動、高強度運動)での30分間の急性トレッドミル走を用い、運動条件依存的な神経活動及び領域間相関パターンの抽出を試みた。結果として、運動は広範な脳領域の神経活動に影響を与え、運動条件により賦活領域の空間パターン及び脳領域間の関係性は変化することが示された。このことは、本研究で試みた新規手法が運動時に賦活化する機能的脳神経回路の探索に有効なツールとなる可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、脳全体の活動性を調べるため多領域の神経活動を同定する必要があり、本年度はまだ主要な脳領域のみの解析にとどまっており、これは、神経活動を視覚化したサンプルの画像取込装置(顕微鏡を含む)の老朽化・低機能によることが大きく、その結果、画像取込・解析に若干の予想を上回る時間を要している。さらに、神経活動の反応に予想を上回る個体差が若干みられ、実験操作の見直し、実験試薬の変更、結果の再解析に再検討の必要が生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の結果から、本研究で試みた新規手法が運動時に賦活化する機能的脳神経回路の探索に有効なツールとなる可能性が示唆された。しかし、現段階で実験手技・方法にいくつかの問題点がみられ、これらについて実験操作の見直し、実験試薬の変更、結果の再検証などを通して改善していかなければならない。その上で、運動により賦活化する機能的脳神経回路の探索について継続して検証し再現性のあるデータを収集するとともに、より精度の高い方法論の確立を目指す。さらに、脳機能に有益な効果をもたらす至適運動条件の確立に向けて本手法の応用可能性を高めるために、各種運動条件(強度、時間、期間、様式)を設定し、運動により賦活化する機能的神経回路について、以下の点から研究を推進する。1)運動時に賦活する機能的脳神経回路の同定法を確立し、運動時の脳機能マップを作成する、2)機能的脳神経回路の主要神経核(ハブ)とその脳領域間の解剖学的結合について明らかにし、機能と構造の相互作用について解明する、3)運動トレーニングによる機能的脳神経回路のリモデリング(可塑性)と行動変容(不安、うつ、記憶、本能行動)の関連を明らかにする。 これらの行動神経科学的及び脳機能解剖学的データをもとに、運動の恩恵効果発現に有効な脳神経回路及び神経活動の空間パターンを効率よく誘発する至適運動条件の抽出を試みる。
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Causes of Carryover |
本研究では、動物実験を用いて運動時に賦活化する機能的脳神経回路の同定を試みたが(方法論の確立)、神経活動の反応に、若干、予想を上回る個体差がみられ、実験操作の見直し、実験試薬の変更、結果の再解析に再検討の必要が生じたため、それらを改善するための試行錯誤や実験方法の再確認に時間を要したため、実験が予備的な段階にとどまり、予算についても一部は次年度に持ち越すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現時点での実験手技・方法の問題点に関して、実験操作の見直し、実験試薬の変更、結果の再検証などを通して問題点を改善するために使用する。その上で、運動により賦活化する機能的脳神経回路の探索について継続して検証を行い、再現性のあるデータを収集するとともに、より精度の高い方法論を確立するために使用する。また、同様の解析を、運動強度のみならず各種運動条件に適用し、運動条件依存的な機能的脳神経回路の同定及び可塑性について検討するために使用する。さらに、機能的脳神経回路と解剖学的神経回路及び行動変容の関係について明らかにする実験(免疫組織化学実験、トレーシング法、行動神経科学実験)を遂行するために使用する。
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Research Products
(7 results)