2016 Fiscal Year Research-status Report
腸管上皮幹細胞における加齢に伴うエピゲノム変化に着目した老化の分子機構の解明
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16K13051
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
齋藤 義正 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 准教授 (90360114)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ステムセルエイジング / 腸管上皮 / オルガノイド培養 / エピゲノム変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
オルガノイド培養法はEGFやR-spondin 1などの幹細胞維持に必須な因子を含む無血清培地で3次元培養を行うことで、Lgr5陽性の幹細胞を含む組織構造体(オルガノイド)をin vitroで培養・維持する画期的な技術であり、生体内の細胞と極めて類似性の高いin vitroでの研究を可能にした。本研究では、このオルガノイド培養技術により、若い幹細胞と老化した幹細胞を培養・維持し、網羅的な遺伝子発現やエピゲノム変化などを検討することでステムセルエイジングの解明を試みた。 カロリー制限によってニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存性のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)であるサーチュインが活性化し、哺乳類の寿命が延長することが報告されている。サーチュインがNAD依存性であることや、NADが加齢とともに体内で減少することから、NADの前駆体であるニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)の投与によりNAD濃度を体内で上昇させることが寿命の延長につながると考えられている。 4週齢および54週齢のC57BL/6マウスの腸管上皮からオルガノイドを樹立した。4週齢のマウス腸管上皮由来のオルガノイドは幹細胞が存在する突起状の陰窩コンパートメントが認められるのに対し、54週齢のマウス由来のオルガノイドにおいては、陰窩コンパートメントが認められず、徐々に細胞増殖が減退していく様子が観察された。さらにNAD前駆体を投与すると、Lgr5の上昇と共に幹細胞の増殖能回復が認められた。また、これらの一連の変化はエピゲノム変化が重要な役割を果たしていると考えられた。若い幹細胞においてはエピゲノム状態はほぼ均一に保たれているが、加齢に伴い自己複製を繰り返すことでエピゲノム変化が蓄積し、最終的には幹細胞の枯渇に伴う組織の機能不全や増殖異常につながると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要にも示した通り、これまでの研究により、若齢および老齢マウスの腸管上皮よりオルガノイドを樹立することに成功し、形態や増殖能を検討したところ、老齢マウスの腸管上皮より樹立したオルガノイドにおいてその増殖能が低下していることが明らかになった。さらに、NADの前駆体であるニコチンアミドを投与したところ、新たな幹細胞のマーカーであるLgr5の上昇と共に増殖活性が上昇することが確認された。以上から、本研究はおおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下の研究を予定している。 【エピゲノム変化および遺伝子発現変化の網羅的解析】 樹立したオルガノイドにおけるDNAメチル化やヒストン修飾などのエピゲノムの変化をバイサルファイト変換後およびクロマチン免疫沈降(ChIP)後のDNAを用いて次世代シーケンス解析を行うことで網羅的に探索する。また、マイクロRNAなどのnon-coding RNAを含む全遺伝子の発現変化をマイクロアレイによって網羅的に解析する。さらにその下流のタンパクレベルでの発現を二次元電気泳動および質量分析法によるプロテオーム解析によって行う。 【加齢制御遺伝子の探索とアンチエイジング医療への応用】 腸管上皮幹細胞におけるオミクスデータを用いてシステム生物学的解析を行い、加齢に伴う老化の過程で重要な役割を果たす遺伝子を探索する。また、特定された加齢制御遺伝子は、エピジェネティクス機構によってその発現が制御されていることが予想される。エピジェネティクス変化は基本的に可逆的であるため、樹立したオルガノイドにDNAメチル化阻害薬やヒストン脱アセチル化酵素阻害薬などの薬剤を添加することで、エピジェネティクス変化を人為的に制御することが可能かを検討する。加齢に関する重要な遺伝子の発現を制御できることが可能になれば、エピジェネティック治療がアンチエイジングを介してがんをはじめとする疾患の新たな予防戦略となることが期待される。
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Causes of Carryover |
これまでの研究において、マウス腸管上皮からオルガノイドを樹立したが、培養に用いるマトリゲルおよび増殖因子が当初予定していたよりも少量で済んだため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後、樹立したオルガノイドにおけるDNAメチル化やヒストン修飾などのエピゲノムの変化やマイクロRNAを含む全遺伝子の発現変化などの網羅的解析やDNAメチル化阻害薬やヒストン脱アセチル化酵素阻害薬などの投与実験を行う予定である。これらの研究を遂行するために、多くの試薬や消耗品等を購入しなければならないため、次年度使用学はその費用として使用する予定である。
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